暖かい沖縄で日本一早いシーズンインを楽しめる、美ら島オキナワセンチュリーラン。1860名のサイクリストが集まった大会翌日、4つのエリアでアフターサイクリングが行われた。地元を知り尽くしたガイドによって設計された魅力的なコースをめぐり、ローカルフードを満喫する、ゆったりライドをレポートしましょう。



今年も多くの人が楽しんだ美ら島オキナワセンチュリーラン2018今年も多くの人が楽しんだ美ら島オキナワセンチュリーラン2018
1日で160kmをめぐる美ら島おきなわセンチュリーラン。7つの市町村を駆け抜け、おきなわ中部エリアの魅力を楽しむことが出来るロングライドイベントであるが、それぞれの地域の持つ本当の魅力を味わうには、すこし駆け足気味の感は否めない。

次の関門を目指して先を急いでいた時、向かい風や登り区間でついつい下を向いてしまった時。もしかしたらすぐそばに、素敵なストーリーに満ちたスポットがあり、地域一押しの逸品が作られていたかもしれない。もしかしたら、定められたコースを少し外れたところに、宝物のような場所がたくさんあったのかも。

そんな、本大会を走るだけでは気づけなかった各地域の魅力に焦点を当て、地元を知り尽くしたツアーガイドに率いられ、じっくりまったりとライドを楽しみながらローカルの魅力を味わうことができるようにと、開催されるのがこのアフターサイクリングとなっている。

昨年は、恩納村と名護市の2か所が舞台となったアフターサイクリングだが、好評を受けて今年はさらに規模を拡大。読谷村とうるま市の2か所を加えた、合計4つのエリアで開催されることとなった。今回のレポートでは、160kmコースでしか通らないうるま市を舞台にしたアフターサイクリングの様子をお届けしよう。



壮大なスケールの海中道路壮大なスケールの海中道路
沖縄本島と平安座島(へんざじま)を結ぶ5.2kmの長大な海中道路。その名の通り、海のど真ん中を貫くように建設された巨大な橋(厳密には堤防なのだとか)のさらにど真ん中に位置する「道の駅あやはし館」が、うるま市のアフターサイクリングの集合場所となる。

昨日の160kmコースにて、最後から2番目のエイドステーションでもあり、迫りくる関門時間に追われながら、荒れ狂う向かい風をいなしてたどり着いたあやはし館だが、今日は皆さん(自分含め)車での移動。変わらず吹き付ける強風は変わらないものの、ここに至るまでの疲労度はゼロ、内燃機関の素晴らしさとすこしの味気無さを感じつつ、車から自転車を下ろす。

今回集まった皆さん、大会Tシャツで揃えているのはすごい!今回集まった皆さん、大会Tシャツで揃えているのはすごい!
昨日に引き続いての快晴で、今日も青い海と青い空が視界一杯に広がるなか、いそいそと準備に勤しむ。とはいえ、ゆるーいサイクリングとなるので、レーパンやジャージ、ビンディングシューズという出でたちは不要。むしろ自転車を降りて歩くことも多いので、スニーカーの着用がオススメされているほど。ということで、取材ということもあり上だけシクロワイアードジャージに着替えたら準備完了!こんなお手軽さも嬉しいところ。

さて、今回のアフターサイクリング、参加者の皆さんの持つ自転車が面白い。そう、なぜか全員がミニベロでの参加で、BD-1やブロンプトン、タイレル、さらにはデイトナのE-bikeまで、まるでミニベロ見本市のよう。参加要項には小径車に限る、とは書かれていなかったはずだけど……と、ロードしか持ってきていなかった筆者は少し不安になってしまうほど。

ちょっと焦りつつお話を伺うと、東京のミニベロ専門ショップ「サイクルハウスしぶや」の方々。今回のアフターサイクリングにみなさんで申し込まれたとのことで、なるほど納得。店長の渋谷さんのアシストもありテキパキ準備され、あっというまに10台を超える自転車が折りたたまれた状態から展開していく様子を見ていると、自分もフォールディングバイクが欲しくなってしまう(笑)

ガイドさんの先導のもと出発!ガイドさんの先導のもと出発! 海中道路は歩道を行く 海が近くて得した気分海中道路は歩道を行く 海が近くて得した気分


すぐそこまで海が迫る 昔は干潮時に歩いて渡れたのだとかすぐそこまで海が迫る 昔は干潮時に歩いて渡れたのだとか 信号で捕まった後続グループを待ってくれる信号で捕まった後続グループを待ってくれる


さて、準備が完了すればライド前のブリーフィングへ。ガイドを務めてくれるのはうるま市観光協会の原田さん。そして、楽しく安心できるライドを実現するために、サイクリングリーダーとしてJCGA(日本サイクリングガイド協会)の資格を持つガイドが2名帯同してくれるのもサイクリングガイドツアーに力をいれる沖縄ならではだろう。

さて、それでは早速出発!今日も北風が強く吹く海中道路だけれど、関門時間に急かされることなくゆったり走れば楽しいもの。空気抵抗を減らすために頭を下げているときには気づけ無かった風景のディテールがインプットされていく。とても遠くまで浅く広がる海、平安座島の切り立った地形、程よく足裏にかかるペダリングトルク。一つ一つの気づきを咀嚼しながら走っていくと、いつの間にやら海中道路を渡り終えているのだから不思議なもの。シャカリキに走った昨日よりも、体感時間としては短いのだから。

浜比嘉大橋を渡る浜比嘉大橋を渡る 橋の上からの絶景についつい笑顔がこぼれてしまう橋の上からの絶景についつい笑顔がこぼれてしまう


もずく漁船が橋の下を通っていったもずく漁船が橋の下を通っていった 浜比嘉島に到着浜比嘉島に到着


平安座島をかすめるようにして、さらにもう一つの橋を渡っていく。この先が今回のライドのメインディッシュとなる浜比嘉島(はまひがじま)だ。面積約2平方キロメートル、一周6.7kmと小ぶりな浜比嘉島だが、ここは沖縄を語る上でも大切な場所であり、多くのパワースポットに満ちた島なのだとか。

海岸線沿いに走っていくと、地続きとなった小島が浮かんでいるのが見える。これが最初のパワースポットである「アマミチューの墓」。沖縄開闢の祖とされる女神「アマミチュー(アマミキヨとも)」とその夫である「シルミチュー」が祀られている聖地だ。

アマミチューの墓に到着アマミチューの墓に到着
頭上に気をつけて!頭上に気をつけて! ここがアマミチューの墓ですここがアマミチューの墓です


沖縄のパワースポットといえば、アマミチューが降り立った久高島を臨む「斎場御嶽(せーふあうたき)」が有名だが、神話の中での重要度からすれば、沖縄中でも有数のスポットといえるのが、この浜比嘉島の「アマミチューの墓」だろう。今でも年頭拝みが行われ、島に住まう祝女(ノロ、いわゆる巫女やシャーマン)が祭事を行い、五穀豊穣・子孫繁栄を願っているという。こんな美しい島々を作ったというアマミチュー。きっと、芸術的な感性に富んだ神性だったのだろう。私たちが南国ライドを楽しめるのも彼女のおかげともいえる。

さて、浜比嘉島をさらに奥へと進んでいく現れる次なる目的地は「シルミチュー霊場」。そう、こちらも琉球神話ゆかりのスポットで、先ほど紹介した二柱の神々が住んでいたとされるパワースポットだ。沖縄の中でもひときわゆったりとした空気が流れる集落の中を通り過ぎ、ちょっとしたグラベルを走った先に現れたのはシンプルな鳥居と108段の階段。

108段の階段を登っていきます108段の階段を登っていきます
荘厳な空気につつまれたシルミチュー霊場荘厳な空気につつまれたシルミチュー霊場
歩きやすい靴が指定されている理由と、160km走った後の疲労の蓄積を痛感しつつ、よっこらせっと登り切った先には厳かな空気に満ちた洞窟が佇んでいた。伝承によると、アマミチューとシルミチューはここで沖縄に住む人々を増やしていたのだとか。そういったこともあり、子宝祈願のパワースポットとして多くの人々の信仰を集めてきた聖地である。洞窟の中はいくつも鍾乳石があり、奥の様子はうっすらとしか見えないものの、ピンと空気が張り詰める静謐な空間が広がっている。

2つの聖地を巡った後は、沖縄名物の塩(まーす)が生み出される製塩所で社会科見学タイムとしゃれこむ。浜比嘉島が属する与勝諸島の宮城島では「ぬちまーす」と呼ばれる世界一ミネラル豊富な塩が作られているほど、塩づくりが盛んなエリア。美しい海から生み出される塩が美味しいのは間違いない。

ハイビスカスの花が見守っているハイビスカスの花が見守っている ちょっとしたグラベルも登場ちょっとしたグラベルも登場


喜をつけます!喜をつけます! ようこそ!と幟を掲げるシーサーようこそ!と幟を掲げるシーサー


浜比嘉島の塩工房・高江洲製塩所で製塩方法の説明を受ける浜比嘉島の塩工房・高江洲製塩所で製塩方法の説明を受ける 竹の枝を伝って滴り落ちた海水が風に吹かれて蒸発し濃度を高くしていく竹の枝を伝って滴り落ちた海水が風に吹かれて蒸発し濃度を高くしていく


今回お邪魔したのは、浜比嘉島の塩工房・高江洲製塩所。昔ながらの製塩方法である「流下式塩田」で作られる塩はミネラルをバランスよく含んでおり、まろやかな味が特徴なのだという。一般に塩田といえば、海水を砂浜に撒いて、水分を蒸発させたのち、その砂をさらに塩釜で海水と共に煮込むことで塩を得るというものを想像されるだろう。

この流下式塩田はもう一歩進んだタイプの製塩方法となっており、より省力化が進められているのが特徴。海水をポンプでくみ上げ、緩い傾斜をつけた坂に流したのち、「枝状架」と呼ばれる設備へ。枝状架とは、木の枝をいくつも束ねたものをいくつも並べた棚のようなもので、枝にそって海水が滴り落ちるように工夫されたもの。滴り落ちる海水に南国の暖かい風が当たることで水分を飛ばし、塩分濃度を上げた「かん水」を効率的に得ることができる。

やっぱりきれいな風景を見たら撮影したくなるものやっぱりきれいな風景を見たら撮影したくなるもの 砂浜の貝殻の種類をガイドさんに教えてもらう砂浜の貝殻の種類をガイドさんに教えてもらう


秘密のビーチで記念撮影!秘密のビーチで記念撮影!
色とりどりのシーサーがお土産になっていました色とりどりのシーサーがお土産になっていました かわいらしい塩釜たち 塩づくり体験で使えるのだとかかわいらしい塩釜たち 塩づくり体験で使えるのだとか


組み上げられた枝状架はかなりの大迫力で、そこから激しい雨のように海水が滴り落ちていく。この工程を経ることで、塩分濃度を20%程度まで上げるのだとか。ちなみに普通の海水が3.5%程度で、同じ量の海水とかん水を持つと、明らかに重さが違うのがわかる。

そんな説明を受けた後は、原料となる海水を取っている秘密のビーチへ。緑のトンネルを抜けた先には白い砂浜が広がっていて、皆さん思わずテンションアップ!しばし水と戯れたあとは、お土産を買いこみお昼ご飯へと出発!そうそう、このツアーではサポートカーが帯同するのでお土産をたくさん買っても持ち運びの心配はご無用というのが嬉しいところ。

お昼ご飯は丸吉食品へお昼ご飯は丸吉食品へ
来た道を引き返して、今度は島の西側へ。目指すは浜比嘉島のナンバーワングルメ、「丸吉食品」だ。漁港を目の前に佇む丸吉食品の名物メニューは、島の周辺でたくさん採れるもずくを使ったアイディア料理ということもあり、今回一行がいただくのは定番の沖縄そばに加えて、看板商品「もずくコロッケ」のセット。

実は160kmコースのエイドステーションでも振舞われていたこのコロッケ、今回は揚げたてを頂けたのだけれど、サクサクした衣とほくほくのジャガイモ、そこに粘りとプチプチ感をプラスするもずくの絶妙なコラボレートに磨きがかかっている。県外からも何度も食べにやってくるという方がいるというのも納得の味で、お替りしたくなってしまう。

定番の沖縄そば あっさりしていてぺろりと平らげられる定番の沖縄そば あっさりしていてぺろりと平らげられる
コロッケがおいしいー!コロッケがおいしいー! もずくが入ったもずくコロッケ 独特の食感が魅力もずくが入ったもずくコロッケ 独特の食感が魅力


陽当たりの良い縁側で気持ちよくお昼寝したい誘惑に駆られつつ、再び自転車にまたがり再出発。といっても次の目的地は丸吉食品からほとんど離れていないパワースポット「東(アガリ)の御嶽」。クランクを30回転もさせればすぐに到着するほどの距離感だ。

入り口に自転車を止め、うっそうとした藪をくぐるとそこには思った以上に広大な空間が広がっている。沖縄県内でもトップ5に入ると言われる巨大なガジュマルの樹がまるで柱のようになっており、その木陰が作り出す空間は自然のホールのよう。神秘的な空気に満ちており、この場所で神聖な儀式が持たれてきたというのも頷ける。

浜比嘉漁港の横を行く浜比嘉漁港の横を行く こちらは漁港に並んでいたもずくの養殖槽こちらは漁港に並んでいたもずくの養殖槽


大きなガジュマルに見守られた東の御嶽大きなガジュマルに見守られた東の御嶽
ここでは、シヌグ祭りと呼ばれる時化を祈願する祭事が行われてきたという。普通であれば航路の安全や漁業の繁栄のために凪を祈るものだけれど、ここでは違うというのが面白い。その理由は、戦に敗れた落ち武者が難を逃れるために浜比嘉島へ身を寄せたとき、彼らを匿った島民が、追っ手を阻むために時化を願ったのが始まりだという。美ら島おきなわセンチュリーランの時期には、シヌグ祭りは行われないということなので、一安心。

さて、陽もだいぶ高くなり、浜比嘉島のパワースポット巡りもこれにて終了。浜比嘉大橋、海中道路を今度は追い風を受けて走り、スタート地点へ。総走行距離は16kmと大会当日に比べれば10分の1程度。しかしながら、走り終わった時の満足感は勝るとも劣らない。

すぐに自転車を折りたためるのがフォールディングバイクの良いところすぐに自転車を折りたためるのがフォールディングバイクの良いところ 今回コースを設定してくれたうるま市観光協会のお二方 ありがとうございました!今回コースを設定してくれたうるま市観光協会のお二方 ありがとうございました!


コースから少し先へ足を延ばすだけで、こんなにも楽しめるスポットがあるなんて、このツアーに参加しなければ、きっと思いもよらなかった。場所ごとに表情を変える沖縄の姿を楽しむセンチュリーコース、距離が短い分濃密な時間を過ごすことが出来るアフターサイクリング。どちらもそれぞれの魅力があり、両方に参加することで、自分の中の沖縄像が立ち現れてくるように感じる。来年はどのアフターサイクリングに参加しようか、今から楽しみになってきた。


text&photo:Naoki.Yasuoka