「今日の走りに後悔はない」。レース直後の囲み取材でクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック)は、何度もこの言葉を繰り返した。その表情は晴れやかで、時折咳き込みながら、ラルプデュエズに登りつめた5時間の長丁場を丁寧に振り返った。



ガリビエ峠で逃げグループに向けて飛び出すクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック)ガリビエ峠で逃げグループに向けて飛び出すクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos
「もちろんこの両手を上げ、ステージ優勝を喜びたかった。しかし今日は力の限りを出し尽くした。だから一切の後悔はない。落車からこの3年に渡る道のりを越え、ツールの中で最も難しいステージで3位に入ったんだ。満足と言える結果だ」。

クリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック)がメイン集団から飛び出したのは、スタート後40kmにも満たないガリビエ峠の下り。「ユンボ・ヴィスマが逃げとの差を1分半ほどでコントロールしていた。すると無線でピドコックがアタックして迫ってきていることを伝えられた。そして追いついてきた彼と協力して逃げ集団に合流を果たしたんだ」。そう語るように、フルームは下りで追いついてきたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)と共に9名の逃げ集団に入った。

プロトンより6分早く1級山岳ラルプデュエズ(距離13.8km/平均勾配8.1%)に突入すると、ピドコックがアタックして独走を開始する。「僕は以前、この登りで僕は失敗しているんだ。麓から調子に乗りすぎて(ハイペースで踏み過ぎて)しまった。だからピドコックが飛び出した時”僕は自分のペースで登ろう”と自らに言い聞かせた」。

大観衆のラルプデュエズを登坂するクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック)大観衆のラルプデュエズを登坂するクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos
ステム辺りに目線を下ろし、ハイケイデンスでくるくるとペダルを回す。ファンが待ちわびたその姿に、ラルプデュエズに集った数万人規模のファンはもちろん、中継で登坂を見守る世界中のサイクリングファンが湧き立った。

フルームは付かず離れずの距離でピドコックの背中を捉え続けていたものの、やがて脱落。22歳の若き英国人ピドコックに2分6秒、そしてかつて暮らした南アフリカ出身のルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)に23秒届かず区間3位でレースを終えた。

「いま自分が持ちうる最大限の力を発揮することができた。だから後悔はなく、最終山岳をあれ以上速くは登ることはできなかった。トム(ピドコック)とメインチェスが僕よりも優れたエンジンを積んでいただけ。良い走りをした彼らを祝福したい」。

口元に笑みを浮かべフィニッシュしたクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック)口元に笑みを浮かべフィニッシュしたクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos
2019年に負った大怪我からの復活を目指し、しかし山岳で早々と遅れる姿しか、ここまで見せることしかできなかったフルーム。その度「皆、僕がどんな状態から戻ってきたのか想像もつかないだろう」という訴えにも近い言葉をフルームは繰り返すことしかできなかった。

「今日のステージで僕は、小さな勝利を挙げた気持ちがする。アタックが繰り広げられる中に飛び込むことができた。それは素晴らしい感覚だった。どうやら今夜は、顔に笑顔を浮かべながら眠りにつくことができそうだ」。レース後に公開されたプレスリリースにはそう綴られていた。

「僕はこれからも戦い続ける。自分の限界がどこにあるのかは分からない。だが常に改善するべく模索をし、いつか彼ら(トップレベル)まで戻ってみせる」。

text:Sotaro.Arakawa

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