クイックステップやサクソバンクのメインバイクとして活躍してきたS-Works Tarmac SL2がフルモデルチェンジし、SL3へと進化した。さすがに超一流のプロチームが鍛え上げたバイクだけあり、その乗り味はまさに「レーシングバイク」そのものだった。

スペシャライズド S-Works Tarmac SL3スペシャライズド S-Works Tarmac SL3 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
クイックステップのステイン・デヴォルデルがロンド・ファン・フラーンデレンに勝った時も、アンディ・シュレクがリエージュ~バストーニュ~リエージュに勝利した時も、その走りを支えたのはスペシャライズドが誇るレーシングバイク・S-Works Tarmac SL2であった。そのSL2がさらにリファインされ誕生したのが、S-Works Tarmac SL3だ。

メインフレームは定評の高いS-Works Tarmac SL3 FACT 11rカーボンである。FACT ISコンストラクションと名づけられた3ピース構造を持っており、精度が高く、さらに残留応力が少ないのが特長だ。

ヘッド下部ベアリングは1.5"の大径を採用ヘッド下部ベアリングは1.5"の大径を採用 このパールホワイト×カーボン×ブルーはサクソバンクチームカラーだこのパールホワイト×カーボン×ブルーはサクソバンクチームカラーだ
スペシャライズドオリジナルのS-WorksカーボンクランクスペシャライズドオリジナルのS-Worksカーボンクランク チェーンステーはやや細身になったチェーンステーはやや細身になった


ヘッド下部ベアリングはもちろん1.5"の大径を採用し、ヘッドまわり~フォーク付け根の剛性が極めて高くなっている。これはもともとクイックステップのトム・ボーネンからのリクエストで誕生したもので、プロレーサーにとても信頼されている部分である。

さらにオーバーサイズのカーボンBBシェルを採用し、踏力を一滴も無駄にすることなく推進力へと変換する力強さを持っている。

リヤトライアングルはSL3になって最も変化した部分だ。チェーンステーはSL2よりもやや細身になり、SL2ではベント加工が施されていたシートステーがストレートな形状となった。加速性や振動吸収性のバランスを取った結論であるが、プロ選手からの意見はなかなか好評のようだ。

フォークは根本が強力で、先端付近でショックを吸収する設計だフォークは根本が強力で、先端付近でショックを吸収する設計だ Zertzダンピングシステムを組み込んだオリジナルのカーボンシートポストZertzダンピングシステムを組み込んだオリジナルのカーボンシートポスト リヤトライアングルはSL3になって一番変化した部分だリヤトライアングルはSL3になって一番変化した部分だ



さて、このプロユースのバイクを、インプレライダーの西谷雅史と三上和志はどう評価したのだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう!





― インプレッション


「自分の要求を完璧に満たしたバイクだ」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)


「これ以上ないほど素晴らしい加速感!」西谷雅史「これ以上ないほど素晴らしい加速感!」西谷雅史 私はこれまでTarmac SL2に乗ってきたのだが、それは非常のお気に入りのバイクだった。SL2に乗り始めてから、「他のバイクはもういらない」と思ったほどだった。それほどまでにSL2が気に入っていたから、このTarmac SL3の試乗もとても楽しみにしていた。

結論から言うと、本当に素晴らしいバイクだ。私は基本的にレース指向なので、速く走るための機能が満たされた自転車が好きなのだが、このTarmac SL3はそれが100%満たされている。

「自分がロードバイクに求めている機能がすべてここにある」といって過言ではない。

剛性感はかなり高めだ。踏力がすべて推進力に変換されるイメージである。踏み出しから軽くスーッと伸びてくれて、さらに踏み込んでいくと力強くグイグイと加速していく。加速感はこれ以上ないほど素晴らしい! SL2で唯一不満だったのが「高速での伸び」だったのだが、その点はSL3になって完璧に改善された。

ハンドリングはクイックで、とてもキビキビしている。タイトなコーナーだろうが下りのハイスピードなカーブだろうが、思い通りにコーナリングすることができる。この部分は「良い」なんていうレベルではなく、「良すぎる」と表現したいほど良い!

ブレーキング性能も素晴らしい。ハイスピードにおけるスピードコントロールはもちろんのこと、下りのフルブレーキングでもグッと止まってくれる。ヘッドまわりからフォークの根本が強いので、どんな場面でもまったくヨレることがないのだ。本当にレーシングバイクらしいブレーキング性能だと思う。

こんなに剛性感の高いバイクだから振動吸収性は期待できないと思われるかもしれないが、Tarmac(SL2、SL3とも)が凄いのは振動吸収性もある程度確保されているというところだ。もちろん「ソフト」というレベルではないが、レーシングバイクとしてまったく不快感を感じさせない味付けになっているのだ。本当に凄いバイクだ。

「自分の要求を完璧に満たしたバイクだ」西谷雅史「自分の要求を完璧に満たしたバイクだ」西谷雅史
使用用途としては、やはりレースが一番似つかわしいと思う。しかし、ある程度ロードバイクに慣れている人ならば、週末のロングライドなどに使っても良いだろう。レース指向の人でなくても、「ああ、ロードバイクって素晴らしい乗り物だ」と感じられるハズだ。



「レースで勝ちたいと思っている人に」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)


「トレーニングのモチベーションにつながるバイクだ」三上和志「トレーニングのモチベーションにつながるバイクだ」三上和志 このバイクを一言で表現すると「硬いレーシングバイク」だ。乗り味はかなり硬めで、元気な時には最高に良く進むのだが、疲れてくると踏み負けてしまう感じである。そういった意味で、Tarmac SL3は上級者向けのバイクだと言えるだろう。

それにしても、このバイクの加速感は本当に素晴らしい。踏み出しが軽く、低速から中速への伸び、中速から高速への伸びも本当に素晴らしい。この気持ちの良い乗り味を楽しむだけで、このバイクを買う価値があると言えるだろう。この乗り味を楽しむためにバイクに乗りたくなってしまい、「トレーニングのモチベーションにつながるバイク」とも言える。

ハンドリングはややクイックな印象だ。そのため、低速ではややふらつく感じがあるのだが、ある程度スピードに乗るとピタッとその感覚がなくなり、思い通りのラインを描いてコーナーを曲がっていくことができる。タイトなコーナーでもアールの大きいハイスピードのカーブでも、何ら不安感は感じられない。実にレーシングバイクらしい味付けである。

振動吸収性はやや低め。とにかく硬いバイクなので、この部分はあまり期待しない方が良い。しかし、レーシングバイクとしては、まずまず振動を吸収してくれる方だと思う。スキルのあるライダーならば、決して不快感は感じないだろう。

スペシャが凄いのは、目的別のバイクが揃っていて、各車種の方向性がとてもわかりやすいことだ。路面の良いところをハイスピードで気持ちよく走りたい人にはこのTarmac SL3があり、悪路を走る人にはRoubaixがある。これは本当に凄いことだと思う。

「トレーニングのモチベーションにつながるバイクだ」三上和志「トレーニングのモチベーションにつながるバイクだ」三上和志
このバイクをオススメするとしたら、ズバリ「レースで勝ちたい人」だ。走る・曲がる・止まるというレースで求められる性能がとてもハイレベルでまとまっているからだ。私の実力では短時間だけフルパワーで走れるという印象だったが、もっとトレーニングを積んでからぜひまた乗りたいと思った。





スペシャライズド S-Works Tarmac SL3スペシャライズド S-Works Tarmac SL3 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

スペシャライズド S-Works Tarmac SL3

フレーム S-Works Tarmac SL3 FACT 11r、FACT ISコンストラクション、コンパクト・レース・デザイン・1.5"ヘッド下部ベアリング、OSカーボンBBシェル
フォーク S-Works Tarmac SL3 FACTカーボン、ユニウィーブ、モノコックコンストラクション、1.5"ヘッド下部ベアリング対応、フルカーボンレッグ・クラウン・コラム
メインコンポ シマノ・デュラエース
クランクセット スペシャライズド・S-Worksクランクセット 53×39T
ホイール Roval Rapide SL 45
タイヤ スペシャライズド・S-Works Monde Open Tubular 700×23C 290TPI
カラー フローレッド×カーボン×ホワイト、パールホワイト×カーボン×ブルー
サイズ 49、52、54、56、58、61
希望小売価格(税込み) 820,000円(シマノ・デュラエース完成車)、930,000円(シマノ・デュラエースDi2完成車)、930,000円(スラム・レッド完成車)、450,000円(モジュール)、390,000円(フレームセット)





― インプレライダーのプロフィール

 西谷 雅史 西谷 雅史 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト


 三上 和志 三上 和志 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI


ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン


edit:仲沢 隆
photo:綾野 真

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