モデルチェンジを果たしたトレックのDomane SLR。フロントのIsoSpeedを廃止し、リアも簡素なシステムとすることで、Domane史上最軽量となった新型エンデュランスロードをインプレッション。最上級のカーボンの採用で身につけた軽快な走りと、IsoSpeedとワイドタイヤによる快適性をハイレベルでバランスしたバイクの実力に迫る。



トレック DOMANE SLR7トレック DOMANE SLR7 photo:Makoto AYANO / cyclowired.jp
三大アメリカンブランドの一角トレックが展開するロードバイク三本柱のMadone、Emonda、Domane。ウィスコンシン州ウォータールーで開発されるバイクは、いつの時代も世界中のサイクリストの期待を上回る性能を実現させてきた。2022年も他に類を見ないIsoFlowを採用したMadoneをローンチし、今回もまた大きく注目されたのは記憶に新しいだろう。

Madoneがツール・ド・フランス前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネで正式発表された後、9月にDomaneがデビューを果たし、トレックとしてはロードカテゴリーにおいて2車種のモデルチェンジが敢行された珍しい1年となった。新モデルの中から今回はDomaneの最上位グレードSLRをピックアップする。

パリ〜ルーべ勝利のために開発されたDomaneのアイデンティティは、トレックオリジナルの衝撃吸収システムIsoSpeedにある。初代Domane(2016年)に搭載されたIsoSpeedは、2016年デビューの第2世代ではフロントとリアに搭載、それをブラッシュアップした第3世代が2019年にローンチ。その中でIsoSpeedはより複雑な機構となってきた。

マッシブなシートステーはトップチューブに接続されるマッシブなシートステーはトップチューブに接続される 新型Iso Speedは小型化を果たしている新型Iso Speedは小型化を果たしている フェンダーマウントを装備したフォークもエアロ形状とされているフェンダーマウントを装備したフォークもエアロ形状とされている


3年ごとに新モデルが発表される周期通りにデビューした新型DomaneのIsoSpeedは一転して、フロントのユニットは廃止され、リアは非調整式の小型ユニットに。シンプルな機構に回帰した目的はバイクの軽量化で、SLRとSLグレードどちらも先代より300gものダイエットに成功し、Domane史上最軽量のフレームを実現した。

エンデュランスバイクにおいても軽量性のアドバンテージは大きい。登りも軽やかに走れるようになると行動範囲が広がるし、自転車を前に進ませるために必要な力が小さくなれば、疲れにくくなり距離を伸ばすことに繋がる。エリーザ・ロンゴボルギーニのようにパリ〜ルーベで勝利を収める戦闘力もまた、メリットの一側面だ。

トップチューブマウントも備えられているトップチューブマウントも備えられている ケーブル類はコラム前方から内装される方式に変更されているケーブル類はコラム前方から内装される方式に変更されている

トレックが誇るOCLV800カーボンを使用するトレックが誇るOCLV800カーボンを使用する トレックらしい造形のヘッドチューブトレックらしい造形のヘッドチューブ


IsoSpeedの簡略化によって軽量化が進められたとはいえ、快適性を犠牲にしているわけではない。Domaneはモデルチェンジごとにタイヤクリアランスが拡大しており、新型では最大38Cまでの設定とされた。大きなエアボリュームによる快適性を期待できるワイドタイヤの装着を念頭に置く設計とすることで、エンデュランスロードとしての衝撃吸収性をパッケージ全体で実現。ユーザーのタイヤ選択で軽快性と快適性のバランスを整えることができるマシンに仕上がっている。

新型Domaneではケーブルの内装方式をブラッシュアップし、コラムの前方から全てのケーブルが収納される設計となった。この方式ではケーブルの露出が少なくなり、エアロダイナミクス向上に寄与。トレックが誇るカムテールチューブ形状のKVFチュービングとステム一体型ハンドルバーと相まってレースで求められる優れた空力性能を実現する。

T47規格のボトムブラケットが採用されるT47規格のボトムブラケットが採用される ボントレガー Aeolus Pro37とR3(32C)タイヤを組み合わせ、エアボリュームを確保したボントレガー Aeolus Pro37とR3(32C)タイヤを組み合わせ、エアボリュームを確保した


またSLRグレードはレースモデルのRSLにも採用されるハイエンドカーボンOCLV 800を採用することもポイントだ。重量と剛性バランスが優れたEmondaにも使われるトレック独自のカーボンをDomaneにも用いることで、効率的に、速く、快適な性能をマシンに与えている。

RSLと異なるのはフロント周りのジオメトリがH2と、RSLのH1.5よりもリラックスポジションとなる設計とされている点。加えてダウンチューブの内蔵ストレージや、トップチューブマウント、フェンダーマウントも採用されている。レースのためにあらゆるものを削ぎ落としたRSLに対して、SLRはサイクリングのクオリティを向上させてくれるバイクに仕上げられた。

ダウンチューブには内蔵ストレージが備えられているダウンチューブには内蔵ストレージが備えられている ダウンチューブ裏側にもストレージマウントが備えられているダウンチューブ裏側にもストレージマウントが備えられている タイヤクリアランスの最大幅は38Cと非常に広いタイヤクリアランスの最大幅は38Cと非常に広い


Project Oneに用意されたマットブラックのフレームに、スラムForce eTapのコンポーネントを載せた完成車をテスト。ホイールはボントレガーのAeolus Pro 37、タイヤはボントレガーR3 TLRの32Cだ。より遠くへ、より快適に、というサイクリストの願いを叶えてくれる新型Domaneの実力に迫ろう。



−インプレッション

「限られたライド時間を極上な体験にしてくれる一台」成毛千尋(アルディナサイクラリー)

「ライドの時間を極上の体験にしてくれる上質なマシン」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「ライドの時間を極上の体験にしてくれる上質なマシン」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
とにかく上質なバイクという表現に尽きます。乗り心地の良さを含め、良いパーツを組み集め完成させた”最上級”という言葉がぴったりのバイクですね。例えばピュアレーシングバイクをスポーツカーに例えるのならば、この新型ドマーネはトヨタ・センチュリー(最高級乗用車)という感じ。なかなか唸らせるバイクでした。

SLRのフレームを使っているからか、数字上だけではない軽さを感じることができます。しっかりと脚のパワーを受け止めてくれる軽さといいましょうか。そこにジオメトリーやIsoSpeedといったギミックが付加されることによって、エンデュランスバイクらしい快適性が加わっている。まるで絨毯の上を走っているような滑らかさですね。

確かにハイエンドレーシングバイクと比べると多少の重さは感じられますが、その重さが安定感や路面に吸い付きながら進む気持ち良さを生んでいます。それは未舗装路を走っていても顕著で、グラベルだということを忘れさせてくれるぐらいでした。

グラベルも可能。しかし、あくまでもロードバイク

「リアのIsoSpeedだけで快適性は十分に味わえる」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「リアのIsoSpeedだけで快適性は十分に味わえる」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
フロントのIsoSpeedを廃した影響が気になっていましたが、リアのIsoSpeedだけでその効果は十分だと思いました。サスペンションが効いているおかげか、未舗装路でもトラクションが綺麗にかかってペダリングがスムーズになっています。だからといってそれがオンロードでの走りをスポイルしていない。とても良い塩梅に調整されていると感じました。

グラベル区間の比率を上げたいのならばノブのついたタイヤを履かせたり、太いタイヤを選択したいですね。この広いクリアランスだと40Cまで入りそう(公称では38C)。

オンロードで乗り心地を重視し、ある程度の巡航速度を求めるならば32Cがいいですね。もちろんルートに登りがあるならば28Cでも良いですが、せっかくこれほど広いクリアランスならば28〜30Cは中途半端な気がしてしまいます。個人的なオススメはやはりどんな路面にも対応できる32Cですし、ホイールはミディアムからローハイトのものを選びたいです。

「余裕を持って走るためのロードバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「余裕を持って走るためのロードバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー) 限られたライドを極上の時間に導いてくれる

ロングライドはもちろんグラベルやレースも十分可能なバイク。また直進性を活かしてDHバーをつけてトライアスロンやアイアンマンレースも走りうるポテンシャルを秘めています。コーナーが多少窮屈なトライアスロンバイクよりも、脚の疲れが軽減されるであろうこちらの方が良い可能性もあります。これは200kmを走る10時間を最後まで快適にしてくれるバイクです。

ネガティブな面はコーナリングでほんの少しヨレる印象を受けたぐらい。もしかしたら今回履いたタイヤ(ボントレガーR3 TLR32C)の影響もあるかもしれませんが、そもそもこれはコーナーを攻めるバイクじゃない(笑)。自分の身体能力を超えて走るバイクではなく、ライダーのコントロールの範囲内で走るバイクですからね。

オススメしたいのは限られた趣味の時間を”極上”にしたい人。自転車を趣味とする人は皆仕事があり、忙しい中でも週末のライドを楽しんでいます。その限られた時間は最高であるべきで、そのためにこの新型ドマーネは最適な選択となります。そんな人に選んでほしいですね。

まとめると「なんでも行けまっせ!」の頂点のようなバイク。完成車で約150万ですが、時代もそうですしこれは全てが頂点のバイクです。納得できる価格だという印象を受けました。

「走るシチュエーションを選ばない性能に磨きがかかったバイク」高木三千成(シクロワイアード)

「グラベルでの快適性が向上した」高木三千成(シクロワイアード編集部)「グラベルでの快適性が向上した」高木三千成(シクロワイアード編集部)
舗装路からハイスピードで砂利道に突っ込んでも不安定さを感じることなく、バイクが路面の変化に対応してくれました。以前のドマーネと比べて顕著だったのはグラベルでの快適性が向上しており、「場所や路面を選ばない」バイクとしての魅力が一段階上がったような印象です。

フロントのIsoSpeedがなくなったにも関わらず、大きめの石に乗り上げた時の突き上げるような衝撃を吸収していたことに驚きました。レースバイクならば身体が痺れるような振動も、最低限の路面情報は残しつつ小石程度にまで和らげてくれる。パリ〜ルーベを制したバイクというのも納得の振動吸収性能でした。

その理由はタイヤはもちろん、このクリアランスが広く微妙なカーブのフォークが少したわむように設計されているからだと推測します。それがフレーム全体に及び、リアのIsoSpeedで衝撃を吸収してくれるのでしょう。未舗装路では無いはずのサスペンションを感じるほどの滑らかさがありました。

ダウンチューブの内蔵ストレージは、ライド必需品を収納するのに便利だダウンチューブの内蔵ストレージは、ライド必需品を収納するのに便利だ
この試乗車にはボントレガーの32Cのタイヤが装着されていましたが、ロードバイクらしく速く走るようなライドやオフロードを楽しむライドの両方ができる点で、バランスが取れたタイヤ幅だと感じました。巡航スピードが速いライドであれば、28Cや30Cなど細いタイヤを履かせるのも良し。また、カタログスペックでは38Cまでタイヤクリアランスがあるので、太めの38Cのタイヤを装着して、より荒れたオフロードを走るアドベンチャーライドもしてみたいですね。

トップスピードの伸びはピュアレースバイクに匹敵

一方の舗装路では長めのホイールベースによって直進安定性が確保され、長時間のライドでも疲れにくく走りやすいバイクに感じました。急激なスピードの上げ下げは苦手なバイクですが、それは逆に柔らかい脚当たりをもたらしてくれる。それでいてトップスピードはレースバイクに匹敵するほど伸びるので驚かされました。

ニュートラルという表現がぴったりくるようなバイクで、エンデュランスロードに分類される他のバイクに比べハンドリング性能も高くなっています。そのためレースバイクであるマドンやエモンダから乗り換えてもそこまで大きな違和感はないと感じました。是非、ハンドルやホイールをシーンや好みに合わせてカスタムしたい、そんなバイクでした。

トレック DOMANE SLR7トレック DOMANE SLR7 photo:Makoto AYANO / cyclowired.jp
トレック Domane SLR7
フレーム:800 Series OCLV Carbon
フォーク:Domane SLR carbon
コンポーネント:スラム Force eTap Quarq
ホイール:ボントレガー Aeolus Pro 37
タイヤ:ボントレガー Domane SLR carbon
価格:1,501,390円(税込、パーツやカラーによって変動)



インプレッションライダーのプロフィール

成毛千尋(アルディナサイクラリー)成毛千尋(アルディナサイクラリー) 成毛千尋(アルディナサイクラリー)

東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。

アルディナサイクラリー


高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。



text:Gakuto Fujiwara, Sotaro Arakawa
photo:Makoto AYANO
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