緑色のマイヨヴェールは最強スプリンターの証。第110回ツール・ド・フランスでポイント賞ジャージを狙うフィリプセンやヤコブセンをはじめ、平坦ステージで高速バトルを繰り広げるトップスプリンターたちを紹介しよう。



昨年大会でマイヨヴェールのファンアールトにヤコブセンが迫る photo:Kei Tsuji

グリーンジャージを意味する「マイヨヴェール」はポイント賞ランキングトップの選手に与えられる特別賞ジャージ。ツール開催50周年を記念して1953年より導入されてからいままで守られてきた緑の伝統は(1968年は除く)、今年もチェコの自動車メーカーで大会オフィシャルカーサプライヤーであるシュコダがスポンサーを務める。

「平坦」「中級山岳」「上級山岳」「個人TT」の4つに分類された全21ステージは、それぞれ異なるポイント配分が設定されている。また2015年以降は平坦ステージにより高い配点がされているため、ポイントを狙うスプリンターたちによって争われる。

区間優勝と共にマイヨヴェール獲得に重要なのはステージ中盤に配置される中間スプリントポイント。たとえ平坦ステージで優勝ができなくても、未勝利ながらマイヨヴェールを獲得した2015年のペテル・サガン(スロバキア)のように確実に上位でフィニッシュし、メイン集団から飛び出しスプリントポイントを加算することが受賞に近づく。



ポイント配分(いずれも上位15名に付与)
平坦ステージ
・優勝者50pts、以下30、20、18、16、14、12、10、8、7、6、5、4、3、2pts
中級山岳ステージ
・優勝者30pts、以下25、22、19、17、15、13、11、9、7、6、5、4、3、2pts
上級山岳ステージ&個人TT
・優勝者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt
中間スプリントポイント
・先頭通過者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt



本命ファンアールトの”狙わない”宣言により混戦必至

記者会見の臨んだワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:So Isobe

2022年に2位に大差をつけマイヨヴェールを獲得したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。スプリントステージだけでなく逃げや多少の山岳ならば悠々と越えていく万能脚質で、昨年は区間3勝とともにポイントを荒稼ぎした。今年もグリーンジャージ最有力ではあるものの、7月下旬に二人目の子が誕生予定のため途中棄権の可能性があると本人は語っており、また8月に迫る世界選手権への準備もあるためマイヨヴェールを争いに加わるつもりはない。

仮にファンアールトが去ったとしても、ユンボ・ヴィスマはクリストフ・ラポルト(フランス)がスプリントを担う。昨年区間1勝を飾ったラポルトは、前哨戦のクリテリウム・デゥ・ドーフィネでステージ2勝&ポイント賞ジャージ獲得と好調そのものだ。

ピュアスプリンターの中で注目したいのはヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)とファビオ・ヤコブセン(オランダ、スーダル・クイックステップ)、そしてディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ジェイコ・アルウラー)の3名だ。昨年は勘違いガッツポーズから2日後のパリ決戦を制し、嬉し涙を流したフィリプセンはマチュー・ファンデルプール(オランダ)という最強のチームメイトと共に緑色を目指す。

記者会見に臨むヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:So Isobe

欧州王者のファビオ・ヤコブセン(オランダ、スーダル・クイックステップ) photo:So Isobe
スプリントの最注目株であるディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ジェイコ・アルウラー) photo:So Isobe


1年前に大会2日目を制して華々しいツールデビューを飾ったヤコブセンだが、それ以降は体調不良に陥り辛くも完走を果たした。本人にとって不完全燃焼な過去を払拭するモチベーションは高く、それはパリで僅差の2位と涙を飲んだフルーネウェーヘンも同じだろう。

2年連続で0勝と不運が続くカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・デスティニー)は久々の勝利を飾れるか。また来年他チームへの移籍が決定したため選考外と報道されているサム・ベネット(アイルランド)に代わり、ボーラ・ハンスグローエは24歳のヨルディ・メーウス(ベルギー)を抜擢。すっかりリードアウト職人と化したダニー・ファンポッペル(オランダ)の力を借りてデビュー戦勝利を狙う。

カヴェンディッシュとサガンが最後の競演

今大会に出場選手でマイヨヴェールの経験者はファンアールト以外に2人おり、奇しくもその両者が最後のツール出場になる。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)が狙うのはもちろんツールのステージ34勝という最多タイ記録の更新。リードアウト役がケース・ボル(オランダ)しかいないことが懸念点だが、かつての盟友マーク・レンショーがスプリント&リードアウトコンサルタントとしてレース外からカヴェンディッシュを支援する。

終始笑顔のままチームバスに戻るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン) photo:So Isobe

ウイリーで登場したペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー) photo:So Isobe
元世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が降段 photo:So Isobe


現役最後のツール開幕直前にトラブルが明らかとなったペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)は、無事にチームプレゼンテーションに姿を現した。昨年6月のツール・ド・スイスとナショナル選手権から約1年間勝利から遠ざかっているものの、復調のきっかけを掴めば8度目のマイヨヴェール獲得も十分考えられる。

その他にもツールデビューを果たすビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)と、昨年悲願のツール区間優勝を飾ったマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)はピュアスプリンターではないものの、低難易度の登りや混戦に強い脚質の持ち主。また27歳の遅咲きサム・ウェルスフォード(オーストラリア、DSM・フィルメニッヒ)や、本人以外全員がツールデビューと若いチームを率いるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム)にも注目だ。
歴代マイヨヴェール受賞者
2022年 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)
2021年 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)
2020年 サム・ベネット(アイルランド)
2019年 ペテル・サガン(スロバキア)
2018年 ペテル・サガン(スロバキア)
2017年 マイケル・マシューズ(オーストラリア)
2016年 ペテル・サガン(スロバキア)
2015年 ペテル・サガン(スロバキア)
2014年 ペテル・サガン(スロバキア)
2013年 ペテル・サガン(スロバキア)
2012年 ペテル・サガン(スロバキア)
2011年 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)
2010年 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)
2009年 トル・フースホフト(ノルウェー)
2008年 オスカル・フレイレ(スペイン)
2007年 トム・ボーネン(ベルギー)
2006年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2005年 トル・フースホフト(ノルウェー)
2004年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2003年 バーデン・クック(オーストラリア)
2002年 ロビー・マキュアン(オーストラリア)
2001年 エリック・ツァベル(ドイツ)
2000年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1999年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1998年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1997年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1996年 エリック・ツァベル(ドイツ)
1995年 ローラン・ジャラベール(フランス)
1994年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1993年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1992年 ローラン・ジャラベール(フランス)
1991年 ジャモリディネ・アブドヤパロフ(ウズベキスタン)
1990年 オラフ・ルードヴィッヒ(ドイツ)
text:Sotaro.Arakawa
photo:So.Isobe
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