「ホビーレーサーの甲子園」と呼ばれるツール・ド・おきなわ。もっともステイタスが高い市民レース200kmの部で優勝を飾った武井亨介さん(FORZA・フォルツァ!)によるレポート。武井さんにとって2006年に続く2度目の栄冠だ。

武井亨介(FORZA・フォルツァ!)武井亨介(FORZA・フォルツァ!) (c)MakotoAYANO今までで最強の自分を実感する

勝たせてくれて、ありがとう。一人の力では、絶対に勝てない。そう強く感じました。ありがとう。
レースは、今まで走ってきた中で一番きつく、やりがいがあって、苦しめたレースだった。

土曜日に食べた昼食が食当たりをし、ずっと、激しい下痢に襲われてしまった。昼食、夕食、全てが水下痢で流れ出てしまい、ちょっと脱水が心配になる。
会場への道のり、頭の中で入念にレースを組み立てる。すべては、今日のこのレースに勝つために。

自分史上、一番強くなっている。実感できる。

練習メニューをこなし、仕事を行い、準備ができた。
ライバルは、ただひとり。最強の市民レーサー、一昨年優勝の高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)だ。

スタートをする前に、今日の目標をもう一度声に出してみる。「今日は私が優勝する」

延々と続く市民200km参加者の隊列延々と続く市民200km参加者の隊列 (c)MakotoAYANO
脚が攣りかける。今日の私は弱いのか?

朝焼けの中を行くメイン集団朝焼けの中を行くメイン集団 (c)MakotoAYANOスタート後、参加選手が多く、道幅が狭く、非常に危険な集団走行となる。ここは、力を使わずに。安全に。集団前方で走る。

時々、ラインを外しながら、ライバルとなろうである選手のチェックをし、自分の体調を図る。思った以上に身体が重く、心拍数が高い。少しの登りで160bpm近くまで心拍が上がってしまう。明らかに脱水の症状。走りながら、水分補給。補給食には細心の注意を払った。

走りながら感じた事は、「今日の私は弱い」だ。少なくとも高岡選手に勝てるチャンスはほとんど無い。それほどに高岡選手は強かった。

もっともマークすべき存在の高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)もっともマークすべき存在の高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形) (c)MakotoAYANOチャンスは一つだけ。ゴールスプリントだ。そこには明確に勝機は見えている。
それだけを考え、最大の省エネ走行で走る。体調の悪さを気付かれないよう、少し強気に走るところも出しながら。脱水気味のため、おしっこもほとんど出ない。よって、トイレ休憩は無しで走り続ける。

1本目の普久河ダムの登りは先頭付近で登り始める。心拍は約170bpm。出力は約320Wだ。
少しきつい。暑さからか、脱水からか? 発汗がすさまじい。全身から玉のような汗が出てくる。そして、早くも攣りかける前兆が出てくる。

積極的にペースを上げるオーベストとシマノドリンキング、そしてスペシャライズドの竹谷賢二さん。少し我慢の走りをしながら、余裕を見せつつ(実は少しきつい)、走る。

登り切り、最初の補給所へ。クラブ員Iさんからの補給を受け取る。今回、これがなかったら走り切れなかった。脱水気味の身体にCCDとクエン酸を流し込む。助かった。。。感謝感謝。


市民200kmの2008年覇者の武末真和(オッティモ)市民200kmの2008年覇者の武末真和(オッティモ) (c)MakotoAYANO辺戸岬へ向かうアップダウン。なぜだか、ここもきつい。身体がおかしい。だるくて、熱っぽい。

高岡選手のペースアップが入り、インターバルがかかる。全然休めない。ばらばらに追うと、私が切れそうだったので、まとまって走るように。しかし、今日はきつい。

まさかのニュートラルで仕切り直し

きついなぁ、と思っていたら、何と何とのレース中断。チャンピオンレースに追いつきそうになったため、ニュートラルストップとなったのだ。考えられない事態だが、ここまでかなりのハイペースで来た感じがあるので、正直非常に助かった。
約20分以上停まり、給水をし、マッサージをし、補給を行い、イチから仕切り直し。ここで集中力が切れそうだったのだが、なぜだろう? きれなかった。

強い外人選手が3名逃げていたので、再スタート後もハイペースで海岸線を進む。積極的にローテーションに加わりたいのだが、だめだ。踏めない。前に出ていくことが、少しきつくなってきた。今日は駄目かもしれない。


竹谷賢二(スペシャライズド)も初参戦竹谷賢二(スペシャライズド)も初参戦 (c)MakotoAYANO2本目の普久河ダムの登りへ。入口は先頭で登り始める。周りの様子を見ながら。心拍は約170bpm。出力は300W。身体が軽くなってきた。なんでだろう? 
ここでやっと「今日は最後まで行ける」と思い始める。相変わらず、玉のような汗は流れ続ける。

白石真吾選手(シマノドリンキング)やオーベストの若手選手たちが積極的にレースを作る。ここには乗らずに、ひたすら足を回す。軽いギアで、補給を取りながら。冷静に走る高岡選手を見ながら、絶対にマークを外さない。決めた。

何と何との、フォルツァ!つくば本店スタッフ兼選手の坂本君が余裕の表情でここに残っている。凄いね、成長したね。走りは相変わらず「危ない」けどね。良いね、いいね。

この状況でチームメイトが残ること、そして、登りきれば希望の補給を受けられることに安心してきた。ほっとして、力が抜けてくる。楽になってきた。そろそろ攻撃をしたい。

登り切り、逃げ集団とのタイム差が確実に縮まりつつある。下りながら、入念に補給、給水を取り、肝心の登りだ。


集団内で走る武井亨介(FORZA・フォルツァ!)集団内で走る武井亨介(FORZA・フォルツァ!) (c)MakotoAYANOもう集団は30名ほど。そろそろ絞りたい。この日最強の高岡選手のペースアップが入り、あっという間にバラバラ。しかし身体の余力を感じたので、ここで私もペースアップを図る。後方では様子見の雰囲気を感じたので、徐々に逃げ体制へ。残り60kmほど。

本命たちだけの勝負へ

心拍は170bpm前後、出力は300W前後。約10分ほどグリグリ走る。身体はまだまだ余裕を感じるのだが。。。
そう簡単には行かせてくれない。いよいよ、今日のレースが始まった。

序盤に逃げたリー・ロジャース(エスペランス・スタージュ)とアドリエン・カラタユー(フランス)ら3人序盤に逃げたリー・ロジャース(エスペランス・スタージュ)とアドリエン・カラタユー(フランス)ら3人 (c)MakotoAYANO逃げていた外人選手を1名吸収後、私も戻り、追走が6名。その中には名の知れた、同じ仕事、状況で頑張って結果を出している選手たちがいる。乗鞍ヒルクライム優勝の森本選手、シルベストのエース松木選手、そして高岡選手など。

源河へ向かう登りが注目されているけど、普久河ダムから源河までのアップダウン区間で勝負が決まる。足を残して、源河に臨めるか。

アップダウンは緩やかに、強烈に。皆強い選手たち。均等にローテーションを行う。高岡選手のマークは絶対に外せないので、何度かローテーションを意識して順番を入れ替える。彼も同じことを考えていたようだ。互いの番手を取りたい。攻撃が後手に回らないように。

普久河ダムの上りをクリアする普久河ダムの上りをクリアする (c)MakotoAYANO少し足が攣り始めてくる。脱水気味のため、攣り始めがいつもより早い。必殺の足攣り防止補給食を取りまくる。この日は30分ごと、スタート直後から継続して取り続けてきた。電解質のバランスが崩れると、すぐに攣りが出てくるようだ。

恐るべし高岡選手の強さ

最後まで逃げていた外人選手を吸収し、源河に臨む。直前の登りで、高岡選手のペースアップ。4名となる。
ニラミを利かしながら、「まだ走れるぜ」っと表情に出しながら、我慢の走りが続く。この局面も非常にきつかった。

彼はすごい。一人一人、冷静に切り捨てていく。しかも、すべて自分のペース、自分の攻撃によって。

エイドでボトルを配ってくれたボランティアの皆さん ありがとう!エイドでボトルを配ってくれたボランティアの皆さん ありがとう! (c)MakotoAYANO源河の登りに入る。登り始め、身体の余力を感じるのだが...。ここまで積極的にレースを引っ張ってきた森本選手が高岡選手のペースアップについていけずに切れた。彼も強い選手だ。そして3名の戦いへ。攻撃を繰り返す高岡選手。耐える松木選手と私。

自分の作戦では、ここでペースアップを繰り返し、逃げる予定だったが、防戦一方。というか、いよいよマズイ。
何度か酸欠状態になり、意識が遠くなる。目の前が暗くなってきて、瞬きをすると、真っ暗になってしまう。
目を見開いて、高岡選手の攻撃に耐えてきたのだが...。

残り500mぐらいか。いよいよ私も耐えきれなくなり、切れた。終わったか...。また負けるのか、彼に。
いやだ。いやだから、やりきる。踏み続ける。

暗くなってくると、皆の応援が聞こえる。「おーい、武井、走ってくれよ!」「勝ってくれよ!」。やらなきゃ。戦わなきゃ。挑まなきゃ。

幸いにも頂上付近だったため、差も10秒少々で下りに入る。こっちは同じくして、攻撃を耐えきった松木選手と私。逃げる高岡選手。

話しをし、冷静にレースを進める。ここは協力して追いつく。そして、追いつきざまに攻撃を仕掛ける。のはずが...。
追いつくまで良かったのだが、2人ともそれほど余力がない。下り初めてしばらくで吸収。あせらず、ローテーションを回す。海岸線を名護のゴールへ進む。

まずは要注意の「橋の登り」。きつそうだ。私が先頭で登り、アタックを防ぐ。

そして2本目、イオン手前の登り。ここで後手に回ってしまう。先にきつそうにしていた高岡選手の攻撃が入る。
絶対に行かせてはならない。必死に食らいつく。さすがに足がモゲそうだ。本当に強い。強すぎる。勝てるのか、私は。

ゴールまでの我慢比べ そして掴んだ感動

シューズのストラップを締める。水を飲みほし、補給を取る。

5km、4km、3km、2km、1kmと、平坦でのローテーションが続く。今日はきついぜ。きつすぎだ。しかし3名とも均等に強くひき続ける。意地の張り合いか。

残り500m。3名でのスプリントが始まる。松木、高岡、武井の順で進む。絶対に勝てるとはまだ思えない。けど勝ちたい。

最初に仕掛けたのが 松木選手。それを右からまくる高岡選手。私は、冷静だった。ギアを53×11へ入れ、高岡選手に合わせてスプリントを開始する。

残り150mの赤い看板が見える。右から前に出る。影が見える、高岡選手の影が。真後ろから離れていく。

前を見る。踏み切る。ゴールを越える。

武井亨介(FORZA・フォルツァ!)が高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)を下す武井亨介(FORZA・フォルツァ!)が高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)を下す (c)MakotoAYANO
なんだか良く分からない雄叫びとガッツポーズが出た。やったんだ。涙が出てきた。

苦しかった今までのレース、仕事、自分の失敗...。ぱぱっと、走馬灯のように思いが走る。けど、今日はやったんだ。今日出来ることは、明日はもっと出来るんだ。

高岡選手、松木選手と握手をする。自分の力を、ここまで引き出してくれた。ありがとう。次々とゴールする選手たちから、祝福をもらう。

妻、子供に祝福されて、人生最高の瞬間妻、子供に祝福されて、人生最高の瞬間 (c)MakotoAYANO嫁と子供を探す。いた! 抱き合う。涙があふれる。ありがとう。ここまで走らせくれて。

獲得登り標高は2000mを超え、走行時間は5時間10分ほど。史上最速の市民レースとなった。最後のゴールスプリント時は出力975Wが出ていた。火事場の馬鹿力か。

普段の練習はきつい。けどね、この一瞬があるなら、いくらでも耐えられるよ。そう思えるから、オフは取らずに、今日も練習をしました。

来年は、最強の高岡選手に力勝負で勝ちたい。だからもっと、やらなきゃ。

沖縄は市民レーサーにとっての甲子園。来年もまた、帰ってこなきゃ。強くなってね。


優勝 武井亨介(FORZA・フォルツァ!)5時間36分16秒50 2位 高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形) 3位 松木健治(クラブシルベスト)優勝 武井亨介(FORZA・フォルツァ!)5時間36分16秒50 2位 高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形) 3位 松木健治(クラブシルベスト) (c)MakotoAYANO市民200kmリザルト
1位 武井亨介(FORZA・フォルツァ!)5時間36分16秒50
2位 高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)
3位 松木健治(クラブシルベスト)
4位 成毛千尋(チームオーベスト)+1分09秒
5位 藤原真(DOKYU RC)
6位 生駒淳平(ウィンドフレンド)
7位 清宮洋幸(竹芝サイクルレーシング)
8位 岩尾伸一(クラブシルベスト)
9位 小原賢介(オーベスト)
10位 澤本啓太(synerzy)



text:武井亨介(FORZA・フォルツァ!)

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