10月のアジア選手権、そして2024年パリ五輪へとつながる全日本選手権XCO男子エリートを制したのは前日のXCC覇者北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED)だった。湿った土と芝が重いパワーコースでの闘いは容赦ない負荷で全日本王者をセレクションした。



昨年覇者の平林安里(TEAM SCOTT CHAOYANG TERRA SYSTEM) photo:Makoto AYANO

エリート男子の80人の大集団がゲレンデに飛び出していく photo:Makoto AYANO

長野県・富士見パノラマリゾートで開催されたMTB全日本選手権の2日め、XCO(クロスカントリー・オリンピック)種目。 JCFの「全日本選手権カテゴリー」は男女エリート、男女U23、男女ジュニア、男女マスターズ、男女ユースが対象。優勝者には日の丸をあしらったナショナルチャンピオンジャージが授与され、そのデザインのジャージを1年間着用する権利が与えられる。

序盤からすぐに独走体制を固めた北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED) photo:Makoto AYANO

前日から出ていた終日大雨の天気予報は朝になって曇りに転じ、ときおり青空も垣間見えた。選手たちはウェットコンディションに備えてタイヤ等をセットアップしたはずだが、結果から言って予報は外れ、雨は大会終了後までほとんど降らなかった。

竹内遼、沢田時、平林安里、宮津旭の4人の追走グループ photo:Makoto AYANO

午後2時スタートの男子エリートはこの日を締めくくるインベント。80人がエントリーした大集団が芝のゲレンデに飛び出していく。豪雨予報のため距離はスタートループ1.2km+4.2㎞✕5周回に。

スタートループの序盤をリードしたのは昨年の王者・平林安里(TEAM SCOTT CHAOYANG TERRA SYSTEM)。本コースの4.2kmの周回コースに入ると北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED)がアタックして早くも単独になる。

トップを独走する北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED) photo:Makoto AYANO

北林を追う後方では、平林に加え沢田時(宇都宮ブリッツェン)、宮津旭(PAXPROJECT)、竹内遼の4人のグループが形成された。 この強力な4人の追走グループは基本的には協調し、先頭交代しながらスピードをキープする。しかし沢田と竹内の2人が要所要所で交互にアタックを繰り返し、分断を試みる。

しかしそれ以上に強力なのは先頭を行く北林の強さ。30秒、50秒、1分と、周回を重ねる毎にその差を広げていく。安定感があり、テクニックもフィジカルも不安感なく淡々と差を拡大していく。

独走に持ち込んだ北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED) photo:Makoto AYANO

追走グループからは残り3周で平林が遅れだし、沢田、宮津、竹内の3人に。残り2周、北林がゲレンデの下りの芝の泥にフロントタイヤを滑らせ転倒。しかし幸い怪我もメカトラも無くすぐにリマウントして逃げを継続。最後まで大きくタイム差が詰まることはなかった。

平林安里が脱落し、3人で牽制しながら走る追走3人 photo:Makoto AYANO

3人のバトルは牽制とアタックを繰り返す。先行した竹内を吸収したタイミングで、ホームストレートから登る長い登り坂を利用して沢田がアタックし、大きな差をつけることに成功。そして追走グループから遅れていたはずの平林が追いつき、代わりに宮津が低血糖に陥り、失速。大きな遅れを取ってしまう。

最終周回でアタックして抜け出した沢田時(宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO

2位争いが最終盤で大きくシャッフルするなか、北林は大きな余裕をもってフィニッシュへ。詰めかけた観客にハイタッチし、大きくガッツポーズを繰り出し、歓喜のフィニッシュ。念願の勝利を期待して集まったチームサポーターやスポンサー関係者らにも囲まれ、昨日のXCCの勝利に続いて期待通りの勝利をもって応えた。

観客にハイタッチして優勝の喜びを分かち合う北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED) photo:Makoto AYANO

北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED)の歓喜のフィニッシュ photo:Makoto AYANO

北林は言う。「今年最大の目標はアジア選手権を勝つこと。それがパリ五輪の出場枠を獲得することにつながる。今回の全日本はこの2日間を勝つことがマストと考えていて、しっかりそれが実行できたのは良かった。でも僕はワールドカップではまだ満足の行く走りができていない。そこで自分が目指す走りができるような選手になることが目標です。そのためにもアジア選手権では必ず勝ちたい。10月の大会まで3ヶ月あるので、ピークに絞った身体を一度休めて、残りの日々でしっかり調整していきたい」。

念願だった初勝利を手にした北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED)がポーズ photo:Makoto AYANO

最終盤にシャッフルした2位争いは1分5秒差で沢田がフィニッシュに帰ってきた。そして3位に追い上げたのは平林。勢いを失った宮津は4位でフィニッシュすると地面に倒れ込んだ。沢田もまたアジア選手権出場への出場内定を手にした。

アタックを成功させ2位でフィニッシュする沢田時(宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO

沢田は言う。勝てなかったのはリキ(北林)が強くて、自分の力が不足していた。でも2位になれたのは応援してくれるサポーターの力でした。一時は5位になるかと思っていたほどでした。自分にとっても一番の目標はアジア選手権になるので、リキと今日のメンバーと一緒に優勝を目指したい」。

最終周に驚異的な追い上げを見せた平林安里(TEAM SCOTT CHAOYANG TERRA SYSTEM) photo:Makoto AYANO

3位の平林は「遅れてからも後半には追いつけるだろうとは思っていましたが、そうしたら前が落ち着いて。でも3位まで上がれるとは思っていませんでした。なんとかいい感じでフィニッシュできてよかったです」とコメント。昨日のXCCで失速したことで、バイクのポジショニングや設定を煮詰めるために昨夜は遅くまで父やメカニックに調整をしてもらったという。

4位のフィニッシュ後に倒れ込む宮津旭(PAXPROJECT) photo:Makoto AYANO
男子U23は副島達海(大阪産業大学)が制する photo:Makoto AYANO



全体の5位でフィニッシュしたのはU23の副島達海(大阪産業大学)だった。U23では昨年に続き連覇となる。副島は「目標としてはエリートの先頭争いに喰らいついていくことだったので、徐々に離れてしまったことは悔しいです。苦しかったんですが、苦しい時にもう1踏みができるようにと自分に言い聞かせて走っていました。嬉しいですが悔しい。浮かれてはいません」と話し、再びのナショナルジャージに袖を通しながらも悔しげな表情を見せた。

男子エリート表彰 優勝北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED)、2位沢田時(宇都宮ブリッツェン)、3位平林安里(TEAM SCOTT CHAOYANG TERRA SYSTEM) photo:Makoto AYANO


男子ジュニアは高橋翔が連覇 ユースは成田光志が勝利

雄叫びを上げて歓喜のフィニッシュをする男子ジュニア優勝の高橋翔(TeensMAP) photo:Makoto AYANO

人数が少なくとも世界を目指す熱さでハイレベルなバトルが繰り広げられる男子ジュニア&ユース。ロケットスタートを決めたユースの野嵜然新(弱虫ペダルサイクリングチーム)が飛び出したが、アジアチャンピオンでもある高橋翔(TeensMAP)が序盤からリード。それにユースの成田光志(Dream Seeker Jr. Racing Team)が喰らいつくという展開。成田は高橋とランデブーして1周少ない周回数でフィニッシュし、優勝。周回数違いとはいえ高橋に長く追従できたことが驚きだ。

男子ジュニア2位は嶋崎亮我(FUKAYA Racing) photo:Makoto AYANO
ジュニア男子表彰 1位高橋翔(TeensMAP)、2位嶋崎亮我、3位古江昂太(FUKAYA Racing) photo:Makoto AYANO



高橋は危なげない走りで独走勝利して昨年に続くジュニア連覇で、フィニッシュ後には号泣。2位は嶋崎亮我、3位は古江昂太のFUKAYA Racingコンビ。嶋崎は2位に終わるがレース後になって先週に足首の靭帯を痛め、走れる状態でなかったことを明かした。

高橋翔(TeensMAP)のコメント
2周目の終盤あたりまでユースの成田選手と一緒に走りましたが「先輩の意地を見せなきゃ」と思い引き離しました(笑)。終始ほぼ安定した自分の走りができました。フィニッシュ後の涙のワケは、今シーズンは体調が整わなかったりメカトラに見舞われたりと、思うようにいかないレースが続いて、うまくいかないことに不満を抱えてきた。そこでこの全日本に合わせて生活面からすべてを見直し、絶対に落とせないという勢いで臨んだ大会だったんです。8月のイギリスでの世界選手権(昨年メカトラ)でもしっかり走れればと思います。

マスターズ総合は白石真悟がXCCとのダブルタイトル獲得

男子マスターズは78人もの多人数出走で楽しそうな雰囲気だ photo:Makoto AYANO

男子マスターズは78人出走という、男子エリート(80人)に次ぐ多人数クラス。そして10年代ごとにチャンピオンが決まるため、非常に熱いカテゴリーだ。スタートから飛び出してランデブーしたのは昨日のXCCでもバトルを繰り広げた白石真悟(シマノドリンキングXC A)と岡本紘幸(NESTO FACTORY RACING)の2人。白石は40代、岡本は30代の選手であり、それぞれの優勝が目指せるツートップだ。

男子マスターズの78人の大集団スタート photo:Makoto AYANO

男子マスターズのトップを行く白石真悟(シマノドリンキングXC A) photo:Makoto AYANO
男子マスターズの2位を行く岡本紘幸(NESTO FACTORY RACING) photo:Makoto AYANO



男子マスターズで独走勝利した白石真悟(シマノドリンキングXC A) photo:Makoto AYANO

男子マスターズ総合 1位白石真悟(シマノドリンキングXC A)、2位岡本紘幸(NESTO FACTORY RACING)、3位品川真寛(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM) photo:Makoto AYANO

今日も強さを見せた白石が後半に岡本を引き離して独走、マスターズ総合優勝を手にした。岡本は30代の2連覇であり、総合2位。総合3位に品川真寛(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)が入った。
そして50代の1位は植川英治(tours.net)、60代の1位は有持真人(Team ARI)だった。

50代の1位は植川英治(tours.net) photo:Makoto AYANO
60代の1位は有持真人(Team ARI) photo:Makoto AYANO



マスターズ総合優勝の白石はかつて大学生時代からMTBの選手として活躍、Jシリーズの優勝や世界選手権代表にもなった元XC選手。シマノ入社後に自転車は趣味として取り組むが、ツール・ド・おきなわ市民200km優勝など各種目の市民の頂点を極めてきた。

白石「楽しく走れました。MTBのマスターズのタイトルは初めて。じつは去年にロードとMTBのダブルタイトルを取ろうと思っていたんですが試走中に天城越え(日本CSCのMTBコースの難所)で散ってDNSだったんです」と、まだ取ったことのなかったMTBマスターズ王者の称号の獲得を喜んだ。

男子マスターズ40代 1位は白石真悟(シマノドリンキングXC A) photo:Makoto AYANO
男子マスターズ30代表彰 優勝は岡本紘幸(NESTO FACTORY RACING) photo:Makoto AYANO



男子マスターズ50代の1位は植川英治(tours.net) photo:Makoto AYANO
男子マスターズ60代表彰 1位は有持真人(Team ARI) photo:Makoto AYANO



MTB全日本選手権2023XCO男子各クラス リザルト
男子エリート
1位 北林力(TEAM Athlete Farm SPECIALIZED) 1:21:32.12
2位 沢田時(宇都宮ブリッツェン) +1:05.37
3位 平林安里(TEAM SCOTT CHAOYANG TERRA SYSTEM) +1:16.94
4位 宮津旭(PAXPROJECT) +1:25.38
5位 竹内遼 +2:42.15
6位 村上功太郎(松山大学) +8:47.74
男子U23
1位 副島達海(大阪産業大学) 1:26:02.15
2位 松本一成(TEAM RIDE MASHUN) +1:12.33
3位 柚木伸元(日本大学) +1:55.81
男子ジュニア
1位 高橋翔(TeensMAP) 53:09.88
2位 嶋崎亮我(FUKAYA Racing) +36.70
3位 古江昂太(FUKAYA RACING) +1:38.04 1
男子ユース
1位 成田光志(Dream Seeker Jr. Racing Team) 36:29.96
2位 垣原弘明(RACING TORQUE) +23.72
3位 松山海司(Sonic-Racing) +30.40
男子マスターズ総合
1位 白石真悟(シマノドリンキングXC A) 58:00.27
2位 岡本紘幸(NESTO FACTORY RACING) +39.98
3位 品川真寛(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM) +1:12.00
text&photo:Makoto AYANO