スペシャライズドのロードバイクラインナップの中で、エアロロードとして確固たる位置を占めるS-WORKS VENGE。2011年のデビュー以来5年目となるロングセラーモデルながら、多くのプロが使用し続けるこのエアロバイクの魅力に今一度迫ってみよう。



スペシャライズド S-WORKS VENGEスペシャライズド S-WORKS VENGE photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
2011年、今ほどエアロロードバイクをそのラインナップに持つバイクブランドが多くなく、トライアスロンを出自とするいくつかのメーカーのみがエアロロードに積極的だった頃、鮮烈なデビューを飾ったスペシャライズドのエアロロードレーサー、「VENGE」。

マクラーレンのF1マシンを奥においたセンセーショナルなプロモーションで見る者の度肝を抜いたデビューから早5年。他のブランドであれば1度、もしくは2度のモデルチェンジを行っていてもおかしくはないだけの長い期間、スペシャライズドはVENGEに大きな変更を加えずにいた。

前方投影面積を減らすべく細身にされたヘッドチューブ前方投影面積を減らすべく細身にされたヘッドチューブ ボリュームたっぷりのダウンチューブボリュームたっぷりのダウンチューブ 新採用のTEAM ISSUE LAYUPにより剛性が向上したフロントフォーク新採用のTEAM ISSUE LAYUPにより剛性が向上したフロントフォーク


それは、とりもなおさずVENGEの基本設計が優れていたということを意味している。2015年シーズンにおいても、アスタナやエティックス・クイックステップ 、ティンコフ・サクソらの供給チームにおいて「S-Works VENGE」はオールラウンドモデルである「S-WORKS TARMAC」とあわせ、選手の好みやコースプロファイルによって使い分けられており、一線級のレースバイクとしてその存在感は揺るぎないものとなっている。

エアロロードの隆盛に先鞭をつけたVENGE。カムテールデザインが主流となり、オールラウンドモデルとの境界線が薄くなってしまった最近のエアロロードバイクとは異なり、全てのチューブがいかにも空力の良さを感じさせる翼断面形状で構成されているのが逆に新鮮に見えるほど。

トップチューブから流れるようにシートステーにつながっていくトップチューブから流れるようにシートステーにつながっていく 緩くカーブを描くトップチューブ緩くカーブを描くトップチューブ

BB周りは圧倒的なボリュームを持つBB周りは圧倒的なボリュームを持つ オリジナルのカーボンクランクがアセンブルされるオリジナルのカーボンクランクがアセンブルされる


そのチューブ形状が最も分かりやすいのは、なんといってもボリュームのあるダウンチューブだろう。UCI規定の最大比率である3:1の縦横比を持ち、ルールの中で最高の空力性能を追求したデザインを与えられたダウンチューブを見れば、どんな人でもこのバイクがただならぬ存在であることが窺い知れよう。

同様に翼断面形状とされたシートチューブは、リアホイールに沿わせるようにカットされ、まるでTTバイクの様なデザインとなっている。もちろんシートピラーも専用品が用意され、ペダリングによってかき混ぜられる空気の流れを整えるように最大限の効果を発揮する。

シートステーも翼断面形状シートステーも翼断面形状 エアロ形状のカーボンハンドルエアロ形状のカーボンハンドル


ダウンチューブと同じく3:1のブレード形状を持つフロントフォークも、スポークによって生まれた乱流を可能な限り制御することで空気抵抗の削減に大きく寄与している。そして、この2015年モデルにおいて、「TEAM ISSUE LAYUP」によってフォークまわりの剛性が向上。ステアリング性能に磨きがかけられ、レースバイクとしてさらなる進化を遂げている。

そして、フレーム本体にもアウター受けやBBカップといった細部の仕様が変更されていることに伴い、フレーム自体のカーボンレイアップにも変更が加えられているとのことだ。具体的な内容はつまびらかにされていないが、より剛性と強度を向上させていることは疑う余地がないだろう。

シートピラーは専用品となっているシートピラーは専用品となっている リアホイールを覆い隠すようなシートチューブリアホイールを覆い隠すようなシートチューブ 出来るだけリアホイールをカバーするように切り取られたシートチューブ出来るだけリアホイールをカバーするように切り取られたシートチューブ


各部に施された空気抵抗を減少させるための工夫によって、同社のオールラウンドバイク「S-WORKS TARMAC」に比べて、時速40km/hの巡航時に22Wもの出力セーブを実現するというVENGE。デザインこそ変わらないが、見えない部分のアップデートが施され、最新のレーシングバイクとも伍していけるだけの性能は健在だ。

今回インプレッションするのは、電動デュラエースで組み上げられた完成車モデル。スペシャライズドオリジナルのS-WORKS FACTカーボンクランクをアッセンブルするほか、ホイールとタイヤはロヴァール Rapide CLXの60mmカーボンクリンチャーに、スペシャライズドのS-WORKS TURBOという組み合わせ。それでは、インプレッションをお届けしよう。



―― インプレッション

「跨った瞬間から、ピュアレースバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

ひと踏み目からワクワクさせてくれるバイクですね! 跨った瞬間からピュアレースバイクだというのが伝わって来ました。軽さはもちろん、剛性も非常にしっかりとしているバイクですので、トップレベルのレーサーの脚力も余すところなく引き出してくれる性能をもっています。

見た目からも想像できるように、高速域での性能が素晴らしいバイクです。というと、「ホビーライダーお断り」に感じるかもしれないですがそういったこともなく、とても乗りやすい性格でもあります。その理由は、このエアロ形状のフレームにあると感じました。

縦方向の入力を非常にソリッドに受け止めることで推進力を発生させている一方、横方向の入力に対してはしなりを生み出すことで反力を抑え、脚へのダメージを減少させるという、二つの性格を併せ持っているわけです。従ってシチュエーションによって踏み方を変えてあげると気持ちよく進ませることができますね。

「一踏み目からワクワクさせてくれるバイクです」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「一踏み目からワクワクさせてくれるバイクです」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)
低速域からの加速やヒルクライムなどでは積極的にダンシングを入れ、バイクを振っていくことでしなりを活かしながら走っていくと非常に快適に進むことができる一方、高速域ではシッティングで重めのギアをかけていくことでどんどんスピードに乗せていくことができます。

このように、どんなシチュエーションでも非常に高いレベルで性能を発揮できるバイクですが、やはりシッティングで大ギアを踏み、高速巡航することが最も得意なフィールドであるのは間違いありません。縦方向へのかかりの良さと、空力性能の高さによって、高速域での伸び、下りの伸びは目を見張るものがあります。

フォークのレイアップ変更の結果もあってか、ハンドリングも非常に優れているのでコーナーも安心感があります。しかし、下りでは空力の良さもあり、他のバイクよりもスピードの乗りが格段に良いため、油断しているとオーバースピードになってしまうかもしれません。ですので、その点だけは気をつけてほしいですね。

今回乗ったのは完成車のアッセンブルですが、これ以上に加えるものはなく、必要にして十分なパーツが奢られています。スペシャライズドオリジナルのカーボンクランクも全く不満のない出来ですし、ロヴァールのホイールもクリンチャーとは思えないほどの踏み出しの軽さを持っていて、レースでもアドバンテージになるでしょうね。

総じて、シリアスに競技に向き合うレーサーにぴったりの一台だと思います。ヒルクライムやツーリング用途にあえてこのバイクを用意する必要はないと思いますが、ロードレースやクリテリウムで良い成績を残したいという選手にとってはこれ以上ないバイクでしょう。


「勝利を求めるシリアスライダーにぜひ乗って欲しい」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)

ハイエンドレースバイクとして納得の性能を持ったバイクです。エアロ形状のチュービングも相まって、縦方向への硬さを強く感じました。かといって横方向への剛性が低いというわけではなく、力を込めて踏み込んでも捻じれたり、よれたりと言ったことはありません。

「ぜひ、勝利を求めるシリアスライダーに乗って欲しい」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)「ぜひ、勝利を求めるシリアスライダーに乗って欲しい」山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア) ハンドリングはクイックで、少し切れ込む感覚があります。コーナーでもラインを決めて、定石通りに曲がっていけば全く問題ないのですが、コーナーの途中で強めにハンドル操作をしたり、ブレーキをかけたりしてしまうと、予想以上の挙動の変化があります。

従って、スピードの出る下りコーナーでは少し気を使う必要があります。エアロダイナミクスに優れているため非常にスピードが乗りやすく、より減速を心がける必要がありますね。そういった意味でも、ある程度以上のスキルを持つベテランライダー向けといえるでしょう。

快適性については、レースバイクとしての最低限の配慮はなされており、アルミバイクのようなゴツゴツとした突き上げはありません。とはいえ、最近のオールラウンドバイクに比べると乗り心地は硬めではありますから、多少の突き上げを気にしない体重のあるライダーのほうがこのバイクの魅力を引き出せますね。

見た目はエアロロード然としていますが、意外なほどに身のこなしは軽く、登りでもある程度の斜度までならスイスイとこなすことができます。斜度が厳しい登りでも、距離が短ければ失速することなくこなすことができるでしょう。パワーライダーにとって登り性能がネックになることは全くないでしょう。

しかしこのバイクの真骨頂が発揮されるのはやはり平地です。速度が上がれば上がるほど、他のバイクとの差が生まれてくることが実感できるほどの空力性能を持っています。このバイクの真価を発揮させるためには、実業団で言えばE1程度の脚力が求められるかもしれません。

このバイクが向いているコースとしては、群馬CSCやもてぎ、富士スピードウェイ、そして鈴鹿サーキットなどがあげられるでしょうか。ある程度スピードに乗せたまま走り続けられるようなコースこそがこのバイクに向いています。シマノ鈴鹿の国際ロードのようなローリングコースでのハイスピードレースを走るライダーにはまさしくうってつけではないでしょうか。

完成車でのアセンブルということですが、非常にまとまりのよいバイクに仕上がっていると思います。オリジナルのクランクも非常にしっかりとしていて、変なねじれを生じることもなく、ハンガー周りとの一体感もあります。変速性能もしっかりとしています。ハンドルもエアロ形状のカーボンモデルということで、バイク全体の雰囲気ともマッチしています。

ホイールも60mmハイトというボリュームで、平地の巡航性能の向上に大きく寄与しています。しかも電動デュラエース仕様ということで、内容から考えるとかなりお買い得なのではないでしょうか。ぜひ、勝利を求めるシリアスライダーに乗って欲しいモデルですね。

スペシャライズド S-WORKS VENGEスペシャライズド S-WORKS VENGE photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp

スペシャライズド S-WORKS VENGE
フレーム:スペシャライズド FACT 11rカーボン
フォーク:スペシャライズド ヴェンジ FACT カーボン フルモノコック、チームイシューレイアップ
カラー:グロスカーボン/サテンブラック、サテンカーボン/グロスフローレッド/ホワイト
コンポーネント:シマノ デュラエースDi2
サイズ:49、52、54、56、58、61
価 格:980,000円(完成車)480,000円(フレームセット)



インプレライダーのプロフィール

鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) 鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

岐阜県瑞浪市にあるロードバイク専門プロショップ「サイクルショップDADDY」店主。20年間に及ぶ競輪選手としての経験、機材やフィッティングに対するこだわりから特に実走派ライダーからの定評が高い。現在でも積極的にレースに参加しツール・ド・おきなわ市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。一方で、グランフォンド東濃の実行委員長を努めるなどサイクルスポーツの普及活動にも力を入れている。

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山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア) 山添悟志(WALKRIDE コンセプトストア)

神奈川県厚木市に2014年にオープンしたロード系プロショップ、WALKRIDE コンセプトストアの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。

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WALKRIDE コンセプトストア


ウェア協力:ルコックスポルティフ

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO

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