次々と新型バイクをリリースしていたフカヤが用意した新作はギザロとして展開されるエンデュランスロード“GE-110”だった。三船雅彦さんと共に開発を行い、ロンドン〜エディンバラ〜ロンドンの好タイム完走をサポートする性能を手に入れた意欲作をテストした。



ギザロ GE-110ギザロ GE-110 photo:Makoto AYANO / cyclowired.jp
イタリアが誇る秋のクラシック、イル・ロンバルディア。シーズン最後のUCIワールドツアーのプロトンが駆け抜けるコース脇にギザロ教会は佇んでいる。教会は風光明媚な観光地と知られるコモ湖を見下ろす山の上に位置し、レースでは勝負所の一つとして、ホビーサイクリストからは聖地として数多くのライダーが足を運ぶ名所となっている。

そんなギザロをブランド名に採用したのが、名古屋の代理店フカヤのオリジナルブランドだ。ギザロというブランドに用意されるプロダクトは、ロードサイクリングの聖地という面にインスパイアされたファストライドに着目したもの。対して、スイスの名所から名称をつけたダボスは、牧歌的なツーリング系の製品が展開されるブランドとして位置付けられている。

コンパクトなリア三角が採用されているコンパクトなリア三角が採用されている シートポストは汎用的な丸型断面とされたシートポストは汎用的な丸型断面とされた フロントフォークにはあえてアイレットが設けられていないフロントフォークにはあえてアイレットが設けられていない


そのためギザロから登場するモデルはどれもライダーのパフォーマンスを効率よく推進力に変換される性能が与えられている。ラインアップに加えられたロードバイクのGE-110もその一つだ。「速く、快適に走れるバイク」をコンセプトに構想から約2年以上の開発とテスト走行を重ね、サイクルモードでのプロトタイプお披露目を経て、いよいよ販売が決定した意欲作。

このコンセプトを実現するためにテストに貢献したのはプロサイクリストの三船雅彦さん。パリ〜ブレスト〜パリなど超長距離ブルベを意欲的に走る三船さんの経験が開発に加わった。「プロトタイプ1号機は重量の軽さの割に走りの軽さが少なかった。このバイクは重量こそ最初のプロトほど軽くはありませんが、走りの軽さは前回を上回ります」と三船さんはGE-110がお披露目されたショップスタッフ向け展示会で語った。

三船さんはプロトタイプの最新版をロンドン〜エディンバラ〜ロンドン(LEL)に持ち込み最後のテストを行い、1,540kmの超長距離ライドを全体の10番目に速いタイムで完走を果たした。果てしないロングライドで最後までライダーがパフォーマンスを発揮でき、イベント翌日も荷物を取り外した状態で80kmのサイクリングに出かけられるほど体力を残せたという。三船さんのLELレポートはこちら

トップチューブマウントも採用されているトップチューブマウントも採用されている デダ・エレメンディのDCRシステムにも対応するコックピットデダ・エレメンディのDCRシステムにも対応するコックピット

螺鈿のようなギザロロゴがあしらわれている螺鈿のようなギザロロゴがあしらわれている ヘッドチューブは非常にシンプルな造形だヘッドチューブは非常にシンプルな造形だ


そんな三船さんの走りを支えたGE-110の特徴は、荷物を載せた時に自転車の能力を発揮するように剛性が調整されていること。プロトタイプ1号機はウルトラライトウェイトをコンセプトとしていたため、荷物を積載した際や、向かい風のなかハイパワーでペダリングする際に剛性が不足したのだという。その点を見直すことで、LELの快走を実現する性能を実現するに至った。

さらにボトルケージ台座やダウンチューブ下の台座の位置をボトムブラケットに近づけ、さらにアイレットを3つ備えることで、荷物積載時の重心位置を可能な限り下げられる作りとなっている。多くの荷物を運ぶ時、ダンシングやコーナリングでバイクの挙動が乱れやすくなるが、マスをボトムブラケット付近に設定することで、ダウンヒル時でもバイクをコントロールしやすい安定性を獲得した。

ロードレーサー然とした造形が特徴的だロードレーサー然とした造形が特徴的だ トップチューブの直線的な形状もトレンドのエアロオールラウンダーのようトップチューブの直線的な形状もトレンドのエアロオールラウンダーのよう


超長距離ライドでアドバンテージを得るためにエアロダイナミクスも考えられている。フレームやチューブがエアロ形状となるだけではなく、付属するオリジナル・カーボンハンドルやケーブルのフル内装システムを採用することで、わずかでも抵抗を削減しようという設計意図が見てとれる。

フル内装のコックピットはハンドルバーバッグを装着しやすく、パッキングという面でもメリットは大きい。この内装システムはデダ・エレメンティのDCRと共通しており、VINCIをはじめとするオリジナル以外のパーツを選択できるのは嬉しい。

ロードバイクとしてのライドフィールを維持するために重量は塗装なしで850gに抑えられ、最大のタイヤ幅は32Cというスペックが採用された。販売はフレームセットで行われ、カーボンステムやカーボンシートポスト、先述したハンドルが付属し、価格は253,000円(税込)という設定。手持ちのコンポーネントを活用して、カーボンロードを初めて買う方などにはピッタリなバイクとなっている。

できる限りボトルケージを下側に配置できるように設計されているできる限りボトルケージを下側に配置できるように設計されている ダウンチューブのストレージマウントは3ボルト仕様だダウンチューブのストレージマウントは3ボルト仕様だ 他に例を見ないダウンチューブ裏の3ボルト仕様他に例を見ないダウンチューブ裏の3ボルト仕様


ネオランドナー、ネオスポルティーフ、オールテレインを矢継ぎ早にリリースしてきたフカヤが満を持して用意したロードバイクのGE-110。長距離を速く、快適に走るために開発された意欲作の実力やいかに。



–インプレッション

「速く走る心を持ちながら、長距離ライドを楽しみたい方におすすめ」成毛千尋(アルディナサイクラリー)

「速く走る心を持ちながら、長距離ライドを楽しみたい方におすすめ」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「速く走る心を持ちながら、長距離ライドを楽しみたい方におすすめ」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
とにかく”よく考えられた”バイクですね。もしかしたらこれがエンデュランスロードの最新形なのかもしれない。ただ長距離を走るのではなく、速く走る心を持ちながら長距離ライドしたい人にはピンポイントに刺さるバイクだと思います。

これほどマウントが用意されたバイクで、これほど軽いバイクは他にないと思います。大手メーカーは軽量バイクやエアロ、エンデュランスなどキャラクターづけをしなければならないのに対し、これは良い意味で曖昧さがある。ピントがぼやけているのではなく、様々な用途や目的が想定されてデザインされた完成度の高いバイクです。

例えばレースバイクの特徴である軽量や剛性の高さは、全てのライダーにとってのメリットとは必ずしも言えません。だからと言って快適性を高めるための(サスペンション等の)ギミックや長いホイールベースは、ライダーが成長していくに従い”物足りなさ”に繋がっていしまいます。本当に長く付き合える相棒を探しているのならば、このギザロが現行の最適解なのかもしれません。

「安定感が高くペダリングがしやすい」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「安定感が高くペダリングがしやすい」成毛千尋(アルディナサイクラリー) シャープなコーナリングと低重心が特徴

エンデュランスバイクにありがちなモサッとした印象が無く、踏み出した瞬間からレーシングバイクのような感覚がありました。リアセンターの短さが加速の良さに繋がっており、軽さともがいても力が逃げない程度の剛性を持ち合わせています。

このジャンルのバイクにしては秀でた軽さがあり、シッティングのまま登ることが容易にできました。また重心の低さがダンシングする時の安定性に繋がっており、バイクが振りやすい印象です。今回はボトルケージなど荷物を積載しない状態でのテストでしたが、ダボ穴が低めについているのでバックなどをつけても低重心が保たれるだろうなと予想できますね。

コーナリングは自分の描いたラインをなぞってくれるほどシャープで、下りでスピードを出しても決してブレるようなことはありませんでした。唯一スタックの高さだけは少し大げさな印象を受けましたが、十分に個性の一つとなっていますね。

メジャーブランドではない強み

ロードバイクは安くない買い物だから、買う人は「失敗したくない」とメジャーブランドを選びがちです。コストパフォーマンスに優れている一方で、そこで訝しげに思ってしまうお客さんには”是非乗ってみて!”と言いたいです。乗ればこの魅力は伝わる、そんな通好みのバイクですからね。

また僕はブルベ専用マシンではなく一般的なロードバイクと同じ土俵にたつモデルと考えています。「ブルベもできる性能がある」ぐらいの認識で丁度いい。エンデュランススピードバイクというか、三船雅彦さんが監修しているからこそ「速く走る」ことをしっかりと意識されているバイクです。


「ロードバイクのような見た目も、内実はエンデュランス」高木三千成(シクロワイアード)

「ロードバイクのような見た目も、内実はエンデュランス」高木三千成(シクロワイアード)「ロードバイクのような見た目も、内実はエンデュランス」高木三千成(シクロワイアード)
エンデュランスバイクとはいえロードバイクのような見た目をしており、小さなリア三角による高い反応性が生み出す推進力が印象に残りました。乗ってみた感じの重量感は多少ありつつも、登りでのダンシングで小気味よく進んでくれるし、シッティングでもリズミカルにペダリングができました。

価格を考えるとしなやかさ、軽さ、反応性の良さは十分ありますし、ハイエンドカーボンレーサーと比較するなら長い距離を乗る快適性という視点で見ればこれらの点はアドバンテージになると思います。

特にエンデュランスロードらしさを実感したのはスプリントしてみた時です。やはり踏み込んだ力が直ちに推進力に変わるのではなく、エンデュランスらしいタメがある。しかしそれが長距離を乗っても脚にダメージを残さないことに繋がるのだと思うのです。またヘッド長も比較的長めに作られているので、そこからも長距離ライドを意識しているのだと感じます。

幅広いサイズも納得する癖のない乗り心地

デダのDCRに対応するコックピットシステムデダのDCRに対応するコックピットシステム
長いホイールベースの見た目通りに直進安定性が良く、踏み心地も気持ちよく脚への優しさを感じられます。またシートステーが少し下がっているので、サスペンションのようなギミックがなくても多少なりともショックを吸収していると考えられます。例えば200kmを乗った時、レーシングバイクと比べて脚が残るのはこちらの方で、癖のない乗り心地からも男女問わずオススメしやすいバイクで、サイズが44〜57までと幅広いことも納得ですね。

今回はULTEGRAのホイールを使いましたが、もっとレースライクなホイールを履けばハイスピードで駆けるポテンシャルを感じましたし、このハンドルを更に振動吸収性の高いものにすれば更に快適性を向上させることができると思います。逆にサスペンションなどがないので未舗装路では突き上げる感覚があるものの、グラベルホイールも試してみたくなるような懐の深いバイクです。

ギザロ GE-110ギザロ GE-110 photo:Makoto AYANO / cycowired.jp
ギザロ GE-110
フレーム:ハイモジュールフルカーボンフレーム
フロントフォーク:フルカーボンフォーク/コラム未カット
フレーム重量:約850g(未塗装・S サイズ)
フォーク重量:約400g(未塗装/コラム未カット)
ステム:内装式コラム対応 専用カーボンステム 長さ:90/100/110/120
ハンドル:内装式カーボンハンドル 幅:380/400/420/440 リーチ:80 ドロップ:130
ブレーキマウント/BB 仕様:前後フラットマウントブレーキ/BB86 プレスフィットBB
前後スルーアクスル:F12x100、R12x142 (M12*P1.5mm)
クランク/チェーンリング:シングル47T(max), ダブル53Tx39T(max)
ローター径:F/R 最大160mm 対応
シートポスト:27.2mm××350 mmカーボンシートポスト付属(ダブルクランプ)
タイヤサイズ:700c Max 32mm
カラー:Oxidized silver(オキシダイズドシルバー)
価格:253,000円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

成毛千尋(アルディナサイクラリー)成毛千尋(アルディナサイクラリー) 成毛千尋(アルディナサイクラリー)

東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。

アルディナサイクラリー


高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。



text:Gakuto Fujiwara, Sotaro Arakawa
photo:Makoto AYANO

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