雨と強風、石畳、そして落車とアタック。サバイバルレースの末に生まれた精鋭グループのゴール勝負で、元世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が先着。格式高いヘント〜ウェヴェルヘムで初勝利を飾った。女子レースでは元ベルギー王者ヨリーン・ドール(ベルギー、ブールス・ドルマンス)が勝利した。



第一次世界大戦の戦没者を弔うバグパイプ演奏第一次世界大戦の戦没者を弔うバグパイプ演奏 photo:CorVos
パリ〜ルーベ中止の報に落胆しながらも、ブラバンツペイルを終え、1週間後のロンド・ファン・フラーンデレンに向けてフランドルクラシックは熱を帯びるばかり。変則レーススケジュールの中、ジロ・デ・イタリア2020第9ステージと重なる10月第2週の日曜日に第82回ヘント〜ウェヴェルヘム(UCIワールドツアー)の開催を迎えた。

モニュメントに次ぐ格式を誇るヘント〜ウェヴェルヘムは今年、爆発的な新型コロナウイルスの感染第2波が到来しているフランスを避け、ベルギー国内で完結するようコースが小変更された。なお大会の正式名称は第1次世界大戦の戦後100周年となった2015年大会からは、その戦地を通過することから「ヘント〜ウェヴェルヘム:イン・フランダースフィールズ・クラシック」へと切り替わっている。

ベルギーのイープル市街中心部にある、第一次世界大戦のイープル突撃で戦死した兵士を弔う戦争記念碑「メニン門」でのプレゼンテーションに登壇したのは6つのUCIプロツアーを含む全25チーム。レースが初開催された1934年以来86年ぶりの10月開催であり、合計11箇所の登りと3つのグラベルセクターが組み込まれた232kmコースに向け、屈強なクラシックスペシャリストたちがスタートした。

第1次世界大戦の戦地を通過するヘント〜ウェヴェルヘム第1次世界大戦の戦地を通過するヘント〜ウェヴェルヘム photo:CorVos
集団内の落車に巻き込まれたオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼル)集団内の落車に巻き込まれたオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼル) photo:CorVos真っ二つになったイネオス・グレナディアーズの選手のバイク真っ二つになったイネオス・グレナディアーズの選手のバイク photo:CorVos

ワウト・ファンアールト(ベルギー)を擁するユンボ・ヴィズマが集団牽引を開始ワウト・ファンアールト(ベルギー)を擁するユンボ・ヴィズマが集団牽引を開始 photo:CorVos
濡れた路面と強い風という、例年通りの"フランドルらしい"悪条件の中逃げたのはアレクシー・グジャール(フランス、アージェードゥーゼル)やレオナルド・バッソ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)、そしてゴール後のインタビューで「最後のレースになるかもしれない」と答えたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、バーレーン・マクラーレン)といった7名。快調に逃げる7名はワウト・ファンアールト(ベルギー)を擁するユンボ・ヴィズマが集団牽引を始めるまでに8分のリードを稼ぎ出した。

134.4km地点の「シェルペンベルグ」をきっかけに始まる登坂連続区間が始まるとレースは一気に活性化する。マチュー・ファンデルプール(オランダ)擁するアルペシン・フェニックスやイネオス・グレナディアーズ、グルパマFDJといったチームがメイン集団のペースアップを図り、合計3回通過する石畳の激坂「ケンメルベルグ(登坂距離1510m/平均6.5%/最大23%)」の1回目で大分断が起きる。緊張感を高める集団内では強風と濡れた路面に足元をすくわれたダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)やフロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)らが地面に叩きつけられた。

逃げるレオナルド・バッソ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)やマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、バーレーン・マクラーレン)逃げるレオナルド・バッソ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)やマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、バーレーン・マクラーレン) photo:CorVos
1度めのケンメルベルグでペースアップするイネオス・グレナディアーズ1度めのケンメルベルグでペースアップするイネオス・グレナディアーズ photo:CorVos
前回覇者アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)は登りで遅れをとった前回覇者アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)は登りで遅れをとった photo:CorVos
幾つものエシュロン(横風隊列)が形成される中、その先頭グループに入ったファンデルプールが加速すると、ファンアールトもマイク・テウニッセン(オランダ)を引き連れてペースアップ。優勝候補たちが動いたことで逃げ続けていたカヴェンディッシュグループは捉えられ、60km以上を残してウニッセンやマッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)、シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)、セップ・ファンマルク(ベルギー、EFプロサイクリング)、そして前世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)を含む9名が飛び出した。

先頭9名に対してファンアールトとファンデルプールを含む第2グループは約1分差。昨年大会覇者のアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)が遅れたため、作戦変更を強いられたUAEチームエミレーツはジャスパー・フィリプセン(ベルギー)を第2グループからアタックさせたが、大きな動きを生み出すことなく2度目のケンメルベルグで吸収。ファンアールトは再び最大勾配20%オーバーの濡れた石畳で加速し、第2グループを粉砕した。

残り45kmでの第1グループと第2グループに入ったメンバーは以下の通り。
第1グループ(9名) 第2グループ(8名)
フロリアン・フェルメルシュ(ベルギー、ロット・スーダル) カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)
アレクシー・グジャール(フランス、アージェードゥーゼル) イヴ・ランパールト(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
マッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム) フロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
セップ・ファンマルク(ベルギー、EFプロサイクリング) ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ロット・スーダル)
シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) ディラン・トゥーンス (ベルギー、バーレーン・マクラーレン)
マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ) アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)
ルーク・ロウ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)
マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)
ジャンニ・フェルメルシュ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)
何度もアタックを試みるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)何度もアタックを試みるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
第2追走グループを率いるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)第2追走グループを率いるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) photo:CorVos
第1グループと第2グループは暫く追走劇を続けていたものの、残り35km地点の最終ケンメルベルグで合流を果たす。頂上通過後に世界選手権タイムトライアルで銅メダルに輝いたキュングが単独抜け出しを試みた一方、ファンデルプールのアシストを担うGフェルメルシュはハスって落車。慌ただしく動く中、複数メンバーを揃えたドゥクーニンク・クイックステップやEFプロサイクリング、ユンボ・ヴィズマの牽引でフィニッシュまでの距離を減らしていった。

合計15名の先頭グループの中で先手を打ったのはEFプロサイクリングだった。残り15kmでベッティオルが加速したことをきっかけに集団が割れ、ランパールト、セネシャル、ベッティオル、キュング、トレンティン、ピーダスン、デゲンコルプ、ファンアールト、ファンデルプールという9名だけが生き残る。この動きを逃したトゥーンスは単独追走を試みたが、ローテーションを回す9名に追いつくことは叶わなかった。

3度めのケンメルベルグで加速するファンアールトとファンデルプール3度めのケンメルベルグで加速するファンアールトとファンデルプール photo:CorVos
先頭グループでファンデルプールのアシストを担うジャンニ・フェルメルシュ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が落車先頭グループでファンデルプールのアシストを担うジャンニ・フェルメルシュ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が落車 photo:CorVos
フィニッシュまで10kmを切るとスプリントで分が悪いキュングやベッティオルが仕掛け、ファンアールトも加速したが決まらない。すると残り1.9kmでトレンティンとベッティオルが同時にアタックし、追従したセネシャルと1テンポ遅れてピーダスンが合流。スプリント力を備える強力な4名が、ここで優勝争いを引き寄せるアタックを決めた。

ライバル心をむき出しにするファンアールトとファンデルプールは激しく牽制し、他選手を巻き添えにしながら復帰のチャンスを失ってしまう。2人を見捨て加速したデゲンコルプやキュングだったが、時すでに遅し。残り200mで仕掛けたベッティオルきっかけに、先頭4人のスプリント勝負が始まった。

流し先行ベッティオルを抜き去りトレンティンがスプリントしたものの、アルカンシエルから衣替えしたピーダスンのスプリント力が冴え渡る。スリップストリームに入ったセネシャルを寄せ付けることなく、ゴールラインを確認しながら踏み抜いたピーダスンが先着。世界選手権をスキップした24歳が、ビンクバンクツアー第3ステージに続く今季3勝目を挙げた。

4名のスプリント勝負を制したマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)4名のスプリント勝負を制したマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) photo:CorVos
2位セネシャル、1位ピーダスン、3位トレンティン2位セネシャル、1位ピーダスン、3位トレンティン photo:CorVos
「アタックしたトレンティンたちまでジャンプして、さらにスプリントするのに十分な脚が残っていたので良かったよ。わずか数秒で判断を下す必要があった。グループが少し減速したので、"OK、一か八かのトライだ"と言い聞かせてジャンプ。ラッキーだったと思う」とピーダスンは振り返る。2位にはセネシャルが入り、残る表彰台の一角はトレンティンが滑り込み。ライバル勢が次々とジャンプする中、互いを牽制し続けたファンアールトとファンデルプールは、先頭グループの最下位となる8位と9位に終わった。各選手のコメントは追って紹介します。



與那嶺不在の女子レース:元ベルギー王者ドールがスプリント勝利

UCIウィメンズワールドツアーの1戦に組み込まれたヘント〜ウェヴェルヘム女子レースは、レース前日までに2度行われたPCR検査で陽性反応が出たアレ・BTCリュブリャナが不出場に。参戦を予定していた與那嶺恵理は現在隔離状態に置かれているものの、「いつものように全て克服できると信じている」とSNSに思いを綴っている。

レースは中盤の登坂連続区間で優勝候補たちが激しくペースアップを行い、エレン・ファンダイク(オランダ)、エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)、エリザベス・ダイグナン(イギリス)を含むトレックセガフレードや、アミー・ピーテルス(オランダ)とヨリーン・ドール(ベルギー、ブールス・ドルマンス)、ベルギー王者ロッテ・コペッキー(ロット・スーダル)らを含む11名が先行する。

11名の先頭グループを率いるアミー・ピーテルス(オランダ、ブールス・ドルマンス)11名の先頭グループを率いるアミー・ピーテルス(オランダ、ブールス・ドルマンス) photo:CorVos
女子レースを制したヨリーン・ドール(ベルギー、ブールス・ドルマンス)女子レースを制したヨリーン・ドール(ベルギー、ブールス・ドルマンス) photo:CorVos
メンバーを送り込めなかったCCC・リブやサンウェブが追走グループを率いて距離を詰めたものの、タイム差は残り20kmで35秒、残り10kmで20秒、そして残り5kmでも20秒。最終盤に入ると一気に距離が縮まったが、追いつくまでには至らない。ゴール勝負では先行するコペッキーのスプリント力を、中朝距離トラックレースのスペシャリストでもあるドールのスピードが上回った。

チームメイトのピーテルスと、早駆けしたコペッキーをリードアウトに使ったドールが先着し、2017年と2018年大会で2位に甘んじていたリベンジを達成。「ずっと調子が良く、ケンメルベルグでも余裕があった。ピーテルスがついてくれたことも助けになったし、勝利できて肩の荷が下りた気分」と喜ぶ30歳の元ベルギー王者は、今後ロンド・ファン・フラーンデレン女子レースに参加予定だ。
ヘント〜ウェヴェルヘム2020結果
1位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) 5:19:20
2位 フロリアン・セネシャル(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
3位 マッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)
4位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング) 0:01
5位 シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) 0:03
6位 ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ロット・スーダル) 0:04
7位 イヴ・ランパールト(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
8位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ) 0:07
9位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 0:08
10位 ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・マクラーレン) 1:40
ヘント〜ウェヴェルヘム2020女子レース結果
1位 ヨリーン・ドール(ベルギー、ブールス・ドルマンス)
2位 ロッテ・コペッキー(ベルギー、ロット・スーダル)
3位 リサ・ブレナウアー(ドイツ、セラティツィット・WNTプロサイクリング)
4位 ロイ・サラ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)
5位 マルタ・カヴァッリ(イタリア、バルカー・トラベル&サービス)
6位 ローレン・ステフェンス(アメリカ、チームティブコ・SVB)
7位 デミ・フォーリング(オランダ、パークホテル・ファルケンブルク)
8位 エリザベス・ダイグナン(イギリス、トレック・セガフレード)
9位 アミー・ピーテルス(オランダ、ブールス・ドルマンス)
10位 エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、ブールス・ドルマンス)
text:So Isobe

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