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スペインの丘陵地帯で新型Fシリーズをテスト

会場となったホテル郊外のワンディングロードを駆け抜ける photo:Pinarello

Fシリーズ、そしてXシリーズのデビューで完全リニューアルを遂げたピナレロのロードラインナップ。トップモデルのDOGMA Fはイネオス・グレナディアーズとの共同開発が行われたが、その血統を引き継ぐピュアレーシングラインのFシリーズではピナレロのお膝元であるトレヴィーゾのハイアマチュア選手や、ピナレロがサポートする若手エリート選手によってテストが重ねられたという。

言わずと知れたことだが、ヨーロッパのエリートアマチュアレースのレベルは極めて高く、その舞台で走るバイクにもハイエンド同等の性能が求められる。プロチームへのステップアップを目指す若手選手や、近年レベルアップ目覚ましい女子プロチームが満足できるよう、FシリーズはDOGMA Fのテクノロジーを存分に引き継ぎ、フォルムを進化させ、そしてカーボンやレジン素材の配合までピナレロ社内のラボでこだわって開発されている。

ピナレロのメカニックがライダーに合わせてセットアップ。私のテストバイクは右前仕様のブレーキにしてくれた photo:Pinarello

ライドに同行するファウスト・ピナレロ氏。F9のペイントは大のお気に入りだという photo:Pinarello
DOGMAの名を冠したプレミアムウェアも同時テスト。質感や機能性も十二分だった photo:Pinarello


新型FとXのプレゼンテーションが行われたペドレゲルは、プロチームの冬季定番合宿地としておなじみのバレンシアにある小村だ。

ビーチリゾートであるカルぺやベニドルムにも近く、海沿いの平坦路、少し内陸の丘陵地帯、そして急峻な山岳地帯が無限に続く。信号なんて街中の僅かな場所しかない、サイクリストにとっては格好のトレーニング場所であり、伝統的に多くの選手がこの地域一帯に住み着き、ハードなトレーニングを行なってきた。

前章でも記したが、発表会会場のホテル「シンクロスフェラ」はそんな立地の真っ只中にある、サイクリストウェルカムのホテルだ。アスリート向けの設備や食事を提供し、規模も大きくプロチームにとっては絶好の合宿場所。ロット・ディステニーやグルパマ・FDJといったチームも同宿し、ポガチャルやエヴェネプール、ジルベールといった有名選手の寄せ書きがあったりする。

インプレッションモデル:ピナレロ F7

筆者と、テストバイクのF7。フレームのグロスブラックが精悍な印象を引き立てる photo:Pinarello

今回筆者に充てがわれた試乗車は、ピナレロ新世代のパワープッシュモデルとなるアルテグラDI2完成車のF7(税込129.8万円)。MOSTのTalon Ultra Light一体型ハンドルや、Ultrafast 40ホイールで武装したルックスは戦闘的で、ピナレロR&Dマネージャーを務めるマウリツィオ・ベッリン氏が「ロゴがなくともピナレロと分かる象徴的なカラー」と自慢するRAZOR BLACKカラーも精悍な印象をより強くする。

この日の行程には本格的な峠こそなかったが、絶えずスピードのつくアップダウンをこなす40km・800mアップ。現役時代からこの地に住んでいるという世界選手権銀メダリスト&北京オリンピック銅メダリストであるアレクサンドル・コロブネフを先導に、15名のジャーナリストグループが出発した。

DOGMAの血を色濃く継ぐ、切れ味鋭い走り

ガツンと踏めばガツンと進む。トルクフルな走りを楽しめる photo:Pinarello

まっ先に感じたのは「切れ味鋭いバイクだ」ということ。ダイレクト感に富み、それでいてスムーズなフィーリングは大部分がDOGMA Fと似通っていて、違いとして気づくのは加速やダンシングで感じる質量の差。走りの方向性は極めて共通で、先代にあたるPRINCEシリーズからすると飛躍的に走りが洗練されている。

DOGMA Fは極限まで薄く研ぎ澄まされた走りを味わえるが、F7(フレームが共通のF9も)は刃物に例えるならば切れ味の鋭さこそ共通だが、もう少し刀身が厚い感じ。フォークからリアエンドまで剛性感に富んでいて、脚の回転に対して、全く引っかかりも、ダルさも感じることなくストンとペダルが追従する。これは歴代DOGMA、特に新世代のDOGMA Fと同じ、ピナレロハイエンドモデルならではのフィーリングだ。

隊列を引っ張るファウスト・ピナレロ氏。隣はかつての名選手、アレクサンドル・コロブネフ photo:Pinarello
車体をよじらすように踏んでも、ハイケイデンスで回しても良く進む。乗り手のスタイルを問わないバイクだ photo:Pinarello


スペインの古きよき街並みを抜け、舗装の整った郊外に出ると集団のペースも上がってくる。平坦の巡航速度が40km/hを越えた先がF7の本領発揮の場所だ。ゼロ発進から軽やかなDOGMA Fほどではないにせよスムーズさは曇らず、スピードの上げ下げにも的確に反応するし、ガツンと踏んだ時の受け皿が広い。

ハイケイデンスで回しても、あえて車体をよじらすようにスプリントしてみても切れ味は一切変わらない。単純に高価な方が良いというわけではなく、DOGMAよりも骨太な加速をみせるF9、F7を選ぶユーザーがいても全くおかしくないだろう。

まっすぐ走りたい時に安定し、切り込みたい時には鋭く曲がる。「ピナレロハンドリング」という言葉が存在するほど歴代DOGMAの安定感は高評価を得てきたが、F7においてもそれは同じ。セカンドグレードのタイヤアッセンブル(ピレリ・P7)だけが少し残念に感じたものの、攻めたコーナリングをしても車体側での恐怖感は一切感じなかった。

DOGMA Fを色濃く感じる新世代Fシリーズ。値段以上の走りを感じるハイグレードバイクだ photo:Pinarello

こちらは色違いのF7。ピナレロのカンパニーカラーと言える赤は人気が出そう photo:Pinarello

正直に言えば、バイク自体に悪いところなんて見つかりもしなかった。もちろん鋭さはDOGMA Fが一枚上手で、軽さで言えば超軽量モデルには敵わないし、エンデュランスモデルに比べれば路面の衝撃も伝えてくる。しかしコストも含めた実用的なロードレーサーとして見た時「使い倒せて武器になるピナレロ」はこのF7に違いない。一緒に走った海外ジャーナリストに印象を尋ねてみても「タイヤのアッセンブリーを除けば悪いところが見つからない」とほぼ全員が口を揃えていた。

Ultrafast 40ホイールセット仕様で129.8万円という価格は決して安くないが、DOGMA Fとの性能差は価格差よりも遥かに小さい。確かにPRINCEシリーズと比較すれば高価になっているものの、実際の走りや質感の向上など、実車を目の当たりにすればそれにも納得できる。

Xシリーズをショートインプレ:ピナレロらしい走り、快適性を担保するジオメトリー

短時間ライドに連れ出したX3。ピナレロらしい走りに満ち溢れたバイクだ photo:So Isobe

1時間弱という限られた時間ではあったものの、F7に乗った翌日朝にはエンデュランスモデルのX3を試す機会にも恵まれた。ショートインプレッションを記しておきたい。

レーシングジオメトリーのF7に慣れたからこそ、T600グレードカーボンを採用したフレームはかなり「近くて高い」ポジションだ。ホイールやタイヤも含めて加速時の重たさは感じるものの、しっかりとライダーの要求に応える踏み応えや、コーナリングでの安定したハンドリングはDOGMA以下、全てのピナレロのバイクに共通するものだ。

ヘッドチューブが長く、トップチューブが短いジオメトリーで長距離ライド時の快適さを生み、フレームそのものは剛性やパワー伝達といった走り方向に振っていることが良く分かる。エンデュランスモデルだからといって乗り心地重視の安楽バイクにならないのは、レースを出自にするピナレロならではということだろう。

Xシリーズは現在のところT600フレームのX1、X3の2モデルのみだが、今後はFシリーズ同様のラインナップ構成になるという。ラインナップのターゲット設定が明確となったことで、よりホビーライダーが自分に適した一台を探せるようになったことは朗報。今後リリースされるであろうハイグレードにも期待したいところだ。

筆者プロフィール

磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。ピナレロ本社が催したF8以降の新世代DOGMA発表会には全て出席し、トレヴィーゾにある本社訪問も2回経験。現地ではF9の塗装の美しさに一目惚れした。
提供:カワシマサイクルサプライ
text:So Isobe