本日3月18日、イタリアに春の訪れを告げるミラノ〜サンレモが開催される。終盤のチプレッサとポッジオが鍵を握る294kmレースを制するのは、ポガチャルかファンアールトか。豪華メンバーが揃うモニュメント初戦をプレビューします。



真っ青なリグーリア海沿いを南西に進むミラノ〜サンレモ photo:CorVos

ミラノ〜サンレモ2023 コースプロフィール image:RCS Sport
今年最初のモニュメント(5大クラシック)であるミラノ〜サンレモ(UCIワールドツアー)が、本日3月18日(土)に開催される。1907年初開催と歴史深いワンデーレースは、舞台となるイタリアに春の訪れを告げるため「ラ・プリマヴェーラ(春)」という別称で愛されてきた。

コースが辿るのはレース名の通りミラノからサンレモまで。今年はミラノ近郊のアッビアテグラッソをスタートし、リグーリア海岸のサンレモまで約7時間をかけて走りきる。その距離は現存するロードレースで最長の293kmで、パレード区間の9.8kmが加わるため選手たちは実質300kmを越える距離を走ることになる。

ミラノをスタート後、ロンバルディア平原を突っ切る前半部は平坦路。そして広大な平原に別れを告げてトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、レース後半戦はリグーリア海沿岸をひたすらサンレモまで突き進んでいく。

ミラノ〜サンレモ2022 チプレッサ プロフィール photo:RCS Sport
ミラノ〜サンレモ2022 ポッジオ プロフィール photo:RCS Sport


レースが慌ただしさを増すのは、残り60kmから登場する「トレ・カーピ(3つの岬)」と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタに差し掛かってから。

残り27km地点からこのレース最大の勝負所、チプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)を越え、頂上から3.2kmのテクニカルなダウンヒルは2021年にヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)、2022年にマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が独走に持ち込んだ場所。そしてダウンヒルの先に栄光のフィニッシュラインが待ち受ける。

ミラノ〜サンレモを「フィニッシュするのは容易いが、優勝するのは最も難しいレース」と言わしめるのが、このチプレッサとポッジオの存在だ。いずれも勾配や難易度は高くないものの、登坂に長けたアタッカーによる攻撃と、それに食らいつきゴール勝負に持ち込みたいスプリンターとの思惑が交差する。それゆえ毎年、予測不能な白熱バトルが繰り広げられる。



勝率5割超のポガチャルを止めるのはファンアールト、あるいはファンデルプールか?

ここまでの勝率が5割を超える、脅威の強さを見せているタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

戦前の予想の中心にはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)とワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、そしてマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)の名が挙がる。反対にスプリンターによる勝利は2016年のアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)まで遡らないといけないため、優勝候補にピュアスプリンターは多くない。

2023年シーズンの調子だけを見れば、優勝候補の筆頭にはポガチャルが挙げられる。ここまで13レースを走り、その半分以上の7勝(うち2度の総合優勝)とここまで過去最高の仕上がりを見せている。直近のパリ〜ニースでツール・ド・フランス覇者ヨナス・ヴィンゲゴー(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)を置き去りにした登坂力はもちろん、圧巻の下りと独走力を披露。チプレッサとポッジオでのアタックはもちろん、小集団によるスプリントも面子次第では勝機がある。今年はティム・ウェレンス(ベルギー)という頼もしい味方もできたポガチャルに隙はない。

そんなポガチャルが唯一負けるシナリオがあるとすれば、ファンアールトとのスプリントだろう。シクロクロス世界選手権でファンデルプールに敗れ、体調を崩してストラーデビアンケを回避したファンアールトはティレーノ~アドリアティコで遅いロードデビューを迎えた。いまだ走りにキレはないものの、集団スプリントになれば2020年大会の覇者に敵はいない。またクリストフ・ラポルト(フランス)に好調の新戦力アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー)とチーム力ではナンバーワンだ。

前日の試走をするワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

優勝候補の一人に挙げられるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
ミラノ〜サンレモ初制覇を遂げたマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos


昨年3位のファンデルプールももちろん鼻息荒く勝利を狙う。ストラーデビアンケこそ不発に終わったものの、ファンアールトと同じくここまでロードの長い距離に身体を順応させてきた。エーススプリンターであるヤスペル・フィリプセン(ベルギー)について「彼はポッジオを越える力がある」と後ろ向きともとれるコメントが気になるが、ポッジオでのアタックから華麗なダウンヒル、そして独走勝利というシナリオは十分考えられる。

昨年覇者のマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)は今年もその「ドロッパーシートポスト」を使いレースに臨む。そしてジャーナリストの中でも評価が高いのが今年プロチームに降格したロット・デスティニー。「キャリア最大の目標」と語り年々登坂力を磨くカレブ・ユアン(オーストラリア)に加え、今年は注目の若手スプリンターであるアルノー・デリー(ベルギー)も勝利を狙うオプションとなる。

期待されていたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)はティレーノ~アドリアティコの落車で脳震盪を起こして欠場。そのためチームはフィリッポ・ガンナ(イタリア)をエースに据え、スーダル・クイックステップは2019年覇者のジュリアン・アラフィリップ(フランス)、トレック・セガフレードはマッズ・ピーダスン(デンマーク)で勝負する。

また、2017年に3位入賞を果たしたペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)はこれが現役最後となるミラノ〜サンレモに臨む。

text:Sotaro.Arakawa