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2022年末に発表されたコルナゴのフラッグシップモデル"V4Rs"。2023年シーズンも開幕からUAEチームエミレーツの選手によって勝利を量産している新型を徹底的に掘り下げよう。

レースがDNAに刻まれたイタリアンチクリ「コルナゴ」

ポガチャルをはじめ豪華メンバーを揃えたUAEチームエミレーツ photo:CorVos

コルナゴの歴史は常にレース、勝利とともにあった。創業より僅か3年でジロ・デ・イタリア総合優勝に輝いた後は、エディ・メルクスやジュゼッペ・サロンニらレジェンド選手とともに幾度となく栄光を掴み、世界中から信頼されるブランドへと成長を遂げたのは誰もが知るところだろう。

その後フレーム素材がスチールからカーボンに移り変わるなど時代が変遷する中でも常に存在感を放ち続けられているのは、ひとえにコルナゴが作るバイクはレースのためを考えて作られ、時代の最先端を走っているからに他ならない。カーボンラグ構造のC40は伝説的チームのマペイに供給され、枚挙にいとまがないほどの勝利を重ねたことで、歴史に残る名車として多くのサイクリストから憧れられる存在となった。

C40からスタートしたコルナゴのCシリーズはカーボンラグをアイデンティティに、2004年にC50、2010年にC59へと進化を遂げた。当時ブイグテレコムに所属した新城幸也がコルナゴのバイクでツール・ド・フランスを走り、2010年ジロ・デ・イタリア第5ステージで3位になっているのも忘れられない出来事だ。その後、"C"の歴史は2014年デビューのC60、2018年のC64、そして2022年のC68まで続くが、2010年ごろから軽量なモノコックフレームへと時代が移っていった。

2010年ツール・ド・フランス。2度目の完走を果たしピースサインの新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano

ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)のコルナゴ M10 photo:Makoto.AYANO
ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)のコルナゴ V1-r photo:Makoto.AYANO


ラグドフレームで栄華を極めたコルナゴのレース向けモノコックフレームはM10から本格的にスタート。新城はC59に跨り続けたが僚友ピエール・ロランはM10でツール・ド・フランス総合制覇を目指し、今のVシリーズに続く歴史の一歩を踏み出した。

そして、2015年にフェラーリとの共同開発で話題を呼んだ軽量エアロレーサー"V1-R"を発表。軽量フレームとエアロフレームがまだ大きく分かれていた頃からコルナゴがエアロオールラウンダーを開発していることにもブランドの革新性は現れている。そして、ここから本格的にレースで勝つためのバイクとしてのVシリーズが成長を始める。

V1-Rのローンチから2年後の2017年に早くも第2世代のV2-Rを発表。引き続きエアロ、軽量性、剛性という今のバイクに求められる全てを強化しており、着実にレーシングバイクとしての性能に磨きをかけた。さらに2年後の2019年にはV3Rsを発表。Cシリーズが4年おきにモデルチェンジが行われるのに対し、レース機材としてチームに供給されるようになったVシリーズは日進月歩で進化するレースシーンに合わせるように2年おきに新型が発表された。

UAEチームエミレーツ / コルナゴ V2-R photo:Kei Tsuji

V3Rsがデビューした翌年2020年のツール・ド・フランスでタデイ・ポガチャルが劇的な総合優勝を遂げ、V3Rsの性能の高さを証明。コルナゴの長い歴史の中で、初となる栄冠をついに勝ち取った。翌2021年のツールもポガチャルの活躍と総合連覇の実績は記憶に新しい。

2022年のツール・ド・フランス直前にコルナゴはPrototipoというプロトタイプを発表。UAEチームエミレーツは大一番にまだ見ぬ新作で臨むことに。UAEチームエミレーツはコルナゴが選手が望むものを実現したという信頼があったのだろう。その信頼を裏付けるのはコルナゴがこれまで積み重ねてきた勝利の伝統に他ならない。レースの結果こそ、惜しくも総合優勝には届かなかったものの、新型の性能はポガチャルやマクナルティの活躍を通じ、非常に高いレベルにあることを期待させる結果となった。

ポガチャルがシャンゼリゼで駆ったイエロー仕様のコルナゴV3Rs photo:Makoto.AYANO

そんな新型の詳細が2022年末に明らかにされた。モデル名は順当にV4Rs。コルナゴはこれまで以上に開発データを公にし、V4Rsの完成度の高さをアピールした。今回は改めてV4Rsの特徴をおさらいしつつ、第2ページでは今シーズンよりコルナゴのバイクに乗るキナンレーシングの畑中勇介と老舗プロショップなるしまフレンドのテック長小西裕介によるインプレッションをお届けしよう。

タデイ・ポガチャル(スロベニア)のコルナゴ PROTOTIPO(ツール・ド・フランス2022) photo:Makoto Ayano

BUILT TO WIN 全てはレースのために生み出されたV4Rs

FROM RACE TO RACE プロ選手から直接フィードバックを受けるアプローチ

コルナゴはV4Rsの開発にあたって「エアロダイナミクス」「重量」「リアル・ダイナミック・スティフネス」「サイズ&ジオメトリー」「堅牢性とメンテナンス性」についてUAEチームエミレーツの選手から直接フィードバックを求めた。彼らの声をもとにコンセプト設計を行い、レース環境下での検証を実施。特に最後の実地テストはバイクの開発に大きな影響を与えた。

それは、自転車というものは構成する様々な要素の単純な和ではなく、システム全体として相互に作用しあう複雑な系であるから。つまり、限界性能を引き出すレース環境が最良の実験室となり、UAEチームエミレーツとともにV4Rsに磨きをかけた。その大仕上げがツール・ド・フランスであったことは想像に難くない。それではそれぞれの要素を紹介しよう。

コルナゴ V4Rs photo:Makoto AYANO

現代のレーシングバイクに不可欠なエアロダイナミクス

近年のレーシングバイクにエアロダイナミクスは必要不可欠だ。マージナルゲインという言葉とともに科学的なアプローチを採用し、勝利のために準備を整えるチームが登場したことで1W、1gの損失も見過ごさず、丁寧に掬い取ることが当たり前となった。各ブランドが形状デザイン、素材の選定、配置設計といった研究を徹底的に行っており、コルナゴはVシリーズでそれを結実させてきた。

エアロダイナミクスに優れるステム一体型ハンドルバーのCC.01 photo:Makoto AYANO

CC.01はトップが薄くなり前方投影面積が小さくなる (c)Colnago

V4Rsが前作を上回るエアロダイナミクスを獲得するべく採ったアプローチは、Cd値(空気を受ける面積)を低減し、エアフローへの影響を最小限に抑えるステム一体型ハンドルバー"CC.01"、左右方向には絞り込まれつつ前後には長めの形状のヘッドチューブ、それと一体となるフォーククラウン周りの造形をトータルで設計すること。これらの要素全てで、抵抗を発生させる面を前作比で16%低減することに成功した。

さらに全ての要素を同時に開発することで、ケーブルの内装システムも煮詰められた。V3RsではD型断面のフォークコラムで生まれた空間にケーブルを通していたが、今作では丸型コラム+大径ベアリングの組み合わせでケーブルを内装。前作よりも大きなベアリングを採用しつつも前方投影面積が小さいヘッドチューブ造形を実現しており、エアロを犠牲にせず、フロントエンド全体の安定性をもたらした。

D型シェイプによって後端部が切り落とされたような造形となっている photo:Makoto AYANO
先代より絞り込まれたヘッドチューブ photo:Makoto AYANO


ハンドルバーもコルナゴによるデザインが施されているため、エアロと同時に軽量性と剛性も両立している。また50km/h時に0.75Wを削減するという3Dプリント製の専用サイクルコンピューターマウントも用意されたことも専用設計が成せる技だ。なお、このマウントは現時点ではワフー ELEMNT BOLT V2のみ対応している。

またコルナゴはステム一体型ハンドルバー"CC.01"を想定して空力設計を行なっているが、一般的な製品も使えるような仕様となっているため、エアロを重視するか、サイジングを重視するかはユーザーに委ねられている。

コンパクトなリア三角はエアロと耐久性を備えている photo:Makoto AYANO
エアロダイナミクスを意識したD型断面のダウンチューブ photo:Makoto AYANO
フロントフォークもD型断面とされている photo:Makoto AYANO


もちろんフロントセクションだけが変更されたわけではない。ダウンチューブ側のボトルケージ台座部には窪みが設けられ、前作より細身かつD型断面のシートチューブ/ポスト、TTバイクで採用されるような横に張り出したシートステーの付け根など各部がブラッシュアップされている。

これらのアップデートによってV4Rsは、50km/h走行、ヘッドユニット、ボトルケージ2つ装着、ボトル無しという条件で、風向き正面と様々な風向きを現実的に遭遇する確率に従って加重平均した数値(WAD)で以下の結果を出した。この時は自転車のみ(ライダーは考慮せず)、ホイールは回転させている。

バイク+ホイール単体でのエアロ性能を比較。最も値が小さいグラフはホイールBを装着した場合。オレンジのラインがホイールAを装着した様子 (c)Colnago
フレーム+ホイール
V3Rs(リム、ホイールA) V4Rs(ホイールA、スタンダードヘッドユニット) V4Rs(ホイールB、スタンダードヘッドユニット) V4Rs(ホイールB、エアロヘッドユニット)
ヨー角無し 2%(2.2W) 6%(6.5W) 10%(11.2W) 9%(10.6W)
WAD 4%(4.5W) 4%(5.2W) 14%(17.5W) 16%(19.2W)
バイク+ホイール+ライダー(ペダリング中)でのエアロ性能を比較。ホイールAを装着したV4Rsは安定した性能を実現している (c)Colnago

さらにコルナゴはライダーが乗車し、ケイデンス90回転/毎分のペダリングの結果も測定。ライダーが乗った状態では前作に対して3%、パワーデータとしては13.2Wの空力向上を果たした。さらに複数種類のホイールを履き比べたテストも実施しており、最も優れた組み合わせ(ホイールB)では27.7W(16%)も数値が改善したという。
フレーム+ホイール+ライダー(ケイデンス90)
V3Rs(リム、ホイールA) V4Rs(ホイールA、エアロヘッドユニット) V4Rs(ホイールB、エアロヘッドユニット)
ヨー角無し 0%(0.8W) 2%(7.7W) 5%(20.0W)
WAD 1%(3.9W) 3%(13.2W) 6%(27.7W)
47gの重量差はフレームキット+コックピット+ヘッドセットで生じる。フレーム単体では+3g、フォーク単体では-15g、フレームキットでは-12g (c)Colnago

このようにトータルで設計を行なった結果、コックピットとヘッドセット込みのパッケージ重量がV4Rsが1,668gに仕上がり、1,715gのV3Rsよりも47gのダイエットに成功している。フレーム単体では798g(V3Rs:795g)と3g増加しているものの、フォークは375g(V3Rs:390g)と15g削減されており、エアロを強化しながらも重量アドバンテージを獲得した。

ライドポジションに合わせた剛性の新指標 リアル・ダイナミック・スティフネス

ポジションによってフレームに対する力のかかり方が変化する photo:Makoto AYANO

またコルナゴはV4Rsの開発にあたってリアル・ダイナミック・スティフネスという新たな剛性指標を打ち出した。スプリント、シッティングでのヒルクライム、石畳など状況ごとに自転車にかかる負荷は異なることに着目し、それをフレーム開発に落とし込むことを目指す指標だ。

複雑な指標を計測するためにコルナゴは、これまで一般的な試験であった特定部位に単一方向から静的に入力する手法ではなく、独自の計測手法を開発した。テストとそれから得られる指標の組み合わせがリアル・ダイナミック・スティフネスのキーポイントであり、V4Rsの完成度を高めた。独自試験でシミュレーションできるのは主にスプリントポジションと、シッティングでのヒルクライムポジションの2つ。

集団スプリントで先頭に立つディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

スプリントポジション

スプリント時はハンドルバーとボトムブラケットに大きな力がかかる。例えばハンドルバーには押したり引いたりする力が加わり、ボトムブラケットには自転車の軸とはずれた方向の力が掛かる。いずれもフレームに対して垂直に配置されており、フレームには曲げと捻れの応力がかかるため、フロントエンドにかかる力をシミュレートすることを目的としている。

着座でのヒルクライムポジション

スプリントポジションとは対照的にハンドルバーなどフロント周りへの荷重が小さくなるのが着座ポジション。この時フレームにかかる力はリアトライアングルに集中しており、特に急勾配でのシッティング・ペダリングでは負荷が顕著になる。その際に力が逃げないように設計することを目標とする。

ツール・ド・フランス2022でPrototipoに乗り実戦テストを行なったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO

リアル・ダイナミック・スティフネスで得られた結果は、V3Rsに対してスプリントポジションで4%、シッティングポジションで5%の剛性強化という数値だった。同時にコルナゴは第三者機関のゼドラーラボでも剛性試験を行なっており、BB周りはV4RsとV3Rsは同等、ヘッドチューブ付近はV4Rsが5〜10%低い値が計測されたという。

このように使用状況を加味したテストを行うことで、一般的なテストでは得られない答えを導き出すことに成功している。そして、リアル・ダイナミック・スティフネスの有用性は、ツール・ド・フランスを走ったPrototipo、2023年シーズンですでに勝利を挙げているV4Rsの活躍を見れば明らかであり、コルナゴのフラッグシップを新たな境地へと導いた。

選びやすさとポジション出しのために洗練されたサイズ&ジオメトリー

各サイズ間でリーチの増減が一定になるように調整された (c)Colnago

コルナゴはフレームのサイジングに対して並々ならぬ熱意を持っており、小柄な方でも選びやすい細かなサイズ展開でお馴染みのブランドだ。実際にサイズでコルナゴを選択したという方も少なくないのではないだろうか。そんなコルナゴがV4Rsでサイジングとジオメトリーをさらに洗練させたという。

V3Rsでは8サイズ展開に対して、今作は7サイズと単純に数を減らしただけではないことがポイント。V3Rsのシートチューブ長とリーチの関係と、リーチとスタックの関係を確認してみると、それぞれのサイズ間でリーチ変動が大きかったり、小さかったり一定ではなくサイジングが難しくなっていた。その点についてプロライダーからの要望を受けて、ジオメトリーの見直しが行われた。

V4Rsではサイズ間のリーチとスタックの関係をリニアに整えることで、サイズ選択にこだわっても自らのポジションを再現しやすくなっている。また、今回のジオメトリー変更を受けて大きなサイズでもチェーンステー長が短くなり、全てのサイズで408mmに統一された。これによって走行性能も向上するという好影響も現れた。

レースでフィニッシュに辿り着くための堅牢性とメンテナンス性

コルナゴV4Rs photo:Makoto AYANO

速いだけでは完璧なレースバイクとは言えない。アクシデントが発生した場合でもすぐにレースに復帰し、最後まで走り切れるというタフネスさと信頼性も重要だ。コルナゴは落車時にダメージを受ける可能性が高い部分の安全性を高めた設計を行い、自転車の耐久性を高めた。特にシートステーはエアロ形状でありながら、曲げ耐性と耐衝撃性を大幅に向上させているという。

ヘッドベアリングの故障リスクを低減するために、セラミックスピード社製のSLTヘッドセットを採用。このヘッドセットはベアリングの故障を引き起こす潤滑不足と汚れによるグリス汚染を改善するために、固体ポリマーによる長期間の潤滑を実現していることが特徴だ。

セラミックスピードのSLTヘッドセットがアセンブルされる photo:Makoto AYANO

このようにスモールパーツまでもこだわった選定を行なったことからも、コルナゴのV4Rsへの情熱を窺い知れるところだろう。全てはレースのため。不安要素を可能な限り削ぎ落とし、ライド中はレースに集中させるための1台に仕上がっている。そんなV4Rsのテストは次ページにて行う。ぜひチェックしてもらいたい。

コルナゴ V4Rs ラインアップ

コルナゴ V4Rs(SDM3) (c)アキボウ

コルナゴ V4Rs(RVRD) (c)アキボウ
コルナゴ V4Rs(RVBK) (c)アキボウ


コルナゴ V4Rs(RVWH) (c)アキボウ
コルナゴ V4Rs(WT23/チームADQ) (c)アキボウ


ラインアップ基本情報

サイズ420、455、485、510、530、550、570
カラーSDM3[ UAE Team エミレーツ ]、WT23[ Team ADQ ]、RVBK、RVRD、RVWH
フレームセット891,000円(税込)
完成車1(シマノDURA-ACE DI2+エンヴィSES3.4)2,200,000円(税込)
完成車2(シマノDURA-ACE DI2+フルクラムWIND400)1,760,000円(税込)
完成車3(シマノULTEGRA DI2+フルクラムWIND400)1,485,000円(税込)

完成車パッケージ

完成車1完成車2完成車3
コンポーネントシマノ DURA-ACE DI2シマノ DURA-ACE DI2シマノ ULTEGRA DI2
ホイールエンヴィ SES3.4 Discフルクラム WIND400DBフルクラム WIND400DB
タイヤピレリ Pzero race 700×28Cピレリ Pzero race 700×28Cピレリ Pzero race 700×28C
サドルセッレイタリア SLR BOOST Kit Carbonioセッレイタリア SLR BOOST Kit Carbonioセッレイタリア SLR BOOST Kit Carbonio
ハンドルColnago CC.01Colnago CC.01Colnago CC.01
シートポストColnago carbonColnago carbonColnago carbon
提供:アキボウ 制作:シクロワイアード編集部