ファクターの軽量エアロロードOSTRO VAMが、そのコンセプトを推し進めた第2世代へと進化した。注目度を増し続ける気鋭のプレミアムブランドが放つニューモデルは如何にその走りを変えたのだろうか。そして、1200g台という驚くべき軽さを提げる同時開発のエアロホイールは?ファクターバイクを所有するCWスタッフが試乗記を綴る。



OSTRO VAM 2.0 ファクターの軽量エアロロードが第2世代にモデルチェンジを果たした photo:Gakuto Fujiwara

2020年台において最も勢いのあるブランドの一つと言って過言ではないだろう。ファクターは、世界最高峰のモータースポーツや航空宇宙産業など、最新鋭の技術を扱うエンジニアリング企業が自転車開発に乗り出したことに端を発するプレミアムバイクブランド。台湾の自転車産業でトップブランドのカーボンバイク開発生産に深く携わっていたロブ・ギティス氏よって2014年に独立し、量産を見据えたマニュファクチャラーとして舵を切った。

独創的なアイディアと高い技術力を活かしたバイクは一気にコアなサイクリストの心を掴み、ワンプロサイクリングからAG2R、そして現在に至るイスラエル・プレミアテックへのプロチームとのパートナーシップにおいて、ファクターの各モデルはより一層洗練されたレースマシンへと変遷を遂げている。一般的に売れ線となる低〜中価格帯モデルには目もくれず、ラインナップをロード、グラベル、MTBと増やしながらも、ただひたすら理想を追い求めたハイエンドモデルばかりを生産し、ここに洗練されたグラフィックとプロモーションを乗せる。そのブランドイメージは「他人と違うカーボンバイク」を求めるユーザーの心を掴んで離さない。

リアバック、特にシートステーはより扁平した形状に。UCIルール緩和により実現した部分だ photo:Gakuto Fujiwara
ヘッドチューブはくびれを持たせた形状。正面から受けた空気をフレームに沿わせるための造形だ photo:Gakuto Fujiwara



ホログラムデカールが光るダウンチューブ。フレーム前側の剛性は極めて高い photo:Gakuto Fujiwara

何を隠そう、私こと、CWスタッフの磯部もその一人である。2017年に初代O2とONEを試した際には両方の完成度に驚いたし、特にONEは双胴ダウンチューブにエアロヒンジ仕様のフロントフォークといった処女作「001」の流れを汲む個性的な機構を取り入れているのにも関わらず、「走る」バイクに仕上げられていることにいたく感銘を受けた。だからこそONEがモデルチェンジするタイミングでマイバイクとして購入し、今もアップデートしながら大切に乗っている。記憶を辿ってみても、同じバイクに5年以上も乗り続けるのは初めてのことだと思う。

ファクターに魅せられた一人として、より速く、より軽く進化を遂げた新型OSTRO VAMは個人的に注目の一台だった(バイクの詳細はデビューレポートを参照してほしい)。全体的なフォルムとデザインは先代OSTROと似通っているが、実車を見れば、大幅にシェイプアップしたリア周りと、それとは対照的にボリュームを増したフロント周りの変化は明確だ。エアロと軽さがさらに突き詰められていることが良く分かる。

トップチューブは後方に向けて絞られる形状に変化。英戦闘機スピットファイアの胴体形状を参考にしたという photo:Gakuto Fujiwara
「NEVER STATUS QUO(進化あるのみ)」 photo:Gakuto Fujiwara


先代と比べてリアバックは大幅にシェイプアップ。シートチューブも目に見えて薄くなった photo:Gakuto Fujiwara

テストライドに繰り出してすぐ、その違いはより一層明確に、素晴らしいものとして身体に伝わってきたのだった。先代OSTRO VAMはかなり踏み応えのある、高い体力レベルのユーザー向けバイクだと感じていた(具体的に言えばヘッドからBB〜リアまで硬く、エアロロードらしい"塊感"が強い)が、モデルチェンジした新型OSTRO VAMはシェイプアップしたリアバックが効いているのか、踏み味もかなりスムーズで流れるように走る。54サイズで-45gという軽量化の数値以上に走りの軽さが際立っていて、少ないワット数であってもバイクがスーッと前に出る。剛性値はそのままと言うが、全体的なフィーリングは先代よりもずっと軽量バイクに寄っている。

全体的なフィーリングは先代よりもずっと軽量バイク寄り。開発陣の狙い通りの走りになったように感じる photo:Gakuto Fujiwara

ハンドルも含めてヘッド周りは極めて硬い。トッププロを満足させ得るものだと感じる photo:Gakuto Fujiwara

フォークからヘッド周り、ハンドルにかけては下ハンドルでパワーを掛けても(全体重をかけるような乗り方をしても)ヨレることなんて一切ないほどカチカチに硬く、その一方でリアにはしなりがある。そのバランスゆえか、峠道でダンシングとシッティングを混ぜながら、ある程度スピードを維持しながら走る時の感触がとても気持ち良いのだ。きっと先代だったらもっと脚を使っていただろうな、と思う瞬間がライド中に何度もあった。

もちろん先代比での空力の良し悪しは明確に分かるものではないけれど、ダウンヒルでのスピードの伸び方はこれまで乗ってきたエアロロードの中でもトップクラスに良く、車体の軽さゆえに漕ぎ足した時の反応も良い。目に見えて太いフォークやヘッド周りゆえに、ダウンヒルをうんと攻めてみてもがっしりと入力を受け止めてくれている安心感があった。

車体の上質なフィーリングに大きく貢献しているのが、ファクター傘下のブラックインクがリリースした「48/58」ホイールセットだ。その名の通りフロント48mm/リア58mmリムを採用し、新型の大型フランジ採用ハブとカーボンスポークを採用したエアロホイールだが、驚くべきはセット1250gという軽さだ。ウェブプレゼンでライバルとして名指しされたエンヴィのSES4.5(リムハイト50/56mm)よりもカタログ重量で180g、ロヴァールのRapide CLX(同51/60mm)よりも150g、CADEXの50 Ultra Disc(前後50mm)よりも100g軽い。ライトウェイトのフラッグシップモデルOBERMAYER EVO(前後48mm)よりも20g重いだけと言えば、いかにこの数値が凄まじいかがお分かり頂けるだろう。

同時開発されたブラックインクの48/58ホイール。エアロホイールながらセット1250gという驚きの軽さを誇る photo:Gakuto Fujiwara

軽さと高剛性の要となるカーボンスポーク。通常の金属スポークと同じように調整や交換が可能だ photo:Gakuto Fujiwara
前後ハブにはセラミックスピードのベアリングをインストール photo:Gakuto Fujiwara



軽いからといってロープロリムのようなスカスカ感は無く、ペダリングが繋がってヒュルヒュルっとスピードが乗っていく、50mmハイトクラスならではフィーリングを、軽い入力で、かつあらゆる速度域で味わえる。同時開発されているから当然と言えば当然なのだが、新型OSTRO VAMとの相性もすこぶる良いし、カーボンスポークだからといって不安な感じは一切なく、レーシングホイールとして一切破綻が無い。スポークは1本ごとに調整・交換可能だから後々のメンテナンスで困ることも無いはずだ。

正直に言えば、これまでのブラックインクのホイールは良くも悪くもあまり印象に残るものではなかったが、この48/58ホイールセットはそのイメージを変えて余りあるものだった。惜しむらくは車体に対して知名度がまだ低いことだが、性能を考えれば437,800円(税抜き価格は40万円を割り込む!)という価格は半端ではなく安い。

末恐ろしささえ感じる飛び道具っぷり。車体との相性もすこぶる良い photo:Gakuto Fujiwara

正式発表前にはファクター代表のギティス氏や、サーヴェロから移籍した名エンジニア、グラハム・シュライブ氏も参加したウェブ発表会が行われたが、そこで彼らが強調していたのは、UCIによるバイク設計規制緩和にいち早く対応してエアロ化を推し進め、かつUCI規制である6.8kgを達成するエアロオールラウンダーとして、妥協なく極限まで磨き上げたということ。実際に私も新世代OSTROに乗ることで、彼らの言わんとするところをしっかりと感じとれたと思う。ファクターの重鎮たちが並べる言葉はただのPRではなく、リアルなのだった。



ファクター OSTRO VAM 2.0
カラー:Team IPT、Pearl White/Chrome、Chrome
サイズ: 45、49、52、54、56、58、61
フレーム素材:TeXtreme Toray, Nippon Graphite Pitch-Based Fiber
シートポストセットバック:0mm、20mm
ハンドル:ブラックインク Integrated Aero Barstem
ヘッドセット:セラミックスピード SLT 1-1/8″ and 1-3/8″
ボトムブラケット:セラミックスピード T47A

フレームセット価格
フレームセット: 895,400円
Black inc 48/58 ホイール付き:1,304,600円
完成車価格
シマノ DuraAce :1,815,000円
シマノ Ultegra:1,492,700円
スラム RED eTap AXS:1,800,700円
スラム RED eTap AXS (パワーメーター付き):1,865,600円
スラム Force eTap AXS (パワーメーター付き):1,525,700円


最新ニュース(全ジャンル)