第2週目に突入したツール・ド・フランス第10ステージは、3級山岳で絞られた逃げの6名によるスプリントで決着。持ち前のスピードを発揮したペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)が、開幕直前に死去したジーノ・メーダー(スイス)に捧ぐ初勝利を手に入れた。



ジャージ姿で揃えた親子がタデイ・ポガチャルを応援 photo:CorVos
マイヨジョーヌを着て第2週目に臨むヴィンゲゴー photo:CorVos


スタート地点ビュルカニアで行われたチームプレゼンテーション photo:CorVos

第10ステージ ビュルカニア〜イソワール 167.2km image:A.S.O.

クレルモン・フェランで第1週目の疲れを癒やした選手たちは、レース主催者も「逃げ向き」と太鼓判を押す丘陵ステージに臨む。167.2kmと比較的短いコースは3級山岳の登坂から始まり、直後の3級山岳は逃げを目指したアタックを誘発する。その後もカテゴリーのつかない1,000m超えの登りをこなしながら、59.9km地点でようやく中間スプリントがやってくる。

レース中盤からも2級、3級と逃げるには好ましい丘が連続。そして最後は3級山岳シャペル・マルクス(距離6.5km/平均5.6%)の頂上から更に少し登り、27kmのダウンヒル+平坦路の先にフィニッシュ地点が待っている。

出発地点であるビュルカニアのチームプレゼンテーションに現れたのは169名の選手たち。中でも休息日に今季限りの引退を発表した35歳トニー・ガロパン(フランス、リドル・トレック)には母国のファンから盛大な歓声が飛んだ。そして序盤から始まる厳しい丘に向け、たっぷりとウォーミングアップをこなした選手たちが午後1時20分にスタートを切った。

慌ただしいアタック合戦の末、14名の逃げグループが形成された photo:CorVos

今大会最高気温をマークしたこの日は、補給も重要な要素となった photo:CorVos
気温43度を記録したフィニッシュ地点イソワールに水が撒かれる photo:CorVos


逃げ切り向きのレイアウトは予想通りアタッカーたちを大いに刺激した。その結果レミ・カヴァニャ(フランス、スーダル・クイックステップ)やミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)ら7名の先頭集団が出来上がる。しかしメイン集団は落ち着かず、マイヨジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)やタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ら総合上位勢さえも動く慌ただしい展開の末、最終的に14名が逃げグループを形成した。

スタート直後から動いたクフィアトコフスキが残る逃げ集団には、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)やペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)など強力なメンバーの他、総合争いから脱落したベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)やマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)も乗った。

それを追うプロトンではユンボ・ヴィスマが牽引し、乱高下するペースに一時遅れたダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)やロマン・バルデ(フランス、DSM・フィルメニッヒ)も合流。ここまで3つの山岳を含むレース前半を過ぎ、ようやく選手たちが一呼吸をつけた。

レース後半に入り、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)がプロトン牽引を開始する photo:CorVos

ファンデルプールとファンアールトの2人が逃げグループを追走 photo:CorVos

フィニッシュ地点イソワールが43℃と今大会の最高気温を記録するなか、逃げと3分差のついたプロトン先頭でマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が牽引を始める。すると最終3級山岳シャペル・マルクス(距離6.5km/平均5.6%)に続く約14kmの下りで、集団から抜け出したファンデルプールにワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が反応。競技を超えてライバル関係を築く2人が2分15秒先のレース先頭を目指した。

強力な2人が迫る逃げ集団では、スプリント勝負では分が悪いクリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・プレミアテック)が残り32km地点から仕掛ける。3級山岳シャペル・マルクス頂上で38秒のリードを得たニーランズに対し、コロンビア王者エステバン・チャベス(EFエデュケーション・イージーポスト)やビルバオら5名が追走。一方でツールでステージ優勝の経験があるアラフィリップやクフィアトコフスキ、ワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック)らが遅れを取った。

逃げ集団からクリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・プレミアテック)が飛び出す photo:CorVos

あまりの暑さにアンテルマルシェからボトルを受け取るマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
3級山岳で逃げ集団から遅れを喫したジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)たち photo:CorVos


ファンデルプールとファンアールトが追走を諦めてプロトンに戻る一方で、チャベスやオコーナーたちは残り3kmでニーランズをキャッチ。アラフィリップらの追走は届かなかったため、第10ステージの勝利は先頭にいる6名に絞られた。

オコーナーが残り2km地点からアーリーアタックを仕掛けるものの、スプリントにも長けたビルバオがピッタリとマーク。そしてフラムルージュ(残り1km地点)の直前で、前哨戦のクリテリウム・デゥ・ドーフィネで勝利を挙げたゲオルク・ツィマーマン(ドイツ、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が飛び出す。それにもビルバオが唯一反応し、牽制で緩んだペースにオコーナーたちが追いつく。しかし勝負所を見逃さなかったビルバオが、スプリントでツィマーマンらを下した。

スプリントを制し、ツール初勝利を飾ったペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

母国バスクで開幕を迎え、故郷の街を通過した今年のツールで自身初となるステージ優勝を飾ったビルバオ。直前にチームメイトであるジーノ・メーダー(スイス)を失ったビルバオは「ツールに来るまで様々なことが起こったため、レースに集中することが難しかった。だがジーノのためにどうしても勝利が欲しかった。それを今日叶え、彼に勝利を捧げることができて本当に嬉しい」と語る。

また、「暑さには弱いのだが、チームスタッフが氷やドリンクを適切な場所で渡してくれた。最後の6名で僕が最もスプリントがあることは分かっていたが、決定的な動きに反応することができてラッキーだったよ」と喜んだ。

ステージ2位にはツィマーマンが入り、オコーナーは3位。アラフィリップは32秒遅れの10位と勝利を掴むには至らなかった。そしてヴィンゲゴーはポガチャルを含むプロトンと共に2分53秒遅れでフィニッシュし、マイヨジョーヌのキープに成功。逃げ切り勝利を決めたビルバオが総合5位にジャンプアップした以外、総合上位陣に大きな動きはなかった。

ヘルメットに刻まれたジーノ・メーダーの名を指差すペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

総合でも5位に順位を上げたペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

この日もマイヨジョーヌの保持に成功したヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

ツール・ド・フランス2023第10ステージ結果
1位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) 3:52:34
2位 ゲオルク・ツィマーマン(ドイツ、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)
3位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)
4位 クリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・プレミアテック)
5位 エステバン・チャベス(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト)
6位 アントニオ・ペドレロ(スペイン、モビスター) +0:03
7位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) +0:27
8位 ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)
9位 ワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック) +0:30
10位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ) +0:32
21位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)
27位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) +2:53
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) 42:33:13
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) +0:17
3位 ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) +2:40
4位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +4:22
5位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) +4:34
6位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) +4:39
7位 サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) +4:44
8位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +5:26
9位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) +6:01
10位 セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) +6:45
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) 260pts
2位 ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) 149pts
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン) 143pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) 46pts
2位 フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) 28pts
3位 トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) 26pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 42:33:30
2位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +4:05
3位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +5:09
チーム総合成績
1位 バーレーン・ヴィクトリアス 127:54:45
2位 イネオス・グレナディアーズ +1:11
3位 ユンボ・ヴィスマ +5:00
text:Sotaro.Arakawa
photo:So Isobe, CorVos