春のクラシックの代表格、ベルギーで開催されるツール・デ・フランドルことロンド・ファン・フラーンデレン。JTB西日本が主催した「三船雅彦さんと行く 第98回ツール・デ・フランドル観戦ツアー6日間」に編集部・綾野が帯同した。



三船雅彦さんと行く ツール・デ・フランドル観戦ツアーの参加者と三船さん三船雅彦さんと行く ツール・デ・フランドル観戦ツアーの参加者と三船さん
20人の参加者を集めたこのツアー。主にはロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)プロレース前日の土曜日に開催される市民レースに出場するツアーだ。かつてベルギーを拠点に走り、ロンドに2度出場した元プロロードレーサーの三船雅彦さんが帯同してくれ、市民レースを一緒に走り、日曜はプロのレースを現地観戦するという贅沢なツアーだ。

ショールームの入り口にはロット・ベリソルが使うバイクがディスプレイされていショールームの入り口にはロット・ベリソルが使うバイクがディスプレイされてい 展示室の壁はロンド・ファン・フラーンデレンの写真で彩られている展示室の壁はロンド・ファン・フラーンデレンの写真で彩られている


ツアー初日はブリュッセル郊外はBeringenにあるリドレーの本社へと向かった。到着は朝の8時半。予定だった9時よりも早かったが、すでに多くの社員の方々が始業していた。ベルギーの方は勤勉なのだろう。

さっそく通されたのは2階の展示室。そこにはリドレーのバイクがすらりと展示されていた。日本には輸入されていないモデルやカラーのもの、なかには2015モデルと思わしきバイクが並んでいた。

日本では見たことのないカラーリングのモデルが並ぶ日本では見たことのないカラーリングのモデルが並ぶ ヨアキム・アールツ社長が自ら歓待してくれたヨアキム・アールツ社長が自ら歓待してくれた

社長のヨアキム・アールツさんも我々を歓迎してくれた。1997年に設立されたリドレー。現在の場所に社を移したのは4年前だ。清潔感あるガラス窓からは工場の様子、そしてオフィスを見渡せる、スポーツバイク界での同社の勢いや躍進ぶりを感じる社屋だ。

社員の方に案内され、さっそくファクトリーツアーへ。まず通されたのはペイントブース。宇宙飛行士のような防護服に身を包んだペインターがエアブラシで丁寧に塗装を行っている。ちょうど選手の名前とナショナルフラッグをあしらったスペシャルものを塗装している最中で、レース好きの人にはたまらない現場だった。

塗装会社として創業した当時の雰囲気を再現した塗装ブース塗装会社として創業した当時の雰囲気を再現した塗装ブース マスキングシートに再現されたペイント塗り分けパターンマスキングシートに再現されたペイント塗り分けパターン


もともと、自転車大国ベルギーにおけるリドレーのルーツはフレームにペイントを施す塗装業だったという。今この本社ではカスタムペイントモデルの塗装を主に行っており、かつてから一般ユーザーでもカスタムペイントに応じてくれるのはマニアな人には知られてきた。カスタムペイントを行っているのは近代工場に不釣り合いなほどの小さな塗装ブース。しかも昔のガレージのようだ。聞けば創業当時の小さな塗装ブースを工場内に再現しているのは、会社としてのルーツを大切にしたいという思いとのことだ。

コンピュータ上でデザインワークを披露するデザイナーの女性コンピュータ上でデザインワークを披露するデザイナーの女性 塗料を焼きつける巨大なフレームオーブン塗料を焼きつける巨大なフレームオーブン


塗り分けるパターンに合わせマスキングテープを切り抜き、フレームに貼りこんでいく女性従業員。ガイドさんに言わせれば、この作業は細かいところに気が配れる女性のほうが向いているのだとか。

マスキングや細かな貼りこみ作業は気配りに優れる女性の仕事なのだとかマスキングや細かな貼りこみ作業は気配りに優れる女性の仕事なのだとか チャンピオンのバイクにカスタムでマーキングを入れるチャンピオンのバイクにカスタムでマーキングを入れる


そして熟練ペインターが丁寧にフレームに一本一本マスキングを施してエアブラシで巧みに塗り分けていくその様は、手塗り工房と言うにふさわしい。その手間やから値段的には高いものだが、それも見て納得だ。輸送費の問題もあり日本ではまだ手の届きにくい存在だったが、PC上で指定できるカラーシミュレーションオーダーシステム「カスタマイザー」の本格稼働や、コスト削減の努力で、最近は日本からでもオーダーしやすいプランとなっている。塗装プロセスの現場を見ると、オーダーしたくなってしまう。

2013年ツール・ド・フランスでグライペルが勝利した場合に供給する予定だったマイヨジョーヌカラーのノア2013年ツール・ド・フランスでグライペルが勝利した場合に供給する予定だったマイヨジョーヌカラーのノア
塗装を焼き付ける大きなオーブンも並んでいた。焼きあがったフレームが丁寧に並べられる。生産ラインにあるバイクにはすべて鑑識プレートのようなNo.つきの札が取り付けられていて、このフレーム固有のNo.で行程を遡ることができるのだ。
フレームの生産はアジア拠点の工場が担っているため、その製造工程はこの本社ではみることができない。しかし本社内で組み上げる必要のあるスポーツバイクの生産ラインは観ることができた。

カスタムカラーに塗られたフレームが並ぶカスタムカラーに塗られたフレームが並ぶ コンポーネントやパーツのストックヤード。巨大さに圧倒されるコンポーネントやパーツのストックヤード。巨大さに圧倒される


上級モデルのロードバイクにパーツを手際よく組付けていく工員さんたちのなかで、若い人たちはほぼ例外なくカテゴリーの高いレースを走っているトップアマサイクリストだという。彼らはレーサーとしての現場からスポーツバイクにとっての「重要なこと」を多く知っているため、組み上げる際のポイントや、例えばワイヤーの流れや通し方といったことでもアドバイスができるノウハウが有るのだという。

若手の作業員の多くはハイカテゴリーを走るロードレーサーだという若手の作業員の多くはハイカテゴリーを走るロードレーサーだという
なるほど、マスプロメーカーでありながらも、リドレーのバイクから発せられる「抜け目なさ」、マニアも納得させる同社のモノ造りはこういったスタッフ配置や姿勢から作りだされるものなのだと納得した。

ひと通りのファクトリーツアーの後は社長のヨアキム・アールツ氏のオフィスに通された。ジャーナリストのみということで、発表を間近に控えたアルミバイク、フェニックス7005のミニプレゼンをしてもらった。

リトレー社 社長 ヨアキム・アールツ氏とオフィスリトレー社 社長 ヨアキム・アールツ氏とオフィス ロット・ベリソルに供給したモデルロット・ベリソルに供給したモデル


フェニックス7005の特長はこちらの記事に詳しいが、日本でも大好評を得たフェニックスのアルミフレーム版ということで、カーボン版で得た振動吸収のノウハウをアルミに置き換えてコストダウンも実現。ベルギーでのリドレーのアルミバイクのシェアは非常に高く、かなりの数のセールスが期待できるとのこと。そしてカラーがベルギー、イタリア、オーストラリアナショナルチャンピオンカラーで、マニアなら分かるはずだが、これはかつてナショナルジャージを纏ってリドレーを駆ったデヴォルデル、ポッツァート、マキュアンのレプリカカラーなのだ。日本でもアルミバイク復権をますます盛り上げる1台となりそうな予感がする。

フェニックス7005の披露をしてくれたヨアキム・アールツ社長フェニックス7005の披露をしてくれたヨアキム・アールツ社長
そして、リドレー本社周辺で今進んでいるプロジェクトの説明を受けた。ちょうど世界から関係者を集めてのカンファレンス開催のタイミングだったので、我々にも特別にプレゼンしてもらえたのだ。

このプロジェクト、「Flanders Bike Valley計画」とは、リドレーと関係の深いベルギー、とくにフランドル地方の自転車関連企業、周辺機器の企業、健康や栄養関連企業、観光産業などを巻き込み、お互いのノウハウを提供し合うことで技術協力して製品づくりやサービス開発で協業していくというスタイルのプロジェクトだ。サイクリストに身近な企業や団体では、ヘルメットのLASER、BIORACER、SAPIM、NIKE、3M、そしてベルギー自転車競技連盟などが参加。リドレー社の敷地には専用の風洞実験敷設をつくり、新しい製品づくりに役立てていくという。プロジェクトの目玉となるこの風洞実験棟は来年には完成しているという。ますますベルギー発の製品やサービスが熱くなりそうだ。

Flanders Bike Valleyについて解説を受けることができたFlanders Bike Valleyについて解説を受けることができた リドレー本社工場内に作られる風洞実験装置リドレー本社工場内に作られる風洞実験装置


そして今回のツアー参加者がこのリドレー本社でロンド・ファン・フラーンデレン市民レースに出場するためのバイクをレンタルする。実際に用意されていたバイクは男性用にHelium、Helium SL、Fenix。女性にはOrionかLIZ。おどろくことにカンパのEPSやデュラエース9000仕様のバイクがほとんど。なんという贅沢なレンタルバイクだろう。

リドレー社提供のレンタルバイクを品定めする参加者たちリドレー社提供のレンタルバイクを品定めする参加者たち ORIONやヘリウムのリドレーバイクをレンタルしてくれるなんて!ORIONやヘリウムのリドレーバイクをレンタルしてくれるなんて!

ちなみに欧州便の多くがパッキングした自転車に片道100ユーロのチャージをするようになった今、150ユーロでこのレンタルバイクを提供してくれるのなら、自分のバイクを輪行して持っていく理由が見当たらない!

リドレー社の手厚いおもてなしに興奮冷めやらぬ参加者たちは、次なる目的地、ロット・ベリソルのサービスコース(チーム本拠地)へと向かうのであった。

photo&text:Makoto.AYANO