3月8日、ジャイアントが企画した新型TCR発表イベントにスペシャルゲストとしてトム・デュムランが来日。ライドやトークショーを通じてファンと交流を楽しんだ。滞在わずか17時間というアジア巡回ツアーの日本での一日の様子をお伝えしよう。



モーニングライドに新型TCRとともに現れたトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

2日前の3月6日に世界一斉発表されたジャイアントTCR。それを受けて2日後、日本でもローンチイベントが開催された。

会場には新型TCRの各グレードがラインナップ photo:Makoto AYANO

高い人気を誇るTCRの10世代目となる記念すべき新型モデルとあって、その熱の入れようはかなりのもの。ジャイアント本社のある台湾で開催された台北ショーにあわせて発表され、かつてTCRに乗って大活躍したトム・デュムランはジャイアントのアンバサダーとして各国でのローンチイベントでTCRとともにグローバルローンチを盛り上げるスペシャルゲストとして招かれ、巡回することに。

小雨模様の多摩川河川敷を走ったモーニングライド photo:Makoto AYANO

2017年ジロ・デ・イタリア総合優勝、世界選手権個人タイムトライアル優勝など、元プロロードレーサーとして数々の輝かしい経歴を持つトム・デュムランは歴代のジャイアントTCRに乗って活躍したといっても過言でない選手で、引退後は昨夏からジャイアントのブランドアンバサダーをつとめている。

モーニングライド参加者たちと写真に収まるトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

この日、羽田空港に近いTREX川崎 River Cafeを拠点に開催された日本でのTCRローンチイベントは朝から雪模様に見舞われた。予定された第1プログラムはモーニングライド。気温は低いが幸い小雨に落ち着いた天候の中、デュムランはファンやVIPゲストらと20km弱のライドへ。

穴守稲荷神社の鳥居を歩いて抜けるトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

作法に則り神社を参拝するトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

新型TCRに乗り、黒づくめのウェアで登場したデュムランは参加者たちと交流しながら一緒にライド。話しかけるファンに気さくに応じ、代わる代わる記念写真に収まりながら河川敷を走り、穴守稲荷神社に参拝。手を清め、賽銭を入れるなどスタッフから手順を学び、鳥居を抜けながら日本の伝統的な雰囲気を味わうように参拝した。

ファンたちと一緒に穴守稲荷神社に参拝した photo:Makoto AYANO

小一時間のライドのあとはTREX カフェを会場にTCRの発表イベントへ。まずはジャイアント本社マーケティング責任者のフィービー・リュウさんが挨拶。2日前には台湾、昨日は中国、昨夜から日本、そして滞在17時間でこの日の午後3時には韓国へ飛び、明後日はタイというスケジュールでのローンチイベントで、一日一カ国を休日なく巡るというTCR発表会アジアツアーの全貌が説明されると、会場に詰めかけたファンからは驚きの声が挙がった。

ジャイアント本社マーケティング責任者のフィービー・リュウさんが挨拶
新型TCRのプレゼンテーションも開催



2011年のデビューからの輝かしいキャリアの間、多くの時間をジャイアントのバイクに乗って活躍したデュムランをジャイアントのアンバサダーに迎えようと思ったこと、そして今回のTCRのローンチに際して招待したいと思った経緯が説明された。「過密なハードスケジュールながら、訪問する先々の各国で熱い歓迎を受け、アジアにも自身のファンがたくさん居ることにトムは驚いているようです」とフィービーさんは言う。

TCRローンチイベントに登場したトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

MCサッシャ✕トム・デュムラン トークショー

トークショーのMCをつとめたサッシャさんとデュムラン photo:Makoto AYANO

新型TCRのプレゼンテーションの後、10時からはMCにサッシャさんを迎え、デュムランとのトークショーが開催された。選手時代のエピソード、新型TCRについて、銀メダルを獲得した東京五輪の思い出、ジロ・デ・イタリアでの「トイレ事件」、現代の超人レーサーたちについてなど、サッシャさんのナビゲートにより様々な話題で大いに盛り上がった。ここからはその内容を抜粋して紹介したい。

2度目の日本に来れた喜びを語るトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

デュムラン: 台湾、中国、日本、韓国、タイと続く忙しい旅になっているけど、ここまでとても楽しい旅になっていて、楽しんでいます。

サッシャ: 日本に来るのは何回目ですか?

デュムラン: これが2度目で、前回は東京オリンピックでした。

サッシャ: 私はそのとき場内アナウンスを担当していて、メダルをとったあなたの名前を何度もコールしていましたよ。

デュムラン: あぁ、なるほど。それで聞き覚えのある声だなと思ったんだ! (笑)

2020東京オリンピック、自転車個人タイムトライアルで銀メダルを獲得したトム・デュムラン(左、オランダ)、金はプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)、銅はローハン・デニス(オーストラリア) photo:CorVos

サッシャ: 東京オリンピックはまだCovid-19の影響がありましたが、どんな思い出がありますか?

デュムラン: 制限はありましたが、自転車競技は屋外で行うスポーツでしたから外でトレーニングすることができました。富士山の見える本当に美しいエリアでしたね。

サッシャ: 日本語は何か覚えていますか?

デュムラン: アリガトウ、コンニチワ、ぐらいかな? (笑) 練習することがあるからあとで手伝ってください(笑)。

サッシャ: 新しいTCRは「軽い」「硬い」「速い」ですよ。あなたはそれを覚えないといけないんですね。(笑)

デュムラン: カルイ、カタイ、ハヤイ、TCR!

会場の一同が拍手して爆笑

会場にはかつての名場面の写真が飾られた photo:Makoto AYANO

サッシャ: そもそもジャイアントのバイクに乗り始めたのは何時からですか?

デュムラン: 2011年のラボバンク育成チームからでしたね。そして先日ジャイアント本社に行ったときに10世代すべてのTCRが並んでいるのを見ましたが、そのとき後半の5世代すべてのTCRに乗ってきたことがわかりました。

サッシャ: TCRとはどんなバイクですか?

デュムラン: とても優れたバイクです。BB周辺が硬くて、ペダリングしたパワーがすぐに加速につながり、前に進むスピードに変換されます。歴代すべて似た性格で、それが今回の新型TCRにも受け継がれています。そして軽く、硬く、速い。今までのTCRの性格を受け継ぎながら、さらにすべてが進化していますね。

会場にディスプレイされた新型TCR photo:Makoto AYANO

サッシャ: どんな人にこのTCRを勧めますか?

デュムラン: 誰にでも勧められると思います。TCRはバイクに必要なすべての要素を備えています。今僕が乗っているのは最高グレードのモデルですが、どのグレードのモデルに乗っても、どんなレベルの人でも楽しめる素晴らしいバイクだと思います。

サッシャ: 今日は日本で走ってみてどうでしたか?

デュムラン: 日本のファンは皆が優しくて礼儀正しくて。オランダのファンはそんなじゃないけど(笑)、本当に交流するのが楽しかった。来てみるとたくさんのファンが居たんだな、と本当に驚いています。

参加者たちと記念撮影するトム・デュムラン photo:Makoto AYANO

会場の清水さんからの質問:日本での東京オリンピックの印象を教えて下さい。

デュムラン: 本当に美しいコースでした。すでに早めの引退を考えていましたが、美しいコースだと知っていたのでぜひ東京五輪は走りたいと思っていたんです。アップダウンが多く、完璧に自分にフィットしていたし、暑いのも得意だったため、東京五輪タイムトライアルを走ろうと決めていたんです。

会場からの質問:昔の選手はスプリンター、クライマーなどに分かれていましたが、今は様々な異なる脚質をすべて備えたスーパーな選手が居ますが、何がそれを変えたのでしょうか?

気さくに受け答えするトム・デュムラン
デュムラン: そのとおりだと思います。ポガチャル、ファンアールト、ヴィンゲゴー、ファンデルプールなど、本来は異なる脚質が必要な走りをすべてこなしてしまうようなスーパー選手が出現しています。信じられないような状況ですが、まず彼らは才能に恵まれてます。

そして今のサイクリング界が科学的に研究しているからだと思います。食事からトレーニングまで、すべてが科学にもとづいて進化しています。予算のあるチームは積極的に資金を研究に注ぎ込み、データを収集しています。このTCRが科学的につくられているのと同じように。ただやはり彼らが非常なる才能の持ち主で、それがサイクリング界を変えているのは間違いないでしょう。

鈴木さんの質問:東京五輪のレース前に、私は妻と田園で練習風景を見物していて、一緒に記念写真を撮ってもらいました。そのときのデュムランさんはレース前と思えないほど穏やかでリラックスしていましたが、落ち着ける秘訣は何だったのでしょう?

デュムラン: そのときはありがとう。いつもそうありたいとは願っているけど(笑)。おそらく東京五輪の前はすべての厳しい練習をやり尽くしていたからで、それ以上何もすることがなかったからある意味落ち着いていたんだと思います。あとは当日脚があるかどうか。だからもし2週間前に会っていたら、ものすごいストレスを抱えた僕だったと思います(笑)。

会場からの質問:引退後にアジアを旅したそうですが、アジア各国を旅して印象に残った国やできごとは?

レースの名場面を背景にトークに答えるトム・デュムラン
デュムラン: インドネシア、ベトナム、タイ、香港、中国、たくさんの国に行ったけど、現役最後の年のことが印象に残っています。オランダは寒すぎるので冬には温かい国に行ってトレーニングキャンプを行うのが常なんですが、その年はチームメイトと2人でタイのチェンマイに行きました。北部に4日間で回る有名な山岳ルートがあるんです。それを走ったことがいい記憶になってアジアが好きになりましたね。

会場からの質問:東京五輪のときに他社のバイクに乗って銀メダルをとりましたが、ジャイアントのバイクに乗れば結果は違っていましたか?

デュムラン: タイムトライアルだったから乗ったのはTCRじゃないけど、TRINITY(ジャイアントのTTモデル)に乗っていたら100%金メダルだったと思うよ!

日本に20台のジロ・デ・イタリア優勝記念バイクも集結。 photo:Makoto AYANO

会場の人からの質問:2017年のジロ・デ・イタリア16ステージで、優勝をかけて走っている最も大事な局面でトイレに行くという難しい状況に陥りましたが、そのときの心境を教えて下さい。

デュムラン: あぁ、通訳してもらう前に笑いで何の質問かだいたい分かったよ...(笑)。思い返すと結局はいいストーリーになっていると思うんだけど、皆がTVで見ている前でレースを一旦離れるという残念な出来事だったね。

でも実は経験豊富な年上のチームメイトにはレース前に「君のことをサポートするけど、どんなときでも全力を尽くすことを約束してくれ、不調やトラブルで遅れたり、パンクしたり、トイレに行くことがあっても、たとえ何があってもだ。それを約束してくれるなら僕たちも全力で君をサポートする」と言われていたんだ。だからそのときも落ち着いていられたんだ。そんなストーリーがあったからジロ・デ・イタリア2017の優勝は興味深いものになったんだろう。

2018年ジロ・デ・イタリア優勝記念に日本で制作された記念マグ
発表会イベント限定のジャイアント・ハンバーガー



会場からの質問: 選手活動を中断していた時期がありましたが、そこからカムバックしてまた上を目指そうと復活できたのはなぜですか?

デュムラン: 2016年にリオ五輪前のツール・ド・フランスでは絶好調で、しかしその最終日2日前に手首を骨折してしまい、練習が思うようにできなくてリオでは2位に終わった。そのリベンジにと東京五輪に出場してメダルを取ると自身決めていたんだ。
2021年に一度はサイクリングを楽しめないほどに疲れて落ち込み、休むことになるんだけど、「これが唯一のチャンス」と、東京五輪に出るために復活したんだ。もう金メダルにはこだわりはなかったけど、必ず東京には行こうと決めたんだ。メダルをとれなくても負けてもいいから東京でベストを尽くそうと。それがカムバックできた理由だね。



日本滞在わずか17時間で韓国へ

誰にでもフレンドリーに接するトム・デュムラン
似顔絵イラストのポストカードをプレゼントしたファンと



ジロ・デ・イタリア完走経験のある野寺秀徳さんがツーショット写真をせがむ
日本滞在わずか17時間で韓国へと向かうトム・デュムラン



盛況だったトークショーを終えたデュムランは、その後ランチをとる間も惜しんでファンサービスにつとめた。12時半の離脱の予定時間をオーバーしてまで対応し、この日来場したほとんどすべての人にサインをし、ツーショットの記念写真に応じた。そして13時半にフィービーさんらと空港への送迎車に乗り込んだ。

イベント中、笑顔を絶やさず、可能な限りファンサービスに応じてくれたデュムラン。アジア好きで、日本へもまた来ると約束してくれたから、来日の機会はこの先またあるはずだ。

トム・デュムランとイベント参加者たち全員で記念撮影 photo:Makoto AYANO

text&photo:Makoto AYANO

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