雨降りしきる山岳地帯を逃げ切ったジョセフロイド・ドンブロウスキー(UAEチームエミレーツ)がステージ優勝。総合も動いたジロ・デ・イタリア第4ステージの2級山岳パッセリーノ峠で、ステージ2位のアレッサンドロ・デマルキ(イスラエル・スタートアップネイション)が自身初のマリアローザ獲得を果たした。


5月11日(火)第4ステージ
ピアチェンツァ〜セストラ 187km ★★★


降りしきる雨の中、セストラに向かうプロトン降りしきる雨の中、セストラに向かうプロトン photo:LaPresse
5月11日(火)第4ステージ ピアチェンツァ〜セストラ 187km ★★★5月11日(火)第4ステージ ピアチェンツァ〜セストラ 187km ★★★ image:RCS Sport5月11日(火)第4ステージ ピアチェンツァ〜セストラ 187km ★★★5月11日(火)第4ステージ ピアチェンツァ〜セストラ 187km ★★★ image:RCS Sport

エミリア=ロマーニャ州のピアチェンツァから平坦路を駆け抜けて、パルマの街を通過後にアペニン山脈へと舵を切る第4ステージ。ステージ後半100kmはアップダウンの繰り返しで、標高1,020mのセストラに向けて徐々に高度を上げていく。

2つの3級山岳を含む断続的なアップダウンをこなしてから、残り7km地点でボーナスタイム有りのスプリントポイント通過後に2級山岳パッセリーノ峠(登坂距離4.3km・平均勾配9.9%・最大勾配16%)に挑む。パンチの効いたこの急坂をクリアすると、2.5kmにわたる緩やかなアップダウンをこなしてフィニッシュ。主催者発表の獲得標高差は1,800mだが実際には3,100m。厳密に言うと山頂フィニッシュではないが、今大会最初の登坂テストとしてマリアローザ候補たちの脚を試した。

気温16度のピアチェンツァから気温9度のセストラに向かう道中はほぼずっと雨が降り続いた。ステージ中盤にかけて視界不良により中継ヘリが飛べず、国際映像が入らない時間帯が続くほどの悪天候。そんな降りしきる雨の中を、合計25名の大きな逃げ集団が先行した。

逃げグループを形成した25名
アンドレア・ヴェンドラーメ(イタリア、アージェードゥーゼール・シトロエン)
ルイス・フェルファーク(ベルギー、アルペシン・フェニックス)53秒遅れ
フィリッポ・タリアーニ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ニコラ・ヴェンキアルッティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ヤン・トラトニク(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)
フィリッポ・フィオレッリ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
フィリッポ・ザナ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
サムエーレ・ゾッカラート(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)
ピーター・セリー(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
マルトン・ディーナ(ハンガリー、エオーロ・コメタ)
フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、エオーロ・コメタ)
アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー、グルパマFDJ)
クイントン・ヘルマンス(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)53秒遅れ
レイン・タラマエ(エストニア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)57秒遅れ
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・スタートアップネイション)33秒遅れ
ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター)32秒遅れ
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、バイクエクスチェンジ)
ニコ・デンツ(ドイツ、チームDSM)
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、クベカ・アソス)35秒遅れ
クーン・デコルト(オランダ、トレック・セガフレード)
アマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(エリトリア、トレック・セガフレード)
ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)34秒遅れ
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ)

総合の遅れが1分以内の選手を7名含む逃げは、イネオス・グレナディアーズ率いるメイン集団とのタイム差貯金を6分30秒まで積み上げることに成功する。長時間メイン集団の先頭に立ったのはフィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)。雨に濡れたマリアローザが登りでペースを抑え、下りを安全にこなし、平地を一本引きした。

ステージ序盤に形成された25名の巨大な逃げ集団ステージ序盤に形成された25名の巨大な逃げ集団 photo:CorVos
長時間メイン集団を牽引したマリアローザのフィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)長時間メイン集団を牽引したマリアローザのフィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
雨のエミリア=ロマーニャ州の山岳地帯を進む雨のエミリア=ロマーニャ州の山岳地帯を進む photo:LaPresse
最初の3級山岳カステッロ・ディ・カルピネーティ通過後、どっぷり濡れた下りで逃げグループの中からヘルマンスとタラマエ、ユールイェンセン抜け出して先行を開始。前日のタコ・ファンデルホールン(オランダ)の勝利に触発されたように、マリアローザ獲得の可能性も浮上したアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオの2人(ヘルマンスとタラマエ)が積極的にリードする。追走グループに1分45秒、メイン集団に7分45秒のタイム差をつけて、先頭3名が3級山岳モンテモリーノの登坂開始した。

急勾配区間で先頭はタラマエとユールイェンセンに絞られ、同様に13名に絞られた追走グループに1分10秒、ドゥクーニンク・クイックステップとバーレーン・ヴィクトリアスの牽引に切り替わったメイン集団に8分差をつけて3級山岳モンテモリーノをクリアしていく。そこからフィニッシュまでは44km。総合成績も入れ替わる大逃げが決まる公算が徐々に大きくなっていった。

いよいよ2級山岳パッセリーノ峠の登りが始まると、追走グループから飛び出したデマルキとドンブロウスキーが一気に差を詰めて先頭のタラマエとユールイェンセンに追いつき、すぐさま置き去りにする。フィニッシュまで4kmを残して先頭に追いついたドンブロウスキーはそのまま踏んで先頭へ。ドンブロウスキーはデマルキに10秒差をつけてこの最後の難所を越えた。

アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオが積極的な走りを見せるが、2日連続ステージ優勝は叶わずアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオが積極的な走りを見せるが、2日連続ステージ優勝は叶わず photo:CorVos
メイン集団からアタックしたミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)メイン集団からアタックしたミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:LaPresse
出遅れながらもタイムロスを抑えたレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)出遅れながらもタイムロスを抑えたレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
一方、バーレーン・ヴィクトリアス率いる4分遅れのメイン集団から、2020年大会総合4位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ)が脱落するという波乱も。2016年に同じセストラでステージ優勝を飾っているジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)のアタックに続いて、約20名まで絞られたメイン集団からミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)が動いた。

このチッコーネとランダの動きに反応できたのはアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)とエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)、ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO)だけ。総合ライバルたちを引き離したベルナルらが猛烈な勢いでフィニッシュを目指す頃、先頭ではドンブロウスキーとデマルキがそれぞれ祝福の時間を味わっていた。

ドンブロウスキーがステージ優勝、そしてデマルキがステージ2位&マリアローザ獲得。25名の逃げ集団の中から最終的に10名が逃げ切り、1分37秒差にまで迫ったベルナルがステージ11位に入っている。参考までに、最後の2級山岳パッセリーノ峠(登坂距離4.3km・平均勾配9.9%・最大勾配16%)をドンブロウスキーは平均出力368Wで15分23秒かけて登坂(VAM1,638)。一方、ベルナルグループの登坂タイムは13分53秒(VAM1,815)だった。

デマルキを振り切ってフィニッシュしたジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ)デマルキを振り切ってフィニッシュしたジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ) photo:LaPresse
ステージ2位でフィニッシュするアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・スタートアップネイション)ステージ2位でフィニッシュするアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・スタートアップネイション) photo:CorVos
「キャリアにはアップダウン、つまり良い時と悪い時がある。今日ようやく良い日に巡り合えたみたいだ」。2年ぶりの勝利、ならびにUCIワールドツアーレース初勝利を飾った29歳のドンブロウスキーは語る。アメリカの次世代オールラウンダーとして期待され、2012年にベビージロで総合優勝を飾っているドンブロウスキー。これまでツアー・オブ・ユタ総合優勝やツアー・オブ・カリフォルニア総合4位などの成績を残しているが、ヨーロッパレースでは思うような結果を残せていなかった。

6年連続出場となるジロで初のステージ優勝を果たしたドンブロウスキーは「グランツールでは最終週にかけて調子が上がるのが常で、今日のステージも完璧に自分向きとは言えなかったけど、チャンスがあればそれに賭けてみる必要がある。逃げグループの中に自分よりも総合上位の選手がいる展開をステージ優勝に生かすことができた。マリアローザに手が届かなかったことは残念だけど、この先のステージでまだ着用のチャンスがあるかもしれない。でも、同時にフェルナンド・ガビリアのディエゴ・ウリッシのステージ優勝と、ダヴィデ・フォルモロの総合成績というチームの目標も達成したい」とコメント。ジャパンカップにも2度(2013年6位、2018年46位)出場していることから日本にもファンが多い『ドンちゃん』は、マリアアッズーラを獲得するとともに、マリアローザまで22秒差の総合2位につけている。

「これまで数え切れないほどのアタックが無駄に終わった。でもこの11年間のキャリアが間違いだったとは思わない。諦めないことが大事なんだ」。逃げのスペシャリストとして知られる34歳のデマルキが、自身14回目のグランツールで初の総合リーダージャージを手にした。創設7年目のイスラエルチームにとってもグランツール総合1位は初めての経験。

「誰もが夢見るマリアローザ。特にイタリア人選手にとっては特別な存在なんだ。これまで手の届きそうになったこともなかったので、まさか自分が着用するとは。3〜4人の逃げにはない難しさがあったけど、チャンスを生み出して、計画通りにレースが進んだ」と、大逃げを成功させたジロの総合リーダーは語っている。

マリアローザ候補の中では、今大会最初の登坂テストでベルナル、ランダ、ウラソフ、カーシーの4名が脚の違いを見せつけた。まだまだ致命的なタイムロスとは到底言えないが、サイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)やレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)は10秒、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)やジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、チームDSM)は34秒のタイムロスを被っている。先頭から6分近く遅れたアルメイダは早々にマリアローザ争いから脱落した。

ステージ初優勝を飾ったジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ)ステージ初優勝を飾ったジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、UAEチームエミレーツ) photo:LaPresse
自身初のマリアローザに袖を通したアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・スタートアップネイション)自身初のマリアローザに袖を通したアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・スタートアップネイション) photo:LaPresse
ジロ・デ・イタリア2021第4ステージ結果
マリアローザ 個人総合成績
マリアチクラミーノ ポイント賞
マリアアッズーラ 山岳賞
マリアビアンカ ヤングライダー賞
チーム総合成績
1位 バーレーン・ヴィクトリアス 41:35:57
2位 イネオス・グレナディアーズ 0:01:07
3位 UAEチームエミレーツ 0:01:16
text:Kei Tsuji
photo:CorVos