カナディアンブランド、アルゴン18よりデビューしたトレンドど真ん中のエアロディスクロード「NITROGEN DISC」をインプレッション。トライアスロンで活躍する同社のテクノロジーを結集したレーシングバイクの実力に迫ろう。



アルゴン18 NITROGEN DISCアルゴン18 NITROGEN DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
2015年のボーラ・アルゴン18への供給に始まり、2017年には強豪ワールドチームであるアスタナをサポート。知る人ぞ知る、といった存在から一挙にメジャーブランドへと躍り出たカナディアンブランドがアルゴン18だ。

ルーツを遡ると、元カナダ代表のオリンピアンであるジャーベス・リュー氏が経営するバイクショップのオリジナルブランドへと辿り着く。1989年に立ち上げられたアルゴン18だが、10周年を迎えた1999年に初出展したインターバイクにて大きな注目を集め、本格的なバイクブランドとしての展開を加速することとなった。

その当時からカーボンバイクを得意としてきたアルゴン18の主戦場は、トライアスロンやタイムトライアルバイクだった。カーボンならではの設計自由度の高さを活かし、独創的なエアロ形状を追求したバイクを次々と発表。多くの大会で実績を残してきた。

ストレートで太めのシートステーがライダーのパワーを受け止めるストレートで太めのシートステーがライダーのパワーを受け止める 角型のチュービングでパワー伝達性を高めるダウンチューブ角型のチュービングでパワー伝達性を高めるダウンチューブ アグレッシブな動きを支えるストレートフォークはエアロダイナミクスも意識した形状アグレッシブな動きを支えるストレートフォークはエアロダイナミクスも意識した形状


2006年にはトライアスロン・ワールドカップで3勝を挙げ、更に存在感を増すことに成功する。さらに2008年に発表したTTバイク「E-114」はエアロヒンジやブレーキ裏に装着したブレーキなど、画期的な構造を取り入れることでユーロバイクアワードを受賞。2015年にはボーラ・アルゴン18の選手らと共に世界最高峰であるツールデビューを果たした。

そして、現在スポンサードするのはワールドチームの中でも高いチーム力を誇るアスタナ。ヤコブ・フルサングなど強豪選手らの走りを既に2シーズンに渡って支え続け、今年でそのパートナーシップは3年目に突入する。

トップチューブにはデジタルチックな文体でバイク名であるNITROGENが書かれるトップチューブにはデジタルチックな文体でバイク名であるNITROGENが書かれる アルゴン18のロゴマークが描かれるヘッドチューブアルゴン18のロゴマークが描かれるヘッドチューブ


チェーンステー方向に対してボリュームを持たせたBB周りチェーンステー方向に対してボリュームを持たせたBB周り AFS(アルゴン・フィット・システム)と呼ばれるフィッティングテクノロジーを採用しているAFS(アルゴン・フィット・システム)と呼ばれるフィッティングテクノロジーを採用している


普段のレースでは軽量オールラウンドバイクであるGALLIUM PROをメインに使用するアスタナだが、平坦ステージではエアロロードであるNITROGENを度々投入している。昨年のツアー・オブ・オマーンでは、マグナス・コルトニールセン(デンマーク)がNITROGEN PROを駆り、70km/hを超えるハイスピードなスプリントで勝利を掴み取った。

とはいえ、この時のステージは完全なフラットステージではなかった。約3.6kmに渡って平均勾配10%を超える登坂を3度繰り返したのち、フィニッシュに至る。この過酷なコースを制するのに求められるのは、圧倒的なトップスピードを実現する空力性能と反応性、登坂を難なくこなす軽量性、そして下りでのスタビリティ。そのどれもを併せ持つレーシングバイクであることをNITROGENは証明してみせた。

そして最新のトレンドに沿って登場したNITROGEN DISCは、ベースとなったNITROGENにディスクブレーキ台座をただ取り付けただけのバイクではない。細部を煮詰め、レーシングバイクとしてトータルで性能向上を果たすことに成功した結果、リムブレーキをラインアップする必要がないと結論づけられるほどの完成度を誇っている。

直線的なフレーム造形がエアロロードらしさを際立たせる直線的なフレーム造形がエアロロードらしさを際立たせる エアロを意識したボリューム感ある造形を採用したヘッドチューブエアロを意識したボリューム感ある造形を採用したヘッドチューブ


エアロロードの最優先事項、つまり空力性能に関しては、リムブレーキモデルに比べ正面からの風を受けたとき2Wの抵抗を削減することに成功した。フォークブレードの断面形状、そしてリムブレーキキャリパーの撤去によって、ダウンチューブへ繋がる気流の乱れが改善し、より高いパフォーマンスを示したのだという。

更に、ディスクブレーキの制動力を受け止めるため、新しく開発されたフロントフォークは80%もの剛性向上を実現しつつも、リムブレーキモデルと同様のコンフォート性能を実現。フレーム重量は948g(Mサイズ)とオリジナルモデルからわずか65gの増加にとどまり、数あるエアロロードの中でも軽量なモデルとして仕上がった。

また、ディスク化に当たってよりタイヤクリアランスを広げ、最大で30mm幅のタイヤまで対応するキャパシティを獲得。ディスクブレーキによって獲得したオールウェザー性能を引き出すアセンブルが可能となり、幅広いシーンで活躍するバイクへと進化した。

ディスクブレーキがフラットマウントされるディスクブレーキがフラットマウントされる フロントブレーキホースはフロントフォークの肩部分から挿入されるフロントブレーキホースはフロントフォークの肩部分から挿入される シートステーの接合部を下げることによりリアトライアングルに柔軟性を持たせているシートステーの接合部を下げることによりリアトライアングルに柔軟性を持たせている


アルゴン18バイクの特徴である、オリジナルの3DヘッドチューブシステムはNITROGEN DISCにももちろん搭載される。0mmと15mm、25mmの3段階で仮想的にヘッドチューブを延長できるシステムは、剛性低下などのデメリットを抑えつつ適正なポジションを実現する。もちろんトップカバーはエアロ形状を採用し、空気抵抗の削減に余念は無い。

独創的なエアロロードにディスクブレーキを与えることで、レーシングバイクとして正統進化を果たしたNITROGEN DISC。プロレースでの存在感も増す新進気鋭のエアロロードが秘めた素顔を解き明かすインプレッションをお届けしよう。



― インプレッション

「優れた推進力の高さとオールマイティな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

見た目通りの高いエアロダイナミクスを持っており、向かい風の中でもグイグイ加速できるほど優れた走行性能を感じました。登りも軽快にこなしてくれますし、スプリントした時の反応性も高いですから、エアロロードながらオールマイティに使えるバイクに仕上がっています。

「優れた推進力の高さとオールマイティな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「優れた推進力の高さとオールマイティな乗り心地」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)
推進力の高さが印象的なバイクですが、特に腰を上げてトルクをかけていった時の加速感は良いですね。フレームがヨレることもなく、踏み込んだパワーの分だけリニアに加速してくれます。もちろんエアロを活かして平坦でスプリントをかければ素早い反応を見せてくれ、登りでもトルクをかけていくことで速いスピードで登っていく事ができます。

となると細かいアップダウンが連続するようなコースではその真価を発揮してくれると思いますね。今回の試乗車には40mmハイトのホイールがアセンブルされていたように、セミディープとも相性が良くオールラウンドな走りがより際立ったように思います。

逆に平坦メインのロードレースやクリテリウムを走る場合は、50mm以上のリムハイトを持ったホイールを組み合わせると戦闘力を増してくれるでしょう。プロトンで力を温存しながらレースを進めていき、最後にはスプリントで勝利するというプランが浮かんできますね。

アルゴン18独自のヘッド機構はポジションをしっかり出しさえすれば剛性を上げることができ、アドバンテージになります。ヘッドパーツも高さ別に3種類をラインアップしているので多くの人にフィットすると思います。

また、アルゴン18というとマッドブラックにレッドというバイクが多かったですが、このNITROGEN DISCは新たにシルバーというカラーを使ったのがポイントだと思います。メタリック系の色は最近の自転車界で流行カラーでもありますし、ディスクブレーキモデルと言うことでトレンドの先頭を行くバイクに仕上がっていますね。

エアロロードではありますがパーツアセンブル次第で登りもこなす事ができますし、オールラウンドに使えて見た目も重視したいというバイクを求めている人には良い選択肢になると思います。人とは少し違ったエアロロードが欲しい方にも最適なバイクですね。

「高次元にバランスされたエアロレーシングバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)

全体的に統一された剛性感を持っており、乗り味や踏み心地が高次元でバランスされています。バイクの剛性にムラがないので、ライダーの入力に対し素直に反応してくれますし、そこに無駄がないですね。こういったワンランク上の乗り味はいかにもハイエンドレーシングバイクといった印象で、速く走りたいという欲求を満たしてくれますね。

「高次元にバランスされたエアロレーシングバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)「高次元にバランスされたエアロレーシングバイク」宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)
まず際立つのは統一されたフレームの剛性感でしょう。ここが硬いとか、柔らかいといった部分が無く、フレーム全体でベストな剛性バランスを実現しています。そのためライダーの身体の一部になったかのように踏んだ分だけ瞬時に加速してくれますし、足への反発もなく、非常に乗りやすいのが特徴的です。

それこそハイエンドなレーシングエアロロードでありながら、癖のない乗りやすさがありますので、初心者の方でも乗りやすく扱いやすいでしょうね。価格やグレード的に中級~上級レベルのライダーの選択肢に入ってくるモデルだと思いますが、誰が乗ってもレーシングロードってこんなに楽しいんだと感じる事が出来るバイクになっています。

フレームのエアロデザインを活かしたハイスピードな走りも十分に楽しめます。平坦コースでの高速巡航はもちろん、そこからさらに加速していくことも容易です。ペース走行でもアタック合戦でも優れたパフォーマンスを発揮してくれるでしょうね。

また車体が軽量で登りも軽快にこなしてくれました。トルクかけて踏んでいくのでも、軽いギアで回していくのでも、気持ちよく進んでいきますね。また快適性もレーシングバイクとして必要十分な性能を持っているので、長距離を走るのも楽しいでしょう。少しペースが速めのロングライドにはもってこいかもしれません。

この性能でフレームセット32万円というプライスはお買い得と言わざるを得ないでしょう。ロードバイクで速く走りたい方や、オールラウンドに使えるレーシングバイクが欲しい方には最適なチョイスだと思います。

アルゴン18 NITROGEN DISCアルゴン18 NITROGEN DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アルゴン18 NITROGEN DISC フレームセット
カラー:Grey Matte
サイズ:XS、S、M
価 格:320,000円(税別)



インプレッションライダーのプロフィール

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむバリバリの走れる系店長。2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi) 宗吉貞幸(SPORTS CYCLE SHOP Swacchi)

千葉県流山市にある「SPORTS CYCLE SHOP Swacchi」のスタッフ。自転車歴は95年からはじめて、2019年で25年目を迎える。レース活動も行っており、ニセコクラシックやツール・ド・おきなわ、実業団レースなどにも積極的に出場。日本体育協会自転車公認コーチの資格を有し、ロードバイクスクールの開催にも力を入れる。週末はショップライドをアテンドし、ショップのお客さんと一緒に自転車を楽しむことを重視している。

SPORTS CYCLE SHOP Swacchi HP


text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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