ユンボ・ヴィスマとリドル・トレックが積極的に運用しているフロントシングルギア。マイヨジョーヌを着るヨナス・ヴィンゲゴーは52Tを運用し、マッズ・ピーダスンは56Tで登坂スプリント優勝をもぎ取った。今ツールのトレンドと呼べる、トップ選手のギア選択に迫る。



奥側にあるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)のバイク。52Tシングルギアを装備 photo:So Isobe

おそらく、2023年のツール・ド・フランスは今までのどの大会よりもフロントシングルギア(1x)ユーザーが多い。スラムがサポートするのはユンボ・ヴィスマとリドル・トレックの2チームだが、現在マイヨジョーヌを着るヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)や、圧倒的な活躍を見せるワウト・ファンアールト、そしてステージ優勝を挙げたマッズ・ピーダスン(デンマーク)といったトップ選手がこぞって使い、その存在感は際立っている。

ギア比の重複がなく、軽量化や空力面、さらには故障リスクの少なさでメリットがあるフロントシングルは、数年前からタイムトライアルやグラベルロードやシクロクロスのみならずロードレース界に存在してきたが、スラムが現行RED eTAP AXSで12速化したことでより登場頻度を増している。

11速のフロントシングルを使用し、結果的に2年間限りで解散したアクアブルースポートなど過去にはトラブルも少なくなかったというが、メカニックによれば12速によるクロスレシオ/ワイドギア化が進んだことで選手も満足しているという。

こちらはファンアールトのバイク。ステージによって52T、54T、そしてダブルギアを使い分ける photo:So Isobe

52Tギアで10%超のコート・ド・ピケ(初日ステージ)を登るファンアールト photo:So Isobe

ダブルギアでトゥールマレーを登るヴィンゲゴー photo:So Isobe

ピーダスンのステージ優勝を狙うリドル・トレックはまだしも、ヴィンゲゴーの総合連覇を狙うユンボ・ヴィスマが1x化しているのは実に興味深いところ。ヴィンゲゴーは前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでのテストユースを経てツールに1xを持ち込んでいる。

ヴィンゲゴーは平坦ステージで52Tを、たとえば第1ステージのような丘陵ステージでは50Tを使う。スラムのリアカセットは10Tであり、計算するとトップギア比はそれぞれ5.2と5.0。2人はForce(セカンドグレード)の10-36Tカセットを使うため、ローギア比は52Tで1.44、50Tでは1.38。シマノでフロントインナー40Tを使う場合、リア30Tでローギア比は1.33、32Tでは1.25とそれらと比べるとやや重たい設定だ。ファンアールトは52Tを基本に、完全な平坦ステージでは54Tを使用している。

ピーダスンの平坦用セッティング。フロント56Tに10-33Tカセットを組み合わせる photo:So Isobe

56Tギアでステージ優勝を挙げたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) photo:So Isobe

一方ピーダスンは得意の平坦ステージで56Tという巨大なチェーンリングで勝負をかけ、勾配5%弱の登坂スプリントが登場した第8ステージは、10-33Tカセットのトップ側から4枚目あたりのギアを使い勝利。この日ファンアールトはフロント52Txリア10Tで3位に入っている。

なお、超級山岳を越えるステージでは全員がフロントダブルのバイクに乗る。チームには仕様を変えたバイクが複数台用意され、ステージに合わせてチェーリングの交換や、バイクを乗り換えて対応している

上記2チームと同じくスラムを使うモビスターは全員がフロントダブル。プロトン屈指の歴史を誇るスペインチームならではの選択だろうか。

text:So Isobe in Clermont-Ferrand, France

最新ニュース(全ジャンル)