雨と雪によりサバイバルな展開となった第88回ラ・フレーシュ・ワロンヌ。最大勾配26%の「ユイの壁」で飛び出したスティーブン・ウィリアムズ(イスラエル・プレミアテック)が、イギリス人として初優勝を果たした。



4月17日に行われた第88回ラ・フレーシュ・ワロンヌ photo:CorVos

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2024コースプロフィール image:A.S.O.
アムステルゴールドレースの3日後、リエージュ~バストーニュ~リエージュを4日後に控える4月17日(水)、ベルギー南東部のワロン地域を舞台としたラ・フレーシュ・ワロンヌ(UCI.ワールドツアー)が開催された。アルデンヌクラシック3連戦の真ん中にあたる本大会は、最大勾配26%の激坂ミュール・ド・ユイ(距離1.3km/平均9.6%)が見所のワンデーレースだ。

今年シャルルロアを出発する198.6kmレースは、コート・デレッフ(距離2.1km/平均5%)やミュール・ド・ユイを含むお馴染みの周回コースからコート・ド・シュラーブ(距離1.3m/平均8.1%)が道路工事のため除外。そのため今年で40回目のフィニッシュを迎える「ユイの壁」を4度通過するレイアウトとなり、一層厳しさを増したレースに新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)を含む175名の選手たちが臨んだ。

リリアン・カルメジャーヌ(フランス、アンテルマルシェ・ワンティ)ら6名による逃げグループ photo:A.S.O.

プロトンはイネオス・グレナディアーズなどがコントロールにあたった photo:CorVos
アムステルゴールドレースに続き、フレーシュに出場した新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos


昨年圧巻の登坂で大会を制したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)は不在のため、UAEは2020年大会を制したマルク・ヒルシ(スイス、UAEチームエミレーツ)をエースに据える。また2022年の優勝者であるディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)も出場するなか、落ち着いたペースからリリアン・カルメジャーヌ(フランス、アンテルマルシェ・ワンティ)ら6名がエスケープした。

一方、それを4分差で追うメイン集団はイネオス・グレナディアーズやリドル・トレックが牽引する。特に直近のアムステルゴールドレースで優勝したトーマス・ピドコック(イギリス)を擁するイネオスは、トライアスロンが本職の40歳キャメロン・ワーフ(オーストラリア)が中心にペースメイク。そしてミュール・ド・ユイを含む周回コースを前に、予報通りの強い雨が選手と路面を濡らし始めた。

予報通り、レース後半に入り雨が降り出した photo:CorVos

気温が一気に3度まで落ちるなか逃げ集団は一度目の「ユイの壁」に突入する。そして悪天候の影響か、EFエデュケーション・イージーポストが先導するプロトンでは早くもトゥーンスやペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)ら優勝候補が脱落。また雨が時折雪に変わるなかプロトンが逃げを残り69km地点で吸収し、ここ数年で最も過酷なコンディションとなったフレーシュは振り出しに戻った。

2度目の「ユイの壁」でも集団から優勝候補たちが遅れていき、その中にはマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)やヒルシ、そしてピドコックの姿もあった。

サバイバルな展開に集団の人数が絞られていくなか、幾つかのアタックからセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、アルペシン・ドゥクーニンク)が単独で抜け出す。20年近く出ていない独走優勝を目指して1分半のリードを得たクラーウアナスンだったが、残り14kmでその夢はあえなく潰え、集団は再び一つの塊となった。

単独先頭に立ったセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

最後のコート・デレッフを越え、いよいよ選手たちはこの日4度目、そしてフィニッシュ地点の待つ最後のミュール・ド・ユイ(距離1.3km/平均9.6%)に突入する。

先頭で人数を集め、ペースを作ったのはブノワ・コスヌフロワ(フランス)がエースとするデカトロンAG2Rラモンディアル。そしてアシストたちが役目を終え、各チームのエースが徐々に上がる勾配を淡々と登っていくなか、残り300m地点でスティーブン・ウィリアムズ(イギリス、イスラエル・プレミアテック)が仕掛けた。

残り300mで飛び出したスティーブン・ウィリアムズ(イギリス、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos

コース左側から一気にスピードを上げたウィリアムズに対し、集団先頭にいたコスヌフロワやトビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)はついていくことができない。そしてコンスタントに勾配20%オーバーの「壁」をもがき、猛追するケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケアB&Bホテルズ)を振り切ったウィリアムズがラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝を果たした。

ヴォークランの猛追を振り切ったスティーブン・ウィリアムズ(イギリス、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos

イギリス人として初制覇を成し遂げたウィリアムズ。「なんて日だ。とても嬉しいし、フレーシュを勝てたなんて信じられない。悪天候のなかでも楽しんで走ることができた。月にも登る気持ちだよ」と喜び、また「(ユイでは)皆が牽制し、残り300mから仕掛ければ5〜10秒のリードを稼げると思ったんだ。先頭に立った後、脚が空っぽだったから何度も後ろを振り返った。疲れ果てているし、感動で言葉がないよ」と激闘を振り返った。

ウィリアムズは2019年にバーレーン・メリダでプロデビューした27歳。イスラエルに移籍した2023年から年々成績を残しはじめ、今年のツアー・ダウンアンダーでは最終日の区間優勝と共に総合優勝にも輝いた。

2位にはヴォークラン、そして3位にはマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)が入り、地元ベルギーの表彰台に上がっている。

イギリス人初制覇を成し遂げたスティーブン・ウィリアムズ(イスラエル・プレミアテック) photo:A.S.O.

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2024表彰台:2位ヴォークラン、1位ウィリアム、3位ファンヒルス photo:A.S.O.

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2024結果
1位 スティーブン・ウィリアムズ(イギリス、イスラエル・プレミアテック) 4:40:24
2位 ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケアB&Bホテルズ)
3位 マキシム・ファンヒルス(ベルギー、ロット・デスティニー) +0:03
4位 ブノワ・コスヌフロワ(フランス、デカトロンAG2Rラモンディアル)
5位 サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)
6位 トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) +0:10
7位 ロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ)
8位 ドリアン・ゴドン(フランス、デカトロンAG2Rラモンディアル)
9位 ティシュ・ベノート(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)
10位 ギヨーム・ボワヴァン(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos