何度も何度も"さすがはバスクだ"と思わされた。プレゼンテーション会場には老若男女問わず無数の地元ファンが詰めかけ、スターや地元選手だけじゃなく、レースを熟知していないと分からない選手にも大きな歓声が飛ぶ。気まぐれな、バスクらしい天気の下で行われたツール・ド・フランスのゼロ日目を現地ビルバオからレポート。



ビルバオ、グッゲンハイム美術館横で開催されたチームプレゼンテーション photo:CorVos

傾いた太陽を浴びながら、シャルル・ド・ゴール空港から途中宿泊地のボルドーまで高速道路E5号線を南下する。レンタカーのラジオから聞こえてきたのは「ツール・ド・フランス」、「グランデパール」、「ビルバオ」といったフランス語。どうやら環境保護団体がキャラバン部隊に抗議文を出し、それに対する話し合いが行われるという。もしかしたら、今年もどこかのステージでデモ隊が出現するのかもしれない。

スペインとフランスにまたがるバスク最大の都市、ビルバオで第110回ツール・ド・フランスが始まる。シクロワイアードからは編集スタッフの私、磯部が初のツール取材に現地入り。ありがたいことに先輩ジャーナリスト/フォトグラファーである辻啓・小俣雄風太(それに、イタリア人フォトグラファーのルカ・ベッティーニ)のグループにジョイン。現地取材のあれこれを教えてもらいつつ、3週間に渡り現地情報を発信していきたい。

1ヶ月の相棒はフィアットのクロスティーポ photo:So Isobe
変わらないようで少しずつ変化していく沿道風景 photo:Yufta Oamata



バスクが近づくたびに関係車両が増えていく photo:So Isobe

ボルドー着。宿にチェックインのち夕食へ photo:So Isobe
ボルドーなのに、ワインは飲まない photo:So Isobe



スペインでツールが始まるのに、なぜフランスからレンタカーを走らせているのかを不思議に思う方もいるはず。僕らの旅路toグランデパールは、シャルル・ド・ゴール空港から宿泊地ボルドーを経由してビルバオに入るパターン。言わずもがな飛行機でスペイン入りしたのちにレンタカーを借りるのが楽だけれど、国境を跨いだレンタカーの乗り捨ては料金が異常に高くなる。かくして、パリからビルバオまでの950kmを走って現地入りするという行程を選ぶことになった。

ボルドーなのにワインを一滴も頼まない晩飯を楽しみ、翌朝は時差ボケ解消のためにゆっくり起きてビルバオを目指した。目的地に近づくほどツールの関係車両が増えてゆき、中には大会写真でお馴染みの宣伝車両も。まだレースは始まってすらいないけれど、隊を組んで移動する姿に「キャラバン」の語源をなぞらえたりして。びっくりするほど月並みな表現だけれど、現実に捉えるツール開幕にワクワクした。

プレゼン前に開催された記者会見。トップ選手が招聘された photo:So Isobe

日本で「バスク」といえばチーズケーキ。しかしあれはビルバオではなく、第2ステージのフィニッシュの街サン・セバスティアンにある店の名物菓子を参考にしたものなんだとか。

元パティシエの血が騒ぎ、試しにビルバオのバルやボレリア(パン屋)で似たようなもの探しても一切見つからず、むしろ隣国ポルトガル発祥のパステル・デ・ナタ(エッグタルト)の方が並んでいる。ビルバオをルーツに持つジャーナリストに聞いても「バスクチーズケーキなんて名前は聞いたことがない」と不思議な顔をしていた。

最前列に集った熱心なバスクファンたち photo:So Isobe

地元のスター、ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)に大歓声が飛ぶ photo:So Isobe

レースから話が逸れてしまった。肝心のプレゼンテーションが始まる頃、そんなバスクのグッゲンハイム美術館横の会場にはスポンサーグッズを嬉しそうに身に纏った大群衆が詰めかけていた。

感心したのはファン層が老若男女と幅広く、話を聞いたほぼ全員が自転車レース好きだと話していたこと。「好きなのはサッカーと自転車。エウスカルテルが出てれば良かったけれど」なんて本音も。ちなみに、このビルバオに本拠地を置くサッカークラブ「アスレティック・ビルバオ」もエウスカルテル・エウスカディと同じく「バスク人による、バスク人のための純血チーム」を貫いている。

そんなビルバオ開催のグランデパールだからこそ、バスク出身選手が登壇するたびに地面が揺れるほどの歓声が。トップバッターとしてバーレーン・ヴィクトリアスが登壇し、亡くなったジーノ・メーダーに黙祷を捧げる。静寂ののちにペリョ・ビルバオ(名前もそのまま!)とミケル・ランダが紹介されるとすぐ、会場のボルテージは一瞬で最高潮に湧き上がった。

エウスカルテルがいなくとも、自転車熱盛んなバスク出身選手は少なくない。今回のツールでも先述した2人に加え、ゴルカ(モビスター)とヨン(コフィディス)のイサギレ兄弟は揃って出場し、イネオス・グレナディアーズはオマール・フライレとヨナタン・カストロビエホをラインナップ。地元選手が登壇するたびに、無数のバスク旗「イクリニャ」が翻る。

ローソン・クラドック(アメリカ、ジェイコ・アルウラー)が会場を盛り上げる photo:So Isobe

ステフ・クラス(ベルギー、トタルエネルジー)はどこか東洋風 photo:So Isobe
会場にはたくさんの子どもたちの姿も photo:So Isobe



マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が駆るレインボーメタリックのMadone SLR photo:So Isobe

ラストツールを公言するペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)の登場と共に雨足が強まっても(バスクでのステージはほぼ毎日雨予報だという)、観客のテンションに水が差されることはなかった。サガンやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)といった分かりやすいスター選手だけではなく、レースを追いかけていなければ見逃しがちな選手にも声援が飛ぶ。バスクファンはレースを「分かっている」人たちだ。

プレゼンを終えた選手たちは、降壇後にネルビオン川のほとりにある記者会見ゾーンを通って自チームのクルマへと戻る仕組み。この日一番最後までメディア陣に捕まっていたのはファンアールトとヴィンゲゴーの2人。同じく長いこと受け答えを続けたポガチャルが帰ってもなお、世界各国のメディアに囲まれ続けていた。

囲み取材を受けるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:So Isobe

撤収する自転車団と、撤収できないユンボの2人 photo:So Isobe

さて普段、機材担当として記事を書いている身からすると、このチームプレゼンテーションで確認できた新型バイクはイスラエル・プレミアテックが駆るファクターの新型O2 VAMと、ロット・デスティニーが駆るリドレーの新型の2モデル。

さらにリドル・トレックはこのプレゼンに合わせてプロジェクトワンの新カラーを発表し、マッズ・ピーダスン(デンマーク)はスラムのコンポーネントまで特別カラーで誂えたMadone SLRに乗って登場。これらテック記事も今後随時掲載していく予定です(マチューバイクは既に個別取材済み。なる早で掲載します)。

text:So Isobe in Bilbao, Basque