CONTENTS
発表直後から話題を呼び続けているブランド”初”の山岳用軽量バイク、アルプデュエズをインプレッション。ファンを惹き寄せて止まないタイム独自の乗り味は、軽量化の過程において如何に変化したのか、そして、名峰の名を冠したクライミングバイクとしての価値とは?

ALPES D'HUEZ 1 LTD AKTIVをフィールドテスト

試乗の機会を得たALPES D'HUEZ 1 LTD AKTIV(試乗時はホイールを交換)試乗の機会を得たALPES D'HUEZ 1 LTD AKTIV(試乗時はホイールを交換) photo:Makoto.Ayano
今回筆者が試乗する機会を得たのは、合計3種類のバリエーションが存在するアルプデュエズの中でも、ALPES D'HUEZ 1 LTDに、AKTIV(アクティブ)フォークを組み合わせた最高峰モデルだ。台湾の発表会で披露されたものと同じ限定50本の限定カラーであり、塗装による重量増を嫌い、車体の半分以上がクリア塗装のみで仕上げられたスタイルは、なかなかもって戦闘的な走りを予感させてくれる。

台湾での発表会では十分な試乗時間が設けられず、帰国後に改めてアルプデュエズを借り受けた。試乗車はR9170系DURA-ACE Di2に、ライトウェイトの最高峰モデルMEILENSTEIN OBERMAYERという考えうる限り最高にして最上級のアッセンブルだ。しかしホイールの個性が強いため、テスト中は台湾で試乗したものと近い、ENVEのClassic 45に入れ替えた上でワインディングを走った。

アルプデュエズ最大の焦点は、前作と言えるIZON(アイゾン)やFluidity(フルイディティ)に代表されるタイムらしさ、つまり上質なウィップを伴って加速するしとやかな走りが軽量化によってどう変化したか、という点だろう。一般的には重量を削ぎ落とすほどに”味”は簡素化するものだが、前章で紹介したインタビューでもしなりと軽量化の両立が命題だったと強調されていただけに、否が応でも期待は高まってくる。

芯のあるウィップを効かせた、機敏で伸びやかな走り

苦しい場面で踏み直す際の伸びやかな走りに感動する苦しい場面で踏み直す際の伸びやかな走りに感動する photo:Makoto.Ayanoその走りを一言で表現するならば、「攻撃的」だろうか。パワーを掛けていくとBBを中心にウィップが生まれ、元に戻ろうとする動きに身体を合わせれば、面白いように速度が乗っていく。しかしIZONと異なるのは、その走りはより機敏で、そして鋭利であること。ペダリングは軽いのに、芯の強いウィップが加わることで不安を感じない。単なる軽量バイクとは違う、深みを秘めた走りに感動すら覚えてしまう。

BB周辺のブレ幅が抑えられたためか、ペダリングの踏み下ろしが極めてナチュラルなこともアルプデュエズの特徴だろう。グザヴィエ氏が語ったように、しなりの揺り戻しが素早くなっているので、IZONよりも高出力かつハイケイデンスを用いて走るライダー向けの味付けになった。まるで急角度の階段を降りる際にピッチが早くなるように、バイク自身が次の踏み込みを求めてくるので、抑える気持ちを保っていないとついついオーバーペースになってしまう。重量がそこまで軽くないことに対する疑問は僅か数踏みで消滅。実際の走り心地は数値以上に軽やかだ。

筆者にとって最もフィーリングが良かったのが、苦しい場面で勾配が緩み、そこから踏み直す時。ほとんどタメを感じないのに、加速はどこまでも伸びやかで心地良いのだ。大出力のスプリントを受け止めるにはSCYLON(サイロン)が適しているだろうが、悦びすら感じさせる艶のある加速感は、剛性一辺倒のバイクには無いアルプデュエズのオリジナル。この部分にこそタイムらしさが色濃く宿っていると感じる。

もちろんヘッドチューブ周辺の剛性が増したことで、ダンシングの機敏さにも磨きがかかった。IZONの登り性能も上々だったが、アルプデュエズのそれは、切れ味を増したハンドリングも相まってよりシャープに生まれ変わっている。リズムの速いダンシングを求める方にとっては最適だろうし、IZON比で9mm低く設定できるハンドル位置も、高出力のライディングに対して理に適っていると思う。

新型のクイックセットを導入し、ヘッドチューブは9mm短縮。より高負荷のシーンに対応しやすくなった新型のクイックセットを導入し、ヘッドチューブは9mm短縮。より高負荷のシーンに対応しやすくなった photo:Makoto.Ayano
機敏な走りを生み出す要素の一つとして感じる、コンパクトなリア三角機敏な走りを生み出す要素の一つとして感じる、コンパクトなリア三角 photo:Makoto.Ayano
荒れたアスファルト上でも振動の後残りをカットするAKTIVフォーク。ハンドリング自体はクイックであり、25cタイヤとの相性が良かった荒れたアスファルト上でも振動の後残りをカットするAKTIVフォーク。ハンドリング自体はクイックであり、25cタイヤとの相性が良かった photo:Makoto.Ayano

フレーム側の特徴を活かす上でもホイール選びは慎重になるべきだ。マッチングが良かったのが、リム重量の軽いカーボンホイールで、加速時にしなりを伴うもの。例えば試乗車にセットされていたMEILENSTEIN OBERMAYERはその全てが極上だが、高剛性ゆえに立ちが強く、強制的にしなりを生み出せる脚力がないと、もしくは1時間以内の短距離レースでないと車体のリズムと合わせづらいように感じた。もちろん踏む時もあるけれど、最初から最後まで頑張り続けるわけではない筆者(アルプデュエズを求める大多数のユーザーが同じだろう)にとって、台湾でもセットされていたENVEは総合的に好印象だった。

快適性については27.2mm径のシートポストがその責を担うが、試乗車の軽量なカーボンサドルが影響してか後輪からの突き上げ量は多めだ。AKTIVフォークが働くフロント側は衝撃の後残りがカットされるため肩周りの疲れは薄いが、若干せわしないハンドルの動きを抑えることも考えれば、25c程度のタイヤがマッチするだろう。

クライマーではなく、レーシングバイク

登りだけに限定されない、軽量オールラウンドレーサーとして価値のあるバイク登りだけに限定されない、軽量オールラウンドレーサーとして価値のあるバイク photo:Makoto.Ayano
伝説的な名勝負を演出してきた峠の名を冠した、タイム至上最軽量マシン。登坂をメインターゲットに据えて生まれたバイクでこそあれど、機敏かつ伸びやかな走りは、単なるクライマーズバイクではなく、軽量オールラウンドレーサーと呼ぶにふさわしい。

IZONよりも登坂を軽く、SCYLON(サイロン)よりもタイムらしさを、と考えていた方にとってはベストバイだろうし、ハイテンポで山岳グランフォンドを楽しむ方には良き選択肢となるだろう。そして何より「”タイム”の、”アルプデュエズ”に乗る」という、他に代えがたい魅力や、ストーリーがこのバイクには込められている。

今回は他のグレードを試す機会はなかったが、よりリジッドなフィーリングや、軽さにこだわる人はクラシックフォークモデルが、IZONと比べて剛性が増したことで脚当たりが硬くなっているため、あまり人と競らないホビーユーザーにとっては快適性を狙ってバサルト繊維を投入した弟分「21」が良き相棒となってくれそうだ。


しなりのある軽量バイクなら、一昔前と変わらないじゃないか。そう捉える方もいることだろう。しかし奥行きのある安定感や、どこからでも加速していく対応力は、2020年代を見据えた最新鋭のバイクに他ならない。新体制の下デビューしたアルプデュエズに、上昇気流を掴まんとするタイムブランドを重ねたのは私だけではないだろう。
提供:ポディウム text:So.Isobe photo:Makoto.Ayano