リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)が第77回ブエルタ・ア・エスパーニャ最後の山岳ステージでステージ3勝目&マイヨモンターニャ確定。危なげなく走り切ったレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)が自身初のグランツール総合優勝を確定させた。



9月10日(土)第20ステージ
モラルサルサル〜プエルト・デ・ナバセラダ 181km(山岳)


トレック・セガフレードのバスにはマイヨプントスのキャラが鎮座トレック・セガフレードのバスにはマイヨプントスのキャラが鎮座 photo:CorVosステージ優勝を目指すアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ステージ優勝を目指すアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:CorVos

ブエルタの最終山岳ステージがいよいよ幕開けるブエルタの最終山岳ステージがいよいよ幕開ける photo:CorVos
9月10日(土)第20ステージ モラルサルサル〜プエルト・デ・ナバセラダ 181km9月10日(土)第20ステージ モラルサルサル〜プエルト・デ・ナバセラダ 181km image:Unipublic9月10日(土)第20ステージ モラルサルサル〜プエルト・デ・ナバセラダ 181km9月10日(土)第20ステージ モラルサルサル〜プエルト・デ・ナバセラダ 181km photo:Unipublic


イベリア半島中央部にそびえるグアダラマ山脈が第77回ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝者を決定づける。モラルサルサルをスタートする181kmコースは1級山岳プエルト・デ・ナバセラダ(距離10.3km/平均6.8%)を皮切りに常にアップダウンを繰り返し、この日は合計5ヶ所のカテゴリー山岳を越える。

特に終盤は1級山岳プエルト・デラ・モルクエラ(距離9.4km/平均6.9%)と1級山岳プエルト・デ・コトス(距離10.3km/平均6.9%)が立て続けに登場し、最終山岳山頂から5.7kmの平坦路を挟んでフィニッシュになだれ込む。今大会最後、そして2022年グランツール最後の山岳ステージで、総合逆転を狙う選手や、逃げ切りを狙う選手がそれぞれの戦略をぶつけ合った。

獲得標高差4,000m弱。3週間にわたるマイヨロホ争いの総仕上げとなる最終山岳ステージは積極的なアタック合戦で幕開ける。すぐさまクレモン・シャンプッサン(フランス、AG2Rシトロエン)を含む7名が先行したものの、それでもメイン集団は全く落ち着かなかった。

メイン集団を飛び立ったロバート・スタナード(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)メイン集団を飛び立ったロバート・スタナード(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVosスタナードとソレルを追いかけるリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)たちスタナードとソレルを追いかけるリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)たち photo:CorVos

序盤の1級山岳で縮小したメイン集団をクイックステップ・アルファヴィニルが牽引序盤の1級山岳で縮小したメイン集団をクイックステップ・アルファヴィニルが牽引 photo:Unipublic
10kmオーバーで平均6.9%勾配を刻む1級山岳プエルト・デ・ナバセラダではマイヨモンターニャのリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)やユンボ・ヴィスマ勢が幾度も抜け出しを試みた末、マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ)やティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)を含む追走グループが出来上がる。

首位レムコ・エヴェネプール(ベルギー)擁するクイックステップ・アルファヴィニルはレースを落ち着かせるべくペースメイクを試みたものの、さらに現役最後のグランツールを走るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)、セルヒオ・イギータ(コロンビア、ボーラ・ハンスグローエ)といったトップ選手たちが次々とプロトンを飛び立つ。ハイペースによって1級山頂でメイン集団は20名ほどまで絞られ、怪我をおして走る総合5位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)は、この時点でエヴェネプールに対し1分以上のビハインドを背負うこととなる。

1級山岳山頂を通過して、ようやくメイン集団からのアタックは打ち止め。ダウンヒル後の平坦路で先頭6名から山岳賞狙いのロバート・スタナード(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)とマルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ)が抜け出し、遅れたメンバーは20名まで膨れ上がった1分半後方の追走グループへと飲み込まれる。ボーラとクイックステップがコントロールするメイン集団は先頭2人に対し5分程度のリードを許した。

苦しい戦いを強いられているカルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)をチームメイトが守る苦しい戦いを強いられているカルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)をチームメイトが守る photo:Unipublic
逃げグループを引っ張るリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)逃げグループを引っ張るリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
スタナードは落車リタイアしたジェイ・ヴァインの無念を晴らすべく最初2つのKOMを先頭通過。マイヨモンターニャを脅かす存在となったスタナードに対し、カラパスはこの日3つ目の峠で自らアタックしてスタナードを捉えて山岳賞逆転を阻止。4つ目の峠ではルイス・メインチェス(南アフリカ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)のアタックに反応する形でイギータと共に抜け出した。

一方、4分遅れで4つ目の峠を登坂したメイン集団ではモビスターが組織的なペースアップを開始した。総合2位エンリク・マス(スペイン)のタイム差を少しでも挽回すべく人数を絞り込み、フィニッシュまで40km(山頂まで2.7km)を残してマス自らアタックする。エヴェネプールや総合4位フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)がガッチリとマスに続いた一方、総合4位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン)と総合5位ロドリゲス、総合6位ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)たちは遅れては戻る苦しい戦いを強いられた。

リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)とセルヒオ・イギータ(コロンビア、ボーラ・ハンスグローエ)が逃げ続けるリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)とセルヒオ・イギータ(コロンビア、ボーラ・ハンスグローエ)が逃げ続ける photo:Unipublic
冷静なレース運びでメイン集団を率いるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)冷静なレース運びでメイン集団を率いるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Unipublic
いよいよ最終山岳、1級山岳プエルト・デ・コトス(距離10.3km/平均6.9%)のヒルクライムがスタート。先頭を走るカラパスとメインチェス、イギータの南半球勢トリオは、徐々にタイム差を縮めてくるニバリ&バルベルデ入りの追走グループを引き離すべくペースアップ。まずはメインチェスが遅れ、そして「この日をずっと狙い続けていたし、あらゆることが起こり得るだけに頭を使いながら走った」と振り返るカラパスが山頂手前でアタックし、バルベルデたちを飲み込んで10秒後ろまで迫ってきたメイン集団を引き離すと共にイギータを脱落させる。エヴェネプールたちが牽制でややペースを落としたことは、猛然とフィニッシュまで続く平坦路を飛ばすカラパスの間接的なアシストになった。

自らの脚でマイヨモンターニャを守り、さらには屈強なライバル勢と、総合バトルを繰り広げるメイン集団を振り切ったカラパスがフィニッシュラインへと戻ってくる。今シーズン限りで離脱するイネオス・グレナディアーズにマイヨモンターニャと今大会ステージ3勝目を献上した。

ステージ3勝目を挙げたリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)ステージ3勝目を挙げたリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
今大会3度目のステージ優勝を祝うリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)今大会3度目のステージ優勝を祝うリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
「すごく感動しているよ。素晴らしい勝利だ。僕がどんな選手かを証明する走りができたと思う。マイヨモンターニャを守ることが第一目標だったけれど、厳しいステージでどんどんメンバーが遅れていった。このジャージでのステージ優勝は素晴らしいこと。今日はエクアドルのファンがたくさん沿道で応援してくれるのを見た。彼らがレースを楽しんでくれていれば幸せだよ」と言うカラパスは、母国ファンの応援に感謝する。

来季EFエデュケーション・イージーポストに移籍するカラパス。総合成績を狙って参戦したこのブエルタは序盤戦で遅れたものの、第2週目から息を吹き返し見事にステージ3勝&山岳賞確定と完全復活。2019年ジロ・デ・イタリア覇者&東京オリンピック覇者が登り調子で3週間の戦いを締めくくることとなる。

頭を抱えてフィニッシュするレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)頭を抱えてフィニッシュするレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:CorVos
フィニッシュ直後に涙を流したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)フィニッシュ直後に涙を流したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Unipublic
一方、すぐ後ろに迫っていた総合5位ロドリゲス不在のメイン集団は、今大会積極的な走りが目立ったテイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM)が5秒抜け出した状態でフィニッシュ。今大会の最終山岳決戦が締めくくられると共に、スマートな走りを披露したエヴェネプールはカラパスから15秒遅れてのステージ6位で終えて総合優勝を確定させた。

フィニッシュ後に涙を流したエヴェネプールは、「昨日の夜は眠れずに今朝は大きなストレスを感じていた。今日がどんな展開になるか予想できていたし、その通りスーパータフなステージとなった。それでも上手く立ち回ることができて、総合優勝を掴み取ることができた。本当に嬉しいよ」と、これまで耐え続けてきたプレッシャーから解放された柔らかな笑顔を見せる。

表彰台で涙をこぼすレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)表彰台で涙をこぼすレムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Unipublic
自身2度目のグランツールで総合優勝を確定させた22歳が、これまで14日間守り続けたマイヨロホと共にマドリードへと凱旋する。明日無事に走りきれば、史上4番目に若いブエルタ総合覇者(22歳7か月と19日)に輝くこととなる。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2022第20ステージ結果
1位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 4:41:34
2位 テイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM) +0:08
3位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) +0:13
4位 ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 エンリク・マス(スペイン、モビスター)
6位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) +0:15
7位 ルイス・メインチェス(南アフリカ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
8位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン)
9位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:17
10位 セルヒオ・イギータ(コロンビア、ボーラ・ハンスグローエ) +0:32
12位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1:23
33位 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナカザフスタン) +8:01
マイヨロホ 個人総合成績
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) 78:00:12
2位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +2:05
3位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) +5:08
4位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナカザフスタン) +5:56
5位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +7:16
6位 テイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM) +7:56
7位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +7:57
8位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) +10:30
9位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト) +11:04
10位 ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) +12:01
マイヨプントス(ポイント賞ジャージ)
1位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) 379pts
2位 フレッド・ライト(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス) 174pts
3位 マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツ) 133pts
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 73pts
2位 ロバート・スタナード(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 36pts
3位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) 28pts
マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) 78:00:12
2位 フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ) +5:08
3位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +7:16
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 233:16:44
2位 イネオス・グレナディアーズ +55:13
3位 モビスター +1:16:41
text:So Isobe
photo:Unipublic, CorVos