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日本屈指の強豪チームとして名高いキナンレーシングは今年、コルナゴに乗ってレースを戦う。チームは既にツール・ド・フランス2連覇を支えたV3Rsと共にUCIアジアツアーを回っており、新加入のライアン・カバナがニュージランド・サイクラシックでステージ2位を獲得。コルナゴのフラッグシップモデルの性能が存分に発揮されている。

シーズンを前にV3Rsを手にしたキナンの選手たちも好印象を語っており、今回インプレッションを担当した畑中勇介は早速ブログにその評価を綴っている。そんな畑中と、なるしまフレンドで長年バイクの進化を見届けているチーフメカニック、小西裕介が新型V4Rsをテストした。

インプレッションライダー・プロフィール

今季よりコルナゴに乗り始めた畑中勇介(キナンレーシング、右)、老舗プロショップのメカニックとして活躍する小西裕介 photo:Makoto AYANO

畑中勇介(キナンレーシング)
2021年シーズンよりキナンレーシングに所属し、チームの躍進に大きく貢献するベテラン・パンチャー。2017年には全日本チャンピオン、2011年のツール・ド・おきなわ(第2ステージ、ロードレース)で優勝、2010年のジャパンカップでは3位表彰台を獲得するなど国内の主要UCIレースで好成績を残す。Jプロツアーでも2010年、2011年で年間総合優勝を果たしたトップレーサー。

オフィシャルブログ
キナンレーシングチーム

小西裕介(なるしまフレンド)
なるしまフレンド神宮店メカニックチーフ。長年実業団登録選手として活躍し、国内トップレベルのレーサーとしてホビーレースで数多くの優勝経験を持つ。レース歴は20年以上に及び走れるスタッフとして信頼を集めながらもメカニックの知識も豊富で、走りからメカまで幅広いアドバイスをお客さんに提供する。

なるしまフレンド(CWレコメンドショップページ)
なるしまフレンド(公式WEBページ)


キナンレーシングとコルナゴの邂逅 世界最高峰のオールラウンドバイクとは

V4Rsの前に、V3Rsの性能に着目

全方位で進化を遂げたV4Rsをテストした小西裕介(なるしまフレンド、右)と畑中勇介(キナンレーシング、左) photo:Makoto AYANO
―V4Rsの印象を伺う前に、V3Rsの進化版ということもあるので、1月からV3Rsに乗っている畑中さんにコルナゴ全体の印象について伺いしたいと思います。

畑中:コルナゴに乗る前は”伝統を重んじるブランド”という印象で、乗り味については無知でした。ただ、偉大なチャンピオンたちが乗ってきた歴史もあり、直近ではツール・ド・フランスを勝っているバイクなので不安はなく、期待しかありませんでした。実際にV3Rsに乗ってみると、その予想を遥かに超えてくるバイクでした。

コルナゴは新車の発表でも数値データを前面に推し出さないブランドではありますが、V3Rsの良さはそういった数値には表せない部分がすごく強いように感じます。見た目はオーソドックスな形なのに、細部まで工夫を凝らしているのだろうと推測できます。ジオメトリーも他メーカーとは違うアプローチをしていると聞いていますが、乗ってみた印象としては全く違和感のない、加えた力の全てが推進力へと繋がるような印象がありました。

2023年シーズンよりコルナゴ V3Rsで戦う畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

―「加えた力の全てが推進力に繋がる」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

畑中:自転車によってはハンドルを引いた方が進むバイクや、逆に押した方が進むバイク、ダンシングが得意、シッティングの方が感触が良いというキャラクターがあります。しかしV3Rsは何をしても推進力に変わる。こねくり回したようなペダリングでも進んでくれるし、どんな人でも、何をしても前に進んでくれるのです。そこが先ほど言った「数値に表せない部分」です。ここにコルナゴの伝統が成せる技を感じます。

―小西さんはV3Rsに乗ったことはありますか。

小西:つい先日、幸運にも乗る機会に恵まれました。今回のテストが決まっていたこともありそれを念頭に置きつつ試乗してみた所、僕好みのバイクでした。あまりに理想なバイク過ぎて、V4Rsがこれ以上進化しているのか不安にすら感じていたのですが、試乗してみたところそれは杞憂に終わりました。「フレームだけでこれほど乗り味が変わるのか!」と自転車の奥深さを感じました。正直、V3Rsの時点で完成度の高いバイクなのですが、V4Rsはとりわけ踏み出しとダンシングでの軽さが際立っていました。

「振りの軽さが際立つ一台」小西裕介(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

V4Rsの第一印象は"振りが軽い"

―話が図らずもV4Rsに移りました。V4Rsではエアロダイナミクスのテスト内容などが公開されました。

畑中:そうなんですよ。V4Rsの発表ではハンドルやフレームの造形による空力性能の改善が強調されていました。確かに実物のV4Rsはそこがシェイプアップされていたのですが、乗ってみたらエアロ以上にその”軽さ”の進化にビビりました(笑)。

V3Rsで既に振りの軽さは秀でている印象を持っていたのですが、V4Rsはそれを一瞬で上回ってきました。とにかく軽い。今回のテストバイクのように(自車よりも一回り)サイズが大きいバイクだと振りが重くなる傾向にあるのですが、公表されている軽量化が理由ではないような、根本的な軽さがあるんですよ。

「どのようなペダリングでも進んでくれる」畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

小西:コルナゴが示すデータによると、47gの軽量化(V3Rs:50サイズ、V4Rs:48.5サイズ)とあります。ですが、乗ってみた感覚はそれ以上の軽さを感じます。前作からもシルエットは大きく変わっておらず、またエアロロード然というよりも比較的オーソドックスな形状にもかかわらず、大幅な進化を感じるバイクであることに驚きました。

プロからみたエアロダイナミクス向上の恩恵

畑中:スペックシートでは表せないアップデートを感じつつ、その上でコルナゴが強調するエアロダイナミクスの進化が感じられます。

―空力性能はフレームの硬い/柔らかい、重い/軽いのような、感覚では言い表しづらい部分があると思います。改めてエアロダイナミクスの向上がもたらす恩恵は、具体的にどんなシーンで現れるのでしょうか。

「よく見るとエアロダイナミクスに配慮した形状がわかる」畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

畑中:その質問には前作V3Rsの印象も交えて答えさせてください。今回のテストの前に沖縄で合宿を行っていたのですが、沖縄って海風が強いんですよね。プロでも巡航時速が30km/hまで落ちてしまうぐらいの強風もありますし、風向きもコロコロと変わっていきます。

そのような状況下でもコルナゴのエアロダイナミクスは発揮され、パワーは今まで以上にセーブできていたし、横風に煽られにくく、風向きが変わっても車体への影響は最小限に抑えられていると感じました。その上でV4Rsのエアロはさらに磨かれているような印象です。小西さんも時速30kmでもエアロダイナミクスは感じられますよね。

「振りの軽さが際立つ一台」小西裕介(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

小西:確かにそれは感じられますし、コルナゴに関しては横風には強いのは間違いなくあります。ホース類を内装するというのはデメリットもあるかもしれませんが、メカ作業は我々ショップスタッフに任せていただければいいので、ポジションさえ合わせられればいいと思います。スマートな見た目で速く走れるという機能美を突き詰めるのはロードレーサーの進化の過程だと思っているので、エアロ化は受け入れたいですよね。

とはいえホビーライダーについてもエアロダイナミクスの恩恵は確実にありますよ。ソロライドをするならば、それは長距離・長時間の個人タイムトライアルとも言えるので、省エネで走っていてもスピードを維持しやすいというのは距離を伸ばせることにつながります。自転車が軽く、速く進化するのは正常なアップデートだと思います。

マージナルゲインは全てにおいて恩恵がある

「進化したエアロや軽量性は選手ならば全員が欲しがるもの」畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

畑中:エアロでセーブできるワット数のことを考えるのであれば、5ワット、1ワットは大きな差です。FTPという指標を1%でも上げるために選手たちは日々練習を行なっているので、そこを機材で補えるのであれば、選手は全員欲しいと思うのは当然です。

50gほどの軽量化も同じことが言えて、重いものを動かす力より、軽いものを動かす力の方が小さく、そのエネルギー量は計算することができます。減量で得られるエネルギー量の差を体の強化だけでカバーしようとするととてつもない時間がかかります。先ほど言ったように選手はそのために鍛錬をしているので、軽量化については突き詰めていきたいポイントです。

跨った瞬間に50gを感じられるかどうかはわかりませんが、100km、150kmのレースを走るのであれば絶対に軽い自転車にアドバンテージがあります。V4Rsに関して言えば、ダイエットしているにもかかわらず、ネガティブな要素が現れるどころか、走行性能が明らかに良くなっているのには驚きですよ。

「最初はV3Rsから進化しているか不安だったが、そんなのは杞憂に終わった」小西裕介(なるしまフレンド) photo:Makoto AYANO

小西:悪くなったところが一つも見つからないんだよね。

畑中:こんなに褒めてていいのか不安になるけど、悪くなったところはありませんよね。ポガチャルがツールで勝った時の山頂フィニッシュではリムブレーキ仕様を使っていたので、コルナゴのディスクブレーキバイクに不安があったのですが、V4Rsに乗ってみたら、ポガチャルは純粋にV3Rsリムブレーキ版を重量だけで選んでいたのだと思うほど、V4Rsの出来が良すぎます。

小西:最も大事なツール・ド・フランスでプロトタイプを投入するという時点で興味がありました。その時点でほぼ完成され切っていた物を、更に良いものをピックアップして発表されたのが今目の前にあるV4Rsなわけですよね。ディスクブレーキの重量面のデメリットを分かった上で選んでいるという信頼感は高いです。

フレーム性能を吟味する前に加速が終わっている

―話をフレーム剛性などに移したいと思うんですが、実際に乗ってみて剛性感についてはどう感じましたか。

「悪くなったところが見当たらない」畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

畑中:テストライド中に小西さんと話していたんですけど、乗っている時は正直わからなかったです。というのもフレーム剛性を感じる前に自転車が進んでしまって、テスト中は「進む!」としか言えませんでした(笑)。選手としては前に進んでくれる素晴らしい自転車であり、どのようなレースでもアドバンテージとなるのは直感的に伝わってきていました。どんどんスピードを乗せていきたくなってしまうんです。

テスト後の評価で剛性について求められるのは理解していたし、今回の試乗では普段から使い慣れて、感触を体が覚えているホイールとタイヤを使用したので、扱いやすさは変わらずに、剛性が高まっていることは伝わってきていました。しかし全ての要素・性能が高すぎて、何が良い影響を出しているのか、わかんなくなっちゃったんです。その理由を各要素の評価に落とし込もうと考えて、小西さんに「これって評価項目に当てはめると、どの項目にあたるんですか?」と質問したら、やっぱり剛性に当たるのではないかと。

小西:僕の感じ方としては、フレームが撓む前に自転車が加速しています。畑中君がどのようなペダリングをしても加速すると言っていたので、それは剛性が高いと言っても差し支えないと思います。

畑中:確かに単体でみた時にはフレーム剛性は高いんです。ただ剛性が高いバイクって悪い動きも少しあって、踏み方によっては硬すぎて進みにくいと感じて、そこで剛性感を判断することがあります。だから、どのように踏んでも進んでくれるV4Rsの剛性感が一瞬わからなくなってしまったんです。

バイクの振りの軽さが際立つと意見が一致する小西裕介(左)と畑中勇介(右) photo:Makoto AYANO

―高い剛性を備えており、その影響で高い瞬発力を実現しているということでしょうか。

畑中:その通りです。ペダリングと同時にハンドルを引いたり、体重をペダルに乗せたりすることがあるんですが、その動作が完了する前に加速が終了して、次のペダリングでまた加速します。絶えず瞬発力で走っているので、この自転車を走らせるのが楽しいんです。プロのためのレースバイクではありますが、どのような脚力の方でも長距離走を楽しめるでしょう。ただパワーをコントロールしないと、最初から楽しすぎて力を入れすぎてしまって、後半に体力を残せなくなるので気をつけてください(笑)。

小西:畑中くんが言うように瞬発力が高く、どのような速度域からのダッシュでもかかりが良く、トッププロのスプリントでもスピードが伸びて行きます。

剛性が高いバイクと言っても、剛性レベルが過剰すぎないことがV4Rsの魅力です。一昔前は剛性が高すぎて、ペダリングパワーがライダーに跳ね返ってきて、ギアを軽くした途端に進まなくなるバイクもあり、レースでペダリングを変えても粘りきれないというシチュエーションがありました。V4Rsは疲れてペダリングが乱れても推進力は変わらず発揮してくれ、ライダーを助けてくれます。

畑中:懐が深いから、踏めなくなっても最後の一踏ん張りが効きますよね。ツール・ド・おきなわの最終盤、羽地ダムの登りでアタックがかかる時は体が言うこと聞かない。その時に振り絞ったパワーを使うとバイクが少しでも前に出してくれると、ついていけるかもしれない。そこは大きなアドバンテージですよね。言い換えれば、自らアタックを仕掛けたときも強い武器となるでしょう。

「誰もがその性能の良さを感じられるでしょう」畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

小西:誰もがV4Rsの性能を感じられると思いますし、この自転車が嫌いな人はいないと思います。

畑中:V4Rsでジオメトリーが更新されたんですよね。V3Rsの場合はフレームサイズに対してリーチの増減が一定ではなく、チーム内でもセッティングは慎重になりました。今作ではサイズ間のリーチ増減が一定となって、日本人に多い小さなフレームサイズでもポジションを出しやすくなっていて、バイクの性格がニュートラルなので、小柄な女性でも進めやすいバイクですし、良さを感じられるでしょう。

―ハンドリングについてはどうでしょうか

小西:速度の高低にかかわらず一貫したフィーリングでコーナリングを行えて、それが扱いやすさにつながっています。もし自分の想定よりも速いスピードでコーナーに進入しても曲がれてしまうクイックさもあり、ミスの修正も思い通りに自転車が動いてくれます。

畑中:ジオメトリーを確認するとハンドリングが独特なことが想定できますが、乗ってみると至ってニュートラル。速いスピードでも安全に走らせるための設計をコルナゴは行っているはずのため、自然に操れるということが正解なのかもしれません。プロの場合はコーナリングスピードを見誤ることは稀ですが、常にワンアクションのリカバリーが効く余裕があるのはありがたいです。特殊なジオメトリー設計はコルナゴの伝統、ノウハウの蓄積が成せる技なんでしょう。

「コーナリング中でアクシデントがあってもワンアクションで回避できる安心感がある」畑中勇介 photo:Makoto AYANO

誰にでも感じられる性能の高さが魅力

畑中:今回のインタビューで褒めてしかいないですが、これで大丈夫ですか? それでも、ネガティブな部分をあえて探すなら価格ですかね…。乗ってみたら明らかにいいバイクなので、試乗してから判断してもいいと思います。

小西:そう。乗ってくださいと自信を持って言えるバイクだと思う。それくらい良いものを作るから高くなってしまっています。UAEチームエミレーツ仕様のエンヴィ製ホイールを装着したパッケージで約200万円ですが、この仕様で乗りたいですよね。

両手放しで褒められるバイクという畑中勇介(キナンレーシング) photo:Makoto AYANO

畑中:想像を簡単に超えてくる性能は、ちょっとした試乗会でも伝わります。自転車に自分のペダリングを合わせる必要はなく、各自がこれまでの経験をもとに走らせてみると、加速感の良さを発揮させられると思うので、ぜひ乗ってもらいたいです。

小西:試乗会で性能が伝わるというのは、そう思います。自分も本格的にテスト走行を始める前に少しだけ走らせてみただけでも、これはただならぬ自転車だという予感がしましたし、そこからしっかりとテストを始めて、素晴らしい性能に確信を持てました。レースの世界で生まれたバイクなので、レーサーが乗ったら誰でも驚く一台でしょう。

畑中:チャンピオンたちが乗ってきた偉大な歴史のあるコルナゴのバイクは乗ってみてビッグレースで勝てる理由がわかりました。この良さは実際に試してもらいたいし、伝統と最新テクノロジーが融合したコルナゴの素晴らしさを皆さんに感じてもらいたいと感じた1台でした。

今季よりコルナゴに乗り始めた畑中勇介(キナンレーシング、右)、老舗プロショップのメカニックとして活躍する小西裕介 photo:Makoto AYANO
提供:アキボウ 制作:シクロワイアード編集部