2019/02/21(木) - 14:11
厳寒の北海道、オホーツクエリアで行われた流氷ライドの様子をレポート。マイナス10度は当たり前の真冬の北海道で、ファットバイクをはじめとした様々なアクティビティを楽しんだレポートをお届けしましょう。
昨秋、「これでもか!」と言わんばかりのおもてなし攻勢を仕掛けてくれた「もぐもぐライド(レポートはこちらより)」の仕掛け人、北見市の泉さんから届いた一本のメール。タイトルには「流氷ライド開催決定しました!」という文字が躍っていた。
「四季を通して北海道は魅力的なんですよ、冬は冬ですごいんだから!」と力説していた泉さん。確かに、オホーツクといえば流氷。流氷といえばオホーツク。それくらいのイメージはある。だが、流氷にライドするというのはどういうことだ……?アザラシかペンギンのためのイベントなのか?
そんな疑問を抱きつつ、送られてきた募集要項に目を通す。ふむふむ、流氷が流れ着いた海岸線をファットバイクで走って、流氷の状態が良かったらその上を走るかもしれないと。え、なにそれこわい。いきなり足元が割れたら、真冬のオホーツクに沈むしかないのでは?でも楽しそうかも……というより、そんなん日本だとオホーツクでしか出来なくないですか?
ちょっとした死への恐怖とそれを上回るワクワクがせめぎ合い、頭の中は疑問符で一杯に。でも、ヌクヌクとした編集部であれこれ想像していても埒はあくまい。ということで、女満別空港への往復チケットを予約するのだった。
ついに週末に開催が迫る中、いそいそと準備を進めつつネットを彷徨っていた私の目に飛び込んできた一つのニュース。「観測史上最低気温の寒波到来 北海道では-30℃に」。-30℃って、いったい何℃なんだ……。
しかも、東京でも大雪のおそれということで急に怪しげな雲行きになり、ヤキモキしつつ週末を迎えた。いざ蓋を開けてみれば、心配した雪もそこまで降らず羽田空港は平常運転。予定通り朝一の便で女満別空港へ降り立った。荷物を受け取り、出迎えてくれたオホーツクサイクリング協議会の皆さんと合流。荷物を積み込むべく、建物の外に出るとさむーい!
ちょうど設置されていた気温計を見れば-17℃。身を切るような寒さなのだが、「昨日はもっと寒かったからねー」と地元のみなさんは涼しげな顔。いや、温かそうな表情というべきか?とりあえず東京仕様の服では身がもたないので、分厚いスキー用のジャケットを着込むと、すこし生きていけそうな気がしてきた。
初日の目的は二つ、網走湖での氷上ファットバイク体験とワカサギ釣り、そして網走市街で行われる屋台村での寒中野外焼肉。だが、予定では午後の集合となっており時間が開いてしまう。ということで、泉さんが「じゃあ、常呂町に流氷を歩けるところがあるから行ってみましょう」ということで、さっそく流氷スポットへと繰り出すことと相成った。
雪道をゴトゴトと揺られながら30分ほど。あたり一面は真っ白で、もぐもぐライドで見た景色が雪の下にあるとはちょっと信じがたい。ところどころに動物の足跡があり、「何の動物なんですかねー」と車中で盛り上がる。
一躍有名になったカーリングチーム、ロコ・ソラーレが拠点を置く常呂町の海水浴場へ到着。雪に覆われた砂丘を超えると、いくつもの流氷が筋となったオホーツク海が奥に、そして接岸したままの流氷原が手前に広がっていた。
現実離れした景色に「うわぁ、すごっ…」と思わず声が漏れてしまう。砂浜を降りていくと、50cmほどの段差が。どうやら陸地と海の境目らしい。つまり、この先は氷の下は海水ということで、おそるおそる降り立った。
今、海の上に立っているのだ。ちょっと感動を噛み締めつつ、沖へと歩み出す。海水浴場のために置かれた消波ブロックまで氷原はずっと続いている。この氷原がこの日に残っていたのも消波ブロックのおかげだろう。数日前に完全に接岸した流氷が少し暖かくなって離岸した際、消波ブロックの内側にあった氷が取り残されたのだ。
なので、沖の方に行くにつれ氷が薄くなっている箇所がちらほら。ところどころ透明になっており水が噴き出している罅も見えるので、そういうところには近寄らないようにそろそろと歩く。時たまピシッと音がして、だんだん怖くなってきたので皆で陸地へ戻るのだった。
(※こちらの流氷スポットは取材のため、地元の方が同行の上、安全を確保し撮影しました)
流氷の段差のある波打ち際では少し海面が見える部分もあり、「クリオネいるかもですよ」なんてみんなで探してみたり、ゲストの絹代さんと菊浦さんの子供たちと一緒にはしゃいだり。とはいえ少しお腹も減ってきたので、ランチも兼ねて近くで行われていた「ところ雪んこまつり」へお邪魔することに。
ちょうどお祭りが始まったばかりで、地元の子供たちによる開会式、そして餅撒きに遭遇。お餅のおこぼれに預かりつつ、会場を見渡すと巨大な雪の滑り台が。どんどんと子供たちが大きな浮き輪に乗って滑り降りてくる。めっちゃ楽しそうなのだけれど、流石に大人が一人で混ざるだけの勇気は無かった。
振り返れば、雪中になぜか鮭やホッケ、烏賊などがそそりたっている。豊漁を願うための生贄の儀式だったりするのだろうか。それにしてもシュールな絵面だな、なんて思っていると始まったのは輪投げ!雪に刺された魚介類は輪投げの棒兼賞品で、見事引っかかった魚を持って帰れるというアトラクション。地元の男の子が大きな鮭に輪を通すと、一同どよめきの声があがる。こちらも参加したかったが、万が一大きな鮭を取ってしまったら、ここから3日間移動の車中が魚臭くなってしまいそうなので断念。
ずらりと並んだ屋台村で、ホタテご飯やホタテ饅頭、カーリングどら焼きなんかを買いこみ、もぐもぐタイムに。ホタテ饅頭は丸ごと大きな貝柱が入っていてびっくり。あっという間にお腹いっぱいになったので、午後着の皆さんを迎えに女満別空港へと取って返した。
さて、残りの面子とも合流したら初日のメインディッシュとなる網走湖へ。毎年全面結氷するこの湖は、氷上ワカサギ釣りのメッカとして道内各地、更には全国的に人が集まる人気スポット。そんな網走湖ですが、最近はファットバイクで凍った湖を走るアクティビティも用意されており、コースもしっかり整備されている。
凍り付いた湖面にはワカサギ釣りに興じる方々の色とりどりのテントが並んでいる。その隣に雪を除けて作られたコースでファットバイクを走らせることが出来るのだ。レンタルバイクもしっかりしており、スペシャライズドのFATBOYが用意されているので、サイクリストにとっても不満無し。サドル高を合わせたら、スタッフさんの先導でコースイン!
圧雪されたコースは見た目よりグリップしてくれ、不安な感じは全くない。ぎゅむぎゅむ、と太いタイヤで雪を押し込みつつ、前へと進む感覚は雪上ライドならでは。オンロードでもオフロードでも味わえない独特の乗車感はさっそく病みつきになりそう。
コースをぐるりと一周する間には、ちょっとテクニックが試されるスラローム区間なども。調子に乗って雪の壁にタイヤを当てながら曲がろうとしたら、そのままアウト側に刺さって盛大にコケたのはここだけの秘密だ。
圧雪コースでファットバイクに慣れて来たら、非圧雪の雪原へ挑戦。すぐにタイヤが埋まったり、雪ごと滑ったりするので、こちらはかなりテクニックとパワーが必要に。皆さんワイワイ言いつつ、進んではコケて面白いことこの上ない。コケても柔らかい雪の上なので全然痛くないので、無責任に笑っていられるのも最高だ。
全然進まない新雪の上で雪まみれになった互いの姿を笑いあっていると、だんだん慣れてきて走れるようになってくる。そうなるとどこまで行けるかに挑戦したくなるもので、なんだか自転車に乗り始めたばかりの子供のように夢中になってしまうのだった。
あっという間に時間が過ぎていたようで、ふと気が付くと「わかさぎの調理の受付はあと20分で終了します」というアナウンスが!そう、ファットバイク&ワカサギ釣りの予定だったことを忘れてしまうほどに、ファットバイクを満喫してしまった僕らは急いで用意された釣りテントまで駆け戻るのだった。
さて、天ぷらを作ってもらえるタイムリミットまで残り20分に迫り、慌てて餌を付けた仕掛けを氷上にあいた穴に投入。いろいろと説明が吹き飛んでいる気もしますが、つまり凍り付いた湖面をドリルで削った穴から魚を釣る、という中々にこちらもエクストリームなアクティビティなのだ。
狙うのはワカサギという淡水魚。例えていうなら、湖に住んでいるイワシのようなイメージで、群れを成して回遊する小魚だ。自分が仕掛けを置いているところに群れが通りかかればバタバタと何匹も釣れ、運と腕が良ければ一束(100匹)越えも狙える一方で、釣れないときは結構釣れなかったりもする。まあ、釣りなんてそんなものだし、水に糸を垂らしているだけで満足できる派の私としては、穴に仕掛けを放り込むという体験だけでもすでに結構満足しているのだけれど、皆さんには一匹でも釣っていただきたい、写真が撮れないので。
そんな切実な願いを胸に皆さんを応援していると、隣のテントから「釣れましたー!」との声。急いで駆け付けると、結構太めのワカサギがちょうど上がってくる頃だった。銀色の魚体が光を反射してキラキラ光っている。どうやら群れがタイミングよく来たようで、周りのテントでもぽつぽつと釣れだした。
釣れたてのワカサギを受付で天ぷらにしてもらい、揚げたてを頂く。サックリ揚がったワカサギ天は、新鮮で魚らしい味わいが最高!道内にも氷上でワカサギが釣れる湖はいくつかあるけれど、網走湖のワカサギは美味しいんですよ、と札幌から来られたワカサギ釣り歴3年のご夫婦。ちなみに道内でも最大のワカサギ漁獲量を誇っているのもこの網走湖。つまりビギナーでありながら、最高の環境でデビューさせてもらえたということである。自転車で言えば、ツールに出てくるようなコースをツーリングさせてもらうようなもの、かもしれない。
そろそろ日も傾き撤収の頃合いに。名残惜しみつつテントから出ると、いつの間にか沢山あったテントがだいぶ少なくなっている。ついつい粘ってしまっていたようで、つまりそれほど楽しかったのだけれど、この後の予定に向けて網走市内へと移動。
向かった先は網走の中心部にある商店街で行われている「オホーツク屋台村」。酷寒のオホーツクの夜に外で焼肉を食べよう!という、控えめに言ってどうかしている企画なのだけれど、網走の隣街である北見で行われる「北見厳寒の焼き肉まつり」はもっと寒い中で道内外から2000人も集まる人気イベントとして成功しているというのだから、人間というのは業の深い生き物である。やっちゃいけないことをやるのは楽しいし、やる必要もないことをやるのもまた楽しいもの。暖房の効いた室内で焼肉したって、美味しさに変わりは無いはずなのだ。そういう意味では、別にスポーツサイクルだってやる必要はないわけで、自転車メディアだって厳寒焼き肉まつりと本質的には同一の存在といえるかもしれない。
そういえば取材前に「ヤスオカさんまた北海道すか、良いご身分ですねー」とイヤミを言ってくるフジワラに「取材変わる?マイナス10℃で焼肉するんだよ、楽しそうでしょ!」と返したら、無表情で仕事に戻っていったのはなんだったんだろうか。世の中には分からないことが多すぎる。
さて、商店街を1ブロックまるっと使った会場には、ドラム缶コンロのBBQスペースと、そこで焼くための食材を販売する屋台がずらっと並んでいる。北海道らしくラムジンギスカンや牡蠣、ホタテなどを網に載せ、焼き上がりを待つ間に鯨けんちん汁や氷下魚(こまい)の煮つけなどを頂く。
焼きあがったアツアツのお肉をそのまま口に運んでもやけどしないのは、完全に気温のおかげだろう。濃いめの味付ジンギスカンをいただき、さっぱりしようと椅子の横においていたお茶を飲もうとしたら、なぜか中身が少ししか出てこない。なんでやねん、と思ってペットボトルを覗き込むと外側部分がシャーベット状になっているではないか。
気を抜けば全てが凍り付く世界である。冷えた身体に熱い食べ物を取り込むと、まだ自分が生きているという実感まで湧いてくるよう。生き残るために、食べるのである。外で食べるご飯ってなんでか美味しく感じるものだけれども、オホーツク屋台村の特別感は食の重要性を生存本能に訴えかけるところにあるのかもしれない。いや、実際はそんなにシリアスな雰囲気は微塵も無くって、純粋に美味しいから食べてるんですけど。
ひとしきり肉と海鮮をいただき、満腹になったところで少し会場を見て回る。氷で出来たカウンターのアイスバーやライトアップされたカマクラ、網走出身の演歌歌手・走祐介さんのコンサートや、現金掴み取り(!!??)が当たる抽選会なども催されており、寒さを吹き飛ばす盛り上がりと熱気に包まれているのだった。
一日中遊びつくした後は、今夜のお宿であるホテルひがしもことへ。道の駅「ノンキーランド ひがしもこと」に併設されたこちらのホテルは少し前にオープンしたばかり。トイレもお風呂もピカピカでとても快適。更なるプログラムが待つ2日目に備え、夜更かしもせずに夢の世界へ旅立つのだった。
text&photo:Naoki.Yasuoka
昨秋、「これでもか!」と言わんばかりのおもてなし攻勢を仕掛けてくれた「もぐもぐライド(レポートはこちらより)」の仕掛け人、北見市の泉さんから届いた一本のメール。タイトルには「流氷ライド開催決定しました!」という文字が躍っていた。
「四季を通して北海道は魅力的なんですよ、冬は冬ですごいんだから!」と力説していた泉さん。確かに、オホーツクといえば流氷。流氷といえばオホーツク。それくらいのイメージはある。だが、流氷にライドするというのはどういうことだ……?アザラシかペンギンのためのイベントなのか?
そんな疑問を抱きつつ、送られてきた募集要項に目を通す。ふむふむ、流氷が流れ着いた海岸線をファットバイクで走って、流氷の状態が良かったらその上を走るかもしれないと。え、なにそれこわい。いきなり足元が割れたら、真冬のオホーツクに沈むしかないのでは?でも楽しそうかも……というより、そんなん日本だとオホーツクでしか出来なくないですか?
ちょっとした死への恐怖とそれを上回るワクワクがせめぎ合い、頭の中は疑問符で一杯に。でも、ヌクヌクとした編集部であれこれ想像していても埒はあくまい。ということで、女満別空港への往復チケットを予約するのだった。
ついに週末に開催が迫る中、いそいそと準備を進めつつネットを彷徨っていた私の目に飛び込んできた一つのニュース。「観測史上最低気温の寒波到来 北海道では-30℃に」。-30℃って、いったい何℃なんだ……。
しかも、東京でも大雪のおそれということで急に怪しげな雲行きになり、ヤキモキしつつ週末を迎えた。いざ蓋を開けてみれば、心配した雪もそこまで降らず羽田空港は平常運転。予定通り朝一の便で女満別空港へ降り立った。荷物を受け取り、出迎えてくれたオホーツクサイクリング協議会の皆さんと合流。荷物を積み込むべく、建物の外に出るとさむーい!
ちょうど設置されていた気温計を見れば-17℃。身を切るような寒さなのだが、「昨日はもっと寒かったからねー」と地元のみなさんは涼しげな顔。いや、温かそうな表情というべきか?とりあえず東京仕様の服では身がもたないので、分厚いスキー用のジャケットを着込むと、すこし生きていけそうな気がしてきた。
初日の目的は二つ、網走湖での氷上ファットバイク体験とワカサギ釣り、そして網走市街で行われる屋台村での寒中野外焼肉。だが、予定では午後の集合となっており時間が開いてしまう。ということで、泉さんが「じゃあ、常呂町に流氷を歩けるところがあるから行ってみましょう」ということで、さっそく流氷スポットへと繰り出すことと相成った。
雪道をゴトゴトと揺られながら30分ほど。あたり一面は真っ白で、もぐもぐライドで見た景色が雪の下にあるとはちょっと信じがたい。ところどころに動物の足跡があり、「何の動物なんですかねー」と車中で盛り上がる。
一躍有名になったカーリングチーム、ロコ・ソラーレが拠点を置く常呂町の海水浴場へ到着。雪に覆われた砂丘を超えると、いくつもの流氷が筋となったオホーツク海が奥に、そして接岸したままの流氷原が手前に広がっていた。
現実離れした景色に「うわぁ、すごっ…」と思わず声が漏れてしまう。砂浜を降りていくと、50cmほどの段差が。どうやら陸地と海の境目らしい。つまり、この先は氷の下は海水ということで、おそるおそる降り立った。
今、海の上に立っているのだ。ちょっと感動を噛み締めつつ、沖へと歩み出す。海水浴場のために置かれた消波ブロックまで氷原はずっと続いている。この氷原がこの日に残っていたのも消波ブロックのおかげだろう。数日前に完全に接岸した流氷が少し暖かくなって離岸した際、消波ブロックの内側にあった氷が取り残されたのだ。
なので、沖の方に行くにつれ氷が薄くなっている箇所がちらほら。ところどころ透明になっており水が噴き出している罅も見えるので、そういうところには近寄らないようにそろそろと歩く。時たまピシッと音がして、だんだん怖くなってきたので皆で陸地へ戻るのだった。
(※こちらの流氷スポットは取材のため、地元の方が同行の上、安全を確保し撮影しました)
流氷の段差のある波打ち際では少し海面が見える部分もあり、「クリオネいるかもですよ」なんてみんなで探してみたり、ゲストの絹代さんと菊浦さんの子供たちと一緒にはしゃいだり。とはいえ少しお腹も減ってきたので、ランチも兼ねて近くで行われていた「ところ雪んこまつり」へお邪魔することに。
ちょうどお祭りが始まったばかりで、地元の子供たちによる開会式、そして餅撒きに遭遇。お餅のおこぼれに預かりつつ、会場を見渡すと巨大な雪の滑り台が。どんどんと子供たちが大きな浮き輪に乗って滑り降りてくる。めっちゃ楽しそうなのだけれど、流石に大人が一人で混ざるだけの勇気は無かった。
振り返れば、雪中になぜか鮭やホッケ、烏賊などがそそりたっている。豊漁を願うための生贄の儀式だったりするのだろうか。それにしてもシュールな絵面だな、なんて思っていると始まったのは輪投げ!雪に刺された魚介類は輪投げの棒兼賞品で、見事引っかかった魚を持って帰れるというアトラクション。地元の男の子が大きな鮭に輪を通すと、一同どよめきの声があがる。こちらも参加したかったが、万が一大きな鮭を取ってしまったら、ここから3日間移動の車中が魚臭くなってしまいそうなので断念。
ずらりと並んだ屋台村で、ホタテご飯やホタテ饅頭、カーリングどら焼きなんかを買いこみ、もぐもぐタイムに。ホタテ饅頭は丸ごと大きな貝柱が入っていてびっくり。あっという間にお腹いっぱいになったので、午後着の皆さんを迎えに女満別空港へと取って返した。
さて、残りの面子とも合流したら初日のメインディッシュとなる網走湖へ。毎年全面結氷するこの湖は、氷上ワカサギ釣りのメッカとして道内各地、更には全国的に人が集まる人気スポット。そんな網走湖ですが、最近はファットバイクで凍った湖を走るアクティビティも用意されており、コースもしっかり整備されている。
凍り付いた湖面にはワカサギ釣りに興じる方々の色とりどりのテントが並んでいる。その隣に雪を除けて作られたコースでファットバイクを走らせることが出来るのだ。レンタルバイクもしっかりしており、スペシャライズドのFATBOYが用意されているので、サイクリストにとっても不満無し。サドル高を合わせたら、スタッフさんの先導でコースイン!
圧雪されたコースは見た目よりグリップしてくれ、不安な感じは全くない。ぎゅむぎゅむ、と太いタイヤで雪を押し込みつつ、前へと進む感覚は雪上ライドならでは。オンロードでもオフロードでも味わえない独特の乗車感はさっそく病みつきになりそう。
コースをぐるりと一周する間には、ちょっとテクニックが試されるスラローム区間なども。調子に乗って雪の壁にタイヤを当てながら曲がろうとしたら、そのままアウト側に刺さって盛大にコケたのはここだけの秘密だ。
圧雪コースでファットバイクに慣れて来たら、非圧雪の雪原へ挑戦。すぐにタイヤが埋まったり、雪ごと滑ったりするので、こちらはかなりテクニックとパワーが必要に。皆さんワイワイ言いつつ、進んではコケて面白いことこの上ない。コケても柔らかい雪の上なので全然痛くないので、無責任に笑っていられるのも最高だ。
全然進まない新雪の上で雪まみれになった互いの姿を笑いあっていると、だんだん慣れてきて走れるようになってくる。そうなるとどこまで行けるかに挑戦したくなるもので、なんだか自転車に乗り始めたばかりの子供のように夢中になってしまうのだった。
あっという間に時間が過ぎていたようで、ふと気が付くと「わかさぎの調理の受付はあと20分で終了します」というアナウンスが!そう、ファットバイク&ワカサギ釣りの予定だったことを忘れてしまうほどに、ファットバイクを満喫してしまった僕らは急いで用意された釣りテントまで駆け戻るのだった。
さて、天ぷらを作ってもらえるタイムリミットまで残り20分に迫り、慌てて餌を付けた仕掛けを氷上にあいた穴に投入。いろいろと説明が吹き飛んでいる気もしますが、つまり凍り付いた湖面をドリルで削った穴から魚を釣る、という中々にこちらもエクストリームなアクティビティなのだ。
狙うのはワカサギという淡水魚。例えていうなら、湖に住んでいるイワシのようなイメージで、群れを成して回遊する小魚だ。自分が仕掛けを置いているところに群れが通りかかればバタバタと何匹も釣れ、運と腕が良ければ一束(100匹)越えも狙える一方で、釣れないときは結構釣れなかったりもする。まあ、釣りなんてそんなものだし、水に糸を垂らしているだけで満足できる派の私としては、穴に仕掛けを放り込むという体験だけでもすでに結構満足しているのだけれど、皆さんには一匹でも釣っていただきたい、写真が撮れないので。
そんな切実な願いを胸に皆さんを応援していると、隣のテントから「釣れましたー!」との声。急いで駆け付けると、結構太めのワカサギがちょうど上がってくる頃だった。銀色の魚体が光を反射してキラキラ光っている。どうやら群れがタイミングよく来たようで、周りのテントでもぽつぽつと釣れだした。
釣れたてのワカサギを受付で天ぷらにしてもらい、揚げたてを頂く。サックリ揚がったワカサギ天は、新鮮で魚らしい味わいが最高!道内にも氷上でワカサギが釣れる湖はいくつかあるけれど、網走湖のワカサギは美味しいんですよ、と札幌から来られたワカサギ釣り歴3年のご夫婦。ちなみに道内でも最大のワカサギ漁獲量を誇っているのもこの網走湖。つまりビギナーでありながら、最高の環境でデビューさせてもらえたということである。自転車で言えば、ツールに出てくるようなコースをツーリングさせてもらうようなもの、かもしれない。
そろそろ日も傾き撤収の頃合いに。名残惜しみつつテントから出ると、いつの間にか沢山あったテントがだいぶ少なくなっている。ついつい粘ってしまっていたようで、つまりそれほど楽しかったのだけれど、この後の予定に向けて網走市内へと移動。
向かった先は網走の中心部にある商店街で行われている「オホーツク屋台村」。酷寒のオホーツクの夜に外で焼肉を食べよう!という、控えめに言ってどうかしている企画なのだけれど、網走の隣街である北見で行われる「北見厳寒の焼き肉まつり」はもっと寒い中で道内外から2000人も集まる人気イベントとして成功しているというのだから、人間というのは業の深い生き物である。やっちゃいけないことをやるのは楽しいし、やる必要もないことをやるのもまた楽しいもの。暖房の効いた室内で焼肉したって、美味しさに変わりは無いはずなのだ。そういう意味では、別にスポーツサイクルだってやる必要はないわけで、自転車メディアだって厳寒焼き肉まつりと本質的には同一の存在といえるかもしれない。
そういえば取材前に「ヤスオカさんまた北海道すか、良いご身分ですねー」とイヤミを言ってくるフジワラに「取材変わる?マイナス10℃で焼肉するんだよ、楽しそうでしょ!」と返したら、無表情で仕事に戻っていったのはなんだったんだろうか。世の中には分からないことが多すぎる。
さて、商店街を1ブロックまるっと使った会場には、ドラム缶コンロのBBQスペースと、そこで焼くための食材を販売する屋台がずらっと並んでいる。北海道らしくラムジンギスカンや牡蠣、ホタテなどを網に載せ、焼き上がりを待つ間に鯨けんちん汁や氷下魚(こまい)の煮つけなどを頂く。
焼きあがったアツアツのお肉をそのまま口に運んでもやけどしないのは、完全に気温のおかげだろう。濃いめの味付ジンギスカンをいただき、さっぱりしようと椅子の横においていたお茶を飲もうとしたら、なぜか中身が少ししか出てこない。なんでやねん、と思ってペットボトルを覗き込むと外側部分がシャーベット状になっているではないか。
気を抜けば全てが凍り付く世界である。冷えた身体に熱い食べ物を取り込むと、まだ自分が生きているという実感まで湧いてくるよう。生き残るために、食べるのである。外で食べるご飯ってなんでか美味しく感じるものだけれども、オホーツク屋台村の特別感は食の重要性を生存本能に訴えかけるところにあるのかもしれない。いや、実際はそんなにシリアスな雰囲気は微塵も無くって、純粋に美味しいから食べてるんですけど。
ひとしきり肉と海鮮をいただき、満腹になったところで少し会場を見て回る。氷で出来たカウンターのアイスバーやライトアップされたカマクラ、網走出身の演歌歌手・走祐介さんのコンサートや、現金掴み取り(!!??)が当たる抽選会なども催されており、寒さを吹き飛ばす盛り上がりと熱気に包まれているのだった。
一日中遊びつくした後は、今夜のお宿であるホテルひがしもことへ。道の駅「ノンキーランド ひがしもこと」に併設されたこちらのホテルは少し前にオープンしたばかり。トイレもお風呂もピカピカでとても快適。更なるプログラムが待つ2日目に備え、夜更かしもせずに夢の世界へ旅立つのだった。
text&photo:Naoki.Yasuoka