「オールロードバイク・レボリューション」 (日本語版)が山と渓谷社から刊行された。自身もサイクリストにしてタイヤ/パーツブランドを主宰し、サイクリング雑誌の編集長であるヤン・ハイネ氏が、グラベル/オールロードバイクの魅力や優れたパフォーマンス性、自転車という乗り物の形態・構造、身体的効果の連関をロジカルに解説した一冊だ。



ヤン・ハイネ著「オールロードバイク・レボリューション」 (山と渓谷社)ヤン・ハイネ著「オールロードバイク・レボリューション」 (山と渓谷社) photo:Makoto AYANO
太いタイヤで、舗装・未舗装を問わない走行性能と走破性を兼ね備える「グラベルバイク」のムーブメントが盛り上がりを見せています。本書は、自身もサイクリストで、自転車タイヤ/パーツのブランド‘René HERSE’(ルネ・エルス)を主宰し、自転車雑誌『Bicycle Quarterly』編集長であるヤン・ハイネ氏が、グラベル、オールロードバイクの魅力や優れたパフォーマンス性、自転車という乗り物の形態・構造、身体的効果の連関を、ロジカルかつ平明に解説。また、自転車の発展の歩みをたどる歴史読み物としての面も合わせ持つ内容です。
自転車がいかに走るかという根本原理を深く理解できると同時に、自らの指向/志向を明確に持ち、自転車のパフォーマンスを追及するマニアックなサイクリストにとっては、フレーム作りやパーツ選択の支柱となる知識をアップデート&再確認できる1冊です。(山と渓谷社の案内より)



アンバウンド・グラベルを走ったヤン・ハイネ氏(右)。駆るのは自らプロデュースするルネ・エルス製品を搭載した極太タイヤのランドナーだアンバウンド・グラベルを走ったヤン・ハイネ氏(右)。駆るのは自らプロデュースするルネ・エルス製品を搭載した極太タイヤのランドナーだ ©Jan Heine「舗装路からグラベルへ 1台で駆け抜ける速く快適な自転車の科学」と副題のつけられた本書。著者のヤン・ハイネ氏はシアトルに拠点を持つアメリカ人。スポーツバイクタイヤやパーツブランドの‘René HERSE’(ルネ・エルス)のオーナーであり、季刊のサイクリング雑誌『Bicycle Quarterly(バイシクル・クォータリー)』編集長でもある。自身熱心なサイクリストで、今年のアンバウンド・グラベル(世界最大のグラベルレース)では350マイル(=560km)を走るXLクラスを上位で完走する走力の持ち主。そんな氏の20年の経験と知見をまとめあげたのが本書だ。英語版の原書は2020年に上梓され、この度日本語訳として刊行された。

ハイネ氏がテーマとする「オールロードバイク」とは。全米発信で大流行するグラベルバイクについて解説した書かと思えばそうではなく、舗装路から未舗装のグラベルまで、ときに荷物を積み、道を選ばずに1台で速く・快適に走れる自転車のこと。

今年のアンバウンド・グラベルでは日またぎで350マイル(=560km)を走るXLクラスを25時間24分、参加100人中25位相当のタイムで走りきったハイネ氏。過酷なレースで氏が駆ったバイクは、ハンドメイドの金属フレームに、自ら設計・製品化したルネ・エルスブランドのオリジナルパーツやタイヤ、キャリア、伝統的スタイルのフロントバッグなどを組み合わせた、ランドナーのようなルックスの古くて新しい独自のセットアップ。

自転車の様々なエンジニアリングがイラストを併用して解説される自転車の様々なエンジニアリングがイラストを併用して解説される 元はと言えばルネ・エルスは、アレックス・サンジェとともにフランスの至宝と讃えられたランドナーやスポルティフのハンドメイド自転車工房として知られるが、ロードやトラックの競技バイク製作も得意とし、ウルトラディスタンスレースでも数多くの勝利を獲得してきた。今はハイネ氏がブランドと事業を継承し、ハイパフォーマンスバイクの伝統を引き継いでいる。極太タイヤやキャリア、クランクなどの製品もオリジナル。つまりハイネ氏の駆るバイクは自らのブランド製品の走るテストバイクでもある。

Bicycle Quarterly(バイシクル・クォータリー)誌では走る編集長として自ら最新バイクやパーツなど、あらゆる製品をテストし、記事にしている。本書に序文を寄せたテッド・キングらグラベル界の著名人との親交も厚く、誌の企画として自転車について語り合うことも。そんなハイネ氏の自転車に関する20年以上のあらゆる経験とノウハウをまとめあげたのが本書だ。

ルネ・エルスのブランドを想起させるブルーで構成されたテキストとイラストによる書。自転車の形態や種類、構造、各部の働きや機能などについて紐解きながら、テスターであり編集者である氏の経験とデータに基づいて細部に渡って詳細に解説されている。

スポーツバイクの機能に言及するエンジニアリングの書でありながら、主観的で感覚的な表現も多いが、それらはいずれも氏の実走経験や実験・検証に基づいて解説される言葉だ。冷静に書きすすめられるようでいて、自転車に対する愛や、走ることへの情熱、探究心がほとばしって隠せない。そのことがより現実味を帯びた提案として読み手に提示される。

ヤン・ハイネ氏が編集長をつとめる季刊誌 Bicycle Quarterly(バイシクル・クォータリー)ヤン・ハイネ氏が編集長をつとめる季刊誌 Bicycle Quarterly(バイシクル・クォータリー) photo:Makoto AYANO
多様な広がりを見せるグラベル/オールロードバイクの世界。アメリカのグラベルイベントの参加者を見ても、そのスタイルの多様さに驚くばかり。そこにひとつの正解は無く、それぞれが自分のスタイルを追求している。独特なスタイルでオールロードバイクのパフォーマンスを純粋に追求してきたハイネ氏もそのひとりだ。

ハイネ氏は自転車のディテールにこだわることでライダーと自転車が完璧に調和すれば、サイクリングは人間を鳥の領域にまで高めると言う。快適さと良いパフォーマンスをもつ自転車によって得られる一体感で、ライディングはエキサイティングで楽しいものになると。書はそうした一貫したテーマに沿って、ハイネ氏が路上で判明したとする実践的なデータとアドバイスをもとに書かれている。

ヤン・ハイネ氏はつねに同誌のプロダクツテスターであり、紀行文を寄せるライダーであり、編集長であるヤン・ハイネ氏はつねに同誌のプロダクツテスターであり、紀行文を寄せるライダーであり、編集長である ハイネ氏が理想とするオールロードバイクの像は、読み進めるうちに明らかになっていく。速さと快適さを両立したのが氏の提唱するオールロードバイクだ。しかし各章で述べられる論は、今の「主流」とは少し違っていることで、迷路に誘うような記述があるかもしれない。しかしある程度スポーツバイクに乗り込んだ人が、自分の会得した乗り方や感覚を元に、自転車の扱い方を改めて学ぶ良い機会を与えてくれる。あるいは、変化をもたらすきっかけをくれるだろう。

トップブランドの既製品を買って満足している人には必要ないかもしれないが、走るうちに愛車をカスタマイズしたい欲求が出てきたような人にはヒントが多いかもしれない。定型の製品に囚われず、自転車をいちからオーダーしたいような人なら必読だ。とくにオールロードバイクというジャンルに足を踏み入れた人なら、速く快適に走る術を多面的に学べるだろう。

ハイネ氏は書の目的について「どの自転車に乗れなどということではなく、自分自身で選択が可能になるだけの情報を提供すること」と書いている。

こうした技術書は一概に面白いものではないが、ハイネ氏の展開する論に納得できること、できないこと、別の角度から検証したいと思うことなども随所にあり、それらを含めて面白く読みすすめられる。(綾野 真)



オールロードバイク・レボリューション
著者 ヤン・ハイネ著 北澤 肯訳 高部 智弘訳 星 寛訳
発売日 2022.12.02発売
販売価格 3,850円(本体3,500円+税10%)
山と渓谷社HP内の紹介 https://www.yamakei.co.jp/products/2822242400.html
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