9月30日に開催された第84回ラ・フレーシュ・ワロンヌで再び22歳の新鋭スイス人選手が周囲を驚かせた。最大勾配26%の「ユイの壁」でライバルたちを蹴散らしたマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)が初出場で初勝利。ツール・ド・フランス総合敢闘賞と世界選手権3位に続いて、クラシックタイトルを手にした。



1回目の「ユイの壁」をクリアするメイン集団1回目の「ユイの壁」をクリアするメイン集団 photo:CorVos
春から秋に開催時期を移した第84回ラ・フレーシュ・ワロンヌ。ツール・ド・フランスやリエージュと同じA.S.O.(アモリー・スポルト・オルガニザシオン)が主催するワンデーレースで、今年はアルデンヌクラシックの初戦にあたる。舞台となるのはベルギー南東部のワロン地方だ。

レース最大の見所は最大勾配が26%に達する激坂「ユイの壁」ことミュール・ド・ユイ(1,300m/9.6%)頂上フィニッシュ。2020年はこの「壁」とコート・デレッフ(2,100m/5%)、コート・ド・シュマン・デ・ギーズ(1,800m/6.5%)という3つの上りを含む32km周回を後半にかけて3周する。5年ぶりにコースの全長が200kmを超えるワンデークラシックの獲得標高差は3,000m。3日前のロード世界選手権を制したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)は大会3連覇がかかりながらも欠場したが、ツール・ド・フランス総合トップ10のうち(ログリッチとマスを除く)8人を含む豪華なラインナップが揃った。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2020ラ・フレーシュ・ワロンヌ2020 photo:A.S.O.ラ・フレーシュ・ワロンヌ2020ラ・フレーシュ・ワロンヌ2020 photo:A.S.O.
最大9分差をつけてワロン地方の丘を逃げたのはマーロン・ガイヤール(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)、マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)、アーロン・ファンパウク(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)、マティス・パースヘンス(オランダ、ビンゴール・ワロニーブリュッセル)の4人。ユイを起点にした周回コースに入るとイーデ・シェリング(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)とアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、CCCチーム)の2人が追走モードに入ったが、先頭グループに追いつくことはできなかった。

2回目の「ユイの壁」に差し掛かる頃には先頭はファンセヴェナントとファンパウクの2人に絞られ、カウンターアタックがかかり続けるメイン集団が2分遅れで続く。タイム差が1分まで縮まると、コート・デレッフの登りでファンセヴェナントが独走を開始。2020年7月にドゥクーニンク・クイックステップ入りしたばかりの21歳が、フィニッシュまで20kmを残して単独で逃げ始めた。

最大9分のリードで逃げるアーロン・ファンパウク(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)ら最大9分のリードで逃げるアーロン・ファンパウク(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)ら photo:CorVos
メイン集団をコントロールするサンウェブメイン集団をコントロールするサンウェブ photo:CorVos
「ユイの壁」の登りをこなすマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)「ユイの壁」の登りをこなすマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:CorVos
1分遅れのメイン集団からはルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)がカウンターアタックを仕掛けたが先頭ファンセヴェナントには届かない。すると、続いて残り10km地点のコート・ド・シュマン・デ・ギーズの登りでリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFプロサイクリング)が追走アタック。一方、上半身を大きく揺らしながら先頭で独走を続けたファンセヴェナントは残り4km地点の下り区間でオーバーランして落車した。

ファンセヴェナントはすぐに再スタートしたものの、残り3km地点で追走ウランの合流を許してしまう。結局ファンセヴェナントとウランはアージェードゥーゼールの組織的な追走によって、「ユイの壁」突入前、ユイの街中で吸収された。果敢に逃げながらも吸収され、3分遅れでフィニッシュしたファンセヴェナントは「初めてのワールドツアーのワンデークラシックだったけど、調子は良かったし、自信を持って挑んだ。タイム差が急速に縮まったのでペースを上げて独走。良いリズムを刻めていたものの、オーバースピードで下りコーナーに突入してしまって落車した。あの落車がなければ勝負に絡めていたかもしれないから残念だ」と語っている。

残り20kmから独走したマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)残り20kmから独走したマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
残り4kmで落車したマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)残り4kmで落車したマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
残り1kmを切り、フィニッシュまで続く急勾配の小径が始まるとドゥクーニンク・クイックステップが先頭へ。誰も動きを見せないまま残り500mに差し掛かり、クランク状のタイトコーナーを抜けたところでツール総合3位リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)がペースを上げる。

急勾配区間を先頭で走ったポートの後ろにマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)、ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)らが続き、残り150mでマイケル・ウッズ(カナダ、EFプロサイクリング)がアタック。ウッズの加速に食らいつき、少し勾配が緩んだタイミングで仕掛けたヒルシが先頭に立った。

初出場でありながら「早く仕掛けて失速してしまわないように、踏み始めるタイミングを待ち続けた」というヒルシが抜群のタイミングで加速し、ライバルたちを振り切って先頭フィニッシュ。ツールでマイヨアポワを15日間着用したコヌフロワが短距離登坂勝負で2位に食い込み、3位ウッズとともに表彰台に登っている。

激坂バトルを制したマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)激坂バトルを制したマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:CorVos
「チームとして完璧な走りだった。集団前方で常に仕事をしてくれたチームメイトたちの走りを誇りに思う。最終周回はとにかくペースが速くて、脚に力が残っているかどうかで決まったと思う。ユイの壁は急勾配でスーパーハード。痛みに耐えながら、気持ちが切れたらそこで終わりだった」。ツールでステージ1勝を飾るとともに総合敢闘賞を獲得し、さらに3日前のロード世界選手権で3位に入った22歳が初出場のラ・フレーシュ・ワロンヌで初勝利を飾った。

ヒルシは2019年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに初出場して51位。ヒルシは今後リエージュ、ヘント〜ウェヴェルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレンへの出場を予定している。「調子が良いと感じない日に決まって勝利するんだ。今日だって序盤は調子が悪いと感じていた。でもチームメイトたちのおかげで良いポジションをキープして、そのまま最後の登りが始まったのでモチベーションは高かった。これから先は何が起こってもボーナスのようなもの。明日から数日間休んで、この調子の良さを日曜日のリエージュにぶつけたい」。

アルデンヌクラシック初戦を終えて注目は週末のリエージュに。なお、10月10日に開催予定だったアムステルゴールドレースはオランダ国内のイベント規制によって中止が決まっている。

2位ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)、1位マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)、3位マイケル・ウッズ(カナダ、EFプロサイクリング)2位ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)、1位マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)、3位マイケル・ウッズ(カナダ、EFプロサイクリング) photo:CorVos
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2020結果
1位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) 4:49:17
2位 ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)
3位 マイケル・ウッズ(カナダ、EFプロサイクリング)
4位 ワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック)
5位 ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)
6位 ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)
7位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) 0:00:05
8位 リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)
9位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
10位 シモン・ゲシュケ(ドイツ、CCCチーム) 0:00:10