アウトドアスポーツの聖地となるポンテシャルを秘めた魅惑の国「スリランカ」で開催された縦断サイクリングツアー「Ride Sri Lanka2023」にプロマウンテンアスリートの池田祐樹が挑戦、7日間で約850kmを走った。観光資源豊かな国を盛り上げることがミッションだ。大自然と美食を楽しんだ旅の模様をお届けします。

南国スリランカの大地を颯爽と駆け抜けるライダーたち Photo: Sri Lankan Airlines



(プロマウンテンアスリート)池田祐樹(TOPEAK ERGON RACING TEAM USA ) Photo: Sri Lankan Airlines
池田祐樹(プロマウンテンアスリート) プロフィール
TOPEAK ERGON RACING TEAM USA 所属(MTB)
TEAM ALTRA所属(トレイルラン)

2011-2017年の7年間連続で、MTBマラソン世界選手権日本代表として参加。MTBの長距離、耐久レースの国内第一人者とされる。2019年から、MTB競技のみならず、トレイルランを本格的に始め、2種目のウルトラ競技(100マイルやステージレースなど)をトップレベルで戦う山の総合エンデュランスアスリート「マウンテンアスリート」の第一人者として活動中。

公式インスタグラムアカウント:https://www.instagram.com/yukiikeda/
公式ウェブサイト:https://yukiikeda.net/

今回のスリランカ縦断ツアーのルート図。総距離約850km、獲得標高は約8600m
ライド スリランカ2023 概要
開催日時:1月23日〜1月29日
総距離:約850km
総獲得標高:約8600m

ルート:北端のジャフナからスタートし、標高2000m近い山岳地帯がある中央部を通って南端のガルを目指す。最終日はスリランカ最大都市コロンボでのライド。

イベント開催の主旨:スリランカの2番目の収入源となる観光業が、コロナや経済破綻、デモ抗議などの影響で落ち込んだ。そこで、スリランカ航空がサイクリングを通じて、国の魅力を世界に伝えることで観光業を再び盛り上げるテスト企画を立ち上げた。それが今回の招待制のスリランカ縦断ツアー「ライド スリランカ2023」だ。

世界7カ国から集まったワールドクラスライダー達:世界7カ国から影響力の強い16人のトップライダーとメディアを招待し、スリランカの大自然を走り抜いてPRすることと、今後定番化するかもしれない縦断ツアーのテスト走行が今回のツアーのミッション。

世界7カ国から招待されたエリートライダー集合写真 Photo: Sri Lankan Airlines

参加したエリートライダーたち
・コーリー・ウォレス(カナダ):24 時間耐久 MTB 世界チャンピオン(現在4連覇中)
・ジェイソン・イングリッシュ(オーストラリア):24 時間耐久 MTB 世界チャンピオン7回
・ジョン・カリュキ(ケニア):マイグレーショングラベルレース2022優勝、バーモントオーバーランド2022優勝
・セス・ハキジマナ(ルワンダ):ロード/グラベルルワンダ代表選手
・ライアンスタンディッシュ(アメリカ/オーストラリア):豪XCOナショナルチャンピオン2011、MTB米代表選手
・レベッカ・ファリンガー(アメリカ):シクロクロス 米代表選手
・カーステン・メイデン(カナダ):エクステラ米代表
・マット・リエト(アメリカ):アイアンマントップアスリート/コメンテーター
・イモジェン・スミス(オーストラリア): MTB豪代表4回
・ウーシャ・カナル(ネパール):ネパール代表選手
・池田祐樹(日本): MTB日本代表7回

縦断ツアー前に現地サイクリストとグループライド Photo: Yuki Ikeda



参加への経緯:過去に3度スリランカのMTB4日間ステージレース「ランブル・イン・ザ・ジャングル」に出場し、2016年大会では優勝していること、インターナショナルで活動していること、英語でコミュニケーション・発信できること、メディアやSNSなどで活発に活動していることなどを評価していただき、今回声をかけてもらった。

今回の「ライドスリランカ2023」に対する特別な想い

私はスリランカが大好きだが、2018年スリランカのMTBレース中に、ネパールの友人(当時のネパールのナショナルチャンピオン)が私の目の前で川に落ち、流されて亡くなるという悲しすぎる事故があった。それ以来、私は精神的に一時レースに対してモチベーションを失う時期もあったが、彼のMTBへの強い愛情を思い出すことで、彼のぶんも頑張りたいと再びモチベーションを上げることができた。その事件以来初となる今回のスリランカ訪問。追悼の意味も込め、彼に思いを馳せてスリランカの地を駆け抜けてきた。

使用機材&エキップメント

今回使用したキャニオン Grizl CF SL8 Photo: Yuki Ikeda

グラベルバイク:キャニオン グリズル CF SL8
サイズ:S (池田祐樹:身長172cm)

今回の行程はロードバイクでも一応走破できる路面ではあるが、荒れた簡易舗装路やダート区間も点在するので安心感と快適性も考慮してグラベルバイクを選択。他のライダー達も基本的にはグラベルバイクで参加していた。

・今回の縦断ツアーへ向けての機材変更点

新調したDTスイスの最高峰グラベルホイール「GRC1400」を、フィニッシュラインのファイバーリンクシーラントでチューブレス化 Photo: Yuki Ikeda

・ホイール:DTスイス GRC1400
超軽量、高い剛性と巡航性能は、今回の変化に富んだルートに最適と判断。レースではないとはいえ、世界トップクラスで活躍する選手達とのライドは超高速となること必至。このDTスイス最高峰のグラベルホイールは強い味方となるだろう。

今回使用したタイヤは、マキシス レセプター 700x 40c Photo: Yuki Ikeda

タイヤ:マキシス レセプター 700x 40c
今回は走りやすい舗装路も多いので、軽い転がり重視でセンターがセミスリックのレセプターが最適だと思い、チョイス。サイドノブも適度にあるので安心感もあり。40cは空気圧を変えることで乗り心地とグリップの調整幅が広いところがお気に入り。

エルゴンのグラベル用バーテープ「BT グラベル」。3.5mmある厚みは路面からの衝撃を和らげてくれる Photo: Yuki Ikeda

バーテープ:ERGON(エルゴン)BTグラベル
厚目の3.5mmのグラベル用バーテープで、悪路含む長距離ライドの疲労軽減を目的にチョイス。

サドルは、身体にフィットするよう研究されたエルゴンSRプロ メン。おかげでお尻周りのトラブルはゼロ Photo: Yuki Ikeda

・サドル:ERGON(エルゴン)SRプロ メン
男性の身体を解剖学的に細部まで分析してデザインされたサドル。普段は同じコンセプトのMTBモデルのSMを長年愛用している。このサドルと共に長距離を乗り続けているが、お尻に関するトラブルは皆無。今回はグラベルバイクなのでロードモデルをチョイス。


ライド スリランカ2023 縦断ツアー ハイライト

1日目は土砂降りの150kmライド。動いていれば心地よい気温だ。 Photo: Sri Lankan Airlines

1日目 北端の町ジャフナを出発し、マナーまでのほぼ平坦150km獲得標高331m。今回のライドはなんと、毎日現地ポリスによるオートバイの先導、後ろにもポリスとサポートカーが付くという超豪華な待遇。交通状況が混沌とする市街地を抜ける際にもポリスの先導のおかげでほぼノーストレスで安全に通過することができた。

朝から強い雨が降り続いていたが、気温は25℃と暖かったので動き続けてさえいれば寒くなることはなかった。わかってはいたが、やはり全員が速く、強く、上手い。さすがワールドクラスのライダー達だ。雨が降り頻る強い向かい風でも、悪路でもハイスピードの巡行は変わらない。ローテーションで先頭に出ると私の心拍数はほぼレッドゾーン(苦笑)。レースでないが、ほぼレース並みのエフォートが強いられ、これからの6日間は刺激あるトレーニングブロックになると予想(覚悟?!)した。

町の食堂で絶品スリランカカレーライス定食。おかわり自由で約300円 Photo: Yuki Ikeda

2日目 この日も150km強で獲得標高846mと平坦の高速路。世界遺産「シギリヤロック」のあるシギリヤにはジャングルを抜けるオフロードセクションもあり、これぞスリランカと感じさせてくれた。途中で野生の象、猿、オオトカゲなどのワイルドアニマルにも遭遇!

野生の象を見かけることも珍しくない Photo: Sri Lankan Airlines

ここで注意したいのは象。温厚そうに見えてついつい近づきたくなるが、興奮するとアグレッシブになり、襲ってくる可能性もある。象による事故は少なくないと聞くので、決して近づきすぎないことが肝心!

ライド後の夕方に希望者で、スリランカの名所の一つ『シギリヤロック』の登山ツアーへ。1200段以上の階段がある登山道は、ライド後の脚に堪えたが、登る価値は十分にある絶景を拝むことができた。希望者といってもほぼ全員登ったので、やっぱり皆タフだ。

後ろに見える世界遺産シギリヤロックを登る Photo: Yuki Ikeda

シギリヤロックの1200段以上続く階段を登り切ると、頂上には古代宮殿跡と絶景が待っている Photo: Yuki Ikeda

しかしながらこんなにも長く、信号もほぼない平坦路を300km漕ぎ続けた経験は珍しく、日本では味わえないくらい素晴らしい体験だった。日本の寒い時期に暖かいスリランカに来て、乗り込み合宿をも悪くないな〜と半分本気で妄想もした。

スリランカ北部は、地平線も見えるほどの気持ちの良い平坦路が続く Photo: Sri Lankan Airlines

3日目 シギリヤからヌワラ・エリヤへの140km、2040mアップのビッグクライミングデイ。ゴール地点のヌワラ・エリアは標高が1800mと、スタート地点のシギリヤの熱帯気候とは打って変わり、空気もヒンヤリとした避暑地の雰囲気だ。

周辺の急峻な山の斜面には茶畑が広がり、かの有名なセイロンティー(スリランカ産の高級紅茶)を作っている。スリランカは紅茶の生産量も輸出量も世界トップクラス。その紅茶のグレードを分ける基準となるのが製茶工場の標高なのだ。高いほどにランクが上とされ、標高1200m以上が「ハイグロウン」と呼ばれる最上質となる。ヌワラ・エリヤは4つあるハイグロウン産地の一つとなっている。ちなみに世界的に有名な『リプトン』の茶葉もハイグロウンでウバという場所で製茶されている。

セイロンティーの茶畑を横目にクライミング Photo: Sri Lankan Airlines

山岳エリアの茶畑の広大さにも感動するのだが、その山道の斜度にも驚かされる。20%以上の激坂もいたるところに点在し、長さも数キロに及ぶ。MTBレースでは茶畑内のオフロードも使用したが、斜度30%あろうかという悪路のキツさは今でも脳裏に焼き付いている。

高地に広がる茶畑エリアの激坂がライダー達の脚を削る Photo: Sri Lankan Airlines

激坂を登りながら「この環境は乗り込み合宿での山岳練習には最高だろうな〜」と再び妄想を膨らませてしまった。

4日目 ヌワラ・エリヤからエラへの60km、1100mアップ。コースプロファイルだけを見ると下り基調で楽そうに見えるが、短いが20%級のパンチーなクライムが連続する。スリランカでは茶畑のあるエリアは基本斜度がキツいという法則がありそうだ。上り好きな自分にとって、このヌワラ・エリヤからエラの変化に富んだ乗り甲斐のあるコースはとても気に入っている。ゴール地点のエラもまだ標高が1000mほどあり、高原の気候でとても過ごしやすい印象だ。




〜 続く 〜