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乗鞍王者・中村俊介が新Émondaを徹底インプレッション乗鞍王者・中村俊介が新Émondaを徹底インプレッション
OCLV800の採用を軸に、各部にエアロチュービングを採用することでアンダー700gを維持しつつ大幅なエアロダイナミクスの向上を果たした新型Émonda。シミュレーションにおいて、アルプデュエズをはじめとした世界各地の主要なヒルクライムコースで先代よりも優れたタイムを叩きだした3世代目のÉmondaと向き合うのは、日本屈指のヒルクライマーである中村俊介だ。

ヒルクライマー最強決定戦の呼び声も高いマウンテンサイクリングin乗鞍を2018、2019年と連覇し、54分51秒というコースレコードを打ち立てた中村の走りを支えてきたのは先代のÉmonda。前作の比類ない登坂性能を誰よりも知る中村の目に、新型Émondaはどのように映るのか。舞台は箱根、天下の険。駆るは当代一のクライマー。いざ、尋常に。

Émonda SLRインプレッション by中村俊介(Route365)

ライダープロフィール

中村俊介(Route365) 手にするのは乗鞍ヒルクライムのチャンピオンジャージだ中村俊介(Route365) 手にするのは乗鞍ヒルクライムのチャンピオンジャージだ
1987年生まれ、名古屋在住。2018年、2019年と乗鞍ヒルクライムを連覇。2019年には54分51秒という大会記録を樹立し、強豪ひしめくアマチュアヒルクライマーの中でも大きな存在感を発してきた。ロードレースにおいても頭角を現し、昨年のツール・ド・おきなわ市民210kmでは終盤まで先頭集団に残り、6位という結果を残している。今年からは「Route365」と名付けた新チームを結成。ヒルクライム、ロードレース共に更なる躍進を目指す。

乗鞍ヒルクライムで2連覇、コースレコードを保持する中村俊介乗鞍ヒルクライムで2連覇、コースレコードを保持する中村俊介 photo:Makoto.AYANOヒルクライムレース参戦時の愛車はトレック EMONDA SLR(リムブレーキ版)だヒルクライムレース参戦時の愛車はトレック EMONDA SLR(リムブレーキ版)だ photo:Michinari.Takagi

新型Émondaとのファーストコンタクト

梅雨前線の間隙を突き、伊豆半島の湯河原にて今回のインプレッションライダーとなる中村と落ち合った。挨拶もそこそこに、メインディッシュである新型Émondaを下ろすと、一気にその表情が輝く。

エアロ形状となったフォークブレードに対し、乗鞍王者は興味をそそられる様子を見せたエアロ形状となったフォークブレードに対し、乗鞍王者は興味をそそられる様子を見せた
中村:これが新型ですか!かなり印象変わりましたね。エッジが立って、見た目もかっこいい。特にフォークは相当変わってますねえ。ブレードがエアロになって、全体的にボリュームアップしてますよね。重量的にはどうなんですか?

CW:フォークは15g(※)ほど増えてます。フレームは30gほどの違いですね。

中村:なるほど。今乗っているÉmondaはかなりしなやかな乗り味で、自分の感覚とマッチするところが気に入っているんですが、ちょっと性格は変わってそうですね。この塗装もこだわりが感じられて、良いですね。

CW:今回、Project Oneに"ICON"という新たなスペシャルカラーが追加されたんです。

中村:新しいカラーなんですね!すごく凝ったペイントで、こういう特別感のある塗装のバイクは気持ちが上がるのでいいですね。ついつい走行距離も延びてしまいそうです。あと、実は塗装も剛性感に影響があると思っていて、自分のU5 Vapor CoatのÉmondaは少し柔らかいんですよ。そういう意味でも新型の乗り味は気になりますね。

「かなり印象が変わりましたね」とKVF形状を触って確かめる中村「かなり印象が変わりましたね」とKVF形状を触って確かめる中村
CW:愛車のÉmondaはリムブレーキ仕様ですよね?

中村:そうです。正直、ヒルクライム一本だけだったらディスクローターって重いだけじゃないですか。だからヒルクライムレースに出るときはリムブレーキでいいんじゃないの?というイメージですね。でも、普段の練習とかロードレースだと、平地や下りの性能も重要ですから、総合的に見た時にどう進化してるのかは楽しみですね。

(バイクを持ち上げつつ)これ、トータルの車重はどれくらいなんでしたっけ?7kgくらい?

新型Émondaを持ち上げ、バイク重量の感触を確かめる新型Émondaを持ち上げ、バイク重量の感触を確かめる
CW:メーカーの公称値だと、37mmのセミディープリムを履いたトップモデルの56cmサイズで、6.72kgですね。ペダル込みで7kgを切るくらいです。プロレースで最高のパフォーマンスを発揮できるよう、6.8kgのUCI規定に収まる中で重量と空力をバランスした、とのことです。

中村:なるほど、プロの機材として見れば確かにこうなるかもしれないですね。自分のÉmondaが普段は6kgジャストぐらいで、決戦用の超軽量ホイールを履かせると5.6kgまで落としてるんですよ。その差が登りでどう出るのか、というのも気になってきました。もう乗っていいんですか?(笑)

CW:是非!

「素直に速くて、どこを走っても楽しいバイクに進化した」中村俊介(Route365)

湯河原の温泉街を通りすぎ、椿ラインへ。ここから標高差1,015mを登り、箱根・大観山ドライブインをフィニッシュとするヒルクライムテストだ。初夏の緑がまぶしい山の中へ入ると中村の走りもキレを増す。いかにも日本の峠といった風情漂うワインディングを時折ダンシングを織り交ぜつつ、40分ほどで芦ノ湖を眼下に望む大観山を登り切った。

「オールラウンドなレースバイクになりました」「オールラウンドなレースバイクになりました」
CW:実際にヒルクライムで一本登ってみて、どうでしょう?

中村:素直に速いですね。エアロなフォークが効いてるのでしょうか、特に緩斜面で前に吸い込まれるようでした。最近の軽いエアロロードは、緩斜面だと下手をすると純粋なヒルクライムバイクよりも速いくらいですが、そこに通ずるものがあります。

椿ラインにはそこまでの急斜面が無いので激坂での性能は未知数ですが、ヒルクライムで大半を占めるくらいの斜度においては大きなアドバンテージを持ったバイクだと思います。前作と比べると、リア周りの剛性が上がってるように感じます。とはいえ嫌な硬さでは全然なくて、気持ち硬いかな? というくらいですが。

「緩斜面では前に吸い込まれるような感覚さえある」「緩斜面では前に吸い込まれるような感覚さえある」
その分、平地でのリズムも取りやすくなってますね。前作は登りのために余分なものを全てそぎ落として作られたようなバイクでしたが、この新Émondaはどこを走っても楽しいバイクになっていますね。登りに特化したのが前作だとすると、新型は平地も下りも走りやすい味付けになっています。

ルックス的にもエアロですし、なんだか2世代ほど前のMadoneを彷彿とさせますよね。Émondaに対して僕が抱いていたイメージよりも、Madoneに寄せてきたな、というのが正直な感想です。かといって、現行Madoneほど攻撃的でもなく、乗り味もルックスもちょうどいいバランスで、「流石トレック!」という完成度です。

温泉街へ向かう序盤の平坦区間にて。「平地でのリズムが取りやすくなっていますね」と中村温泉街へ向かう序盤の平坦区間にて。「平地でのリズムが取りやすくなっていますね」と中村
CW:ヒルクライム性能で言うと前作よりおとなしくなった?

中村:それは難しい質問ですね。どうしても比較対象が自分のヒルクライム・スペシャルバイクになってしまうので(笑)。それが大体6kgを切るくらいなので、テストバイクより1kg以上軽いんですよ。そこは大きくフィーリングに影響してきます。なので、新型Émondaを単体で見た時に、登り性能がスポイルされている、ということはないです。

ただ、ディスク化の影響もあって全体で見ると若干剛性感は上がっています。旧モデルはホビーライダーにとってもかなり踏みやすい剛性感だったんですよ。これは想像ですけど、プロライダーには物足りなかったんじゃないかな? と思うぐらい。そこがリアとフロント周りを中心に強化されることで、上りも下りも平坦もこなせるオールラウンドバイクに進化していると感じました。バイクのスウィートスポットとなるパワー域は少し高くなっているので、少し硬さを感じる部分もあるでしょう。とはいえ、前作のリムブレーキモデルと比較すれば、というレベルだと思います。

ダンシングで新型Émondaの剛性感を確かめる。「リアバックの剛性が増加して、ダンシングへの反応性も向上しています」中村俊介(Route365)ダンシングで新型Émondaの剛性感を確かめる。「リアバックの剛性が増加して、ダンシングへの反応性も向上しています」中村俊介(Route365)
CW:剛性が上がったことで、ペダリングに影響はありますか?

中村:得意とするペダリングもちょっと変わっていますね。旧Émondaはトルクを掛けつつ85rpmくらいのケイデンスで踏んでいくのがちょうど良かったですが、新型はもう少しギアを落としつつケイデンスを上げるほうがフィットします。高回転で回しても綺麗に加速しますし、ダンシングへの反応も良い。これは剛性アップの恩恵といえるでしょう。

「よりオールラウンドなレースバイクに。おきなわで使ってみたい」中村俊介(Route365)

ここからいったん、中腹までダウンヒル。新型Émondaの下り性能を確かめつつ、椿台にて前作のディスクモデルと乗り換える。ディスクモデル同士の比較を通して、新型Émondaの実力がより深く見えてきた。

手前は旧型Émonda。新旧を乗り比べ「バイク全体として見た時に進化していると感じ取れる」という手前は旧型Émonda。新旧を乗り比べ「バイク全体として見た時に進化していると感じ取れる」という
CW:さて、前作のディスクモデルと比較するとどうでしょうか?

中村:リムモデルと比較したときほどの剛性感の差は無いですね。ですが、ディスクモデル同士で比較しても、加速への反応性は新型のほうが優れていると感じます。ホイールも軽くなっているとのことなので、フレームだけの性能ではないとは思いますが、自転車全体として見た時にしっかり進化していることは感じ取れます。

一方、平坦区間や緩斜面では明らかに新Émondaに分がありますね。エアロが効いているというのもありますが、フロント剛性がしっかりしていることも大きく影響しているのだと思います。

リムブレーキモデルに比べると硬く感じる点については、空気圧を調整するとだいぶ改善されました。最初の登りでは6.9気圧くらい入れていましたが、今回6.2気圧まで落としてみると、いい意味で角が取れて乗りやすくなりました。少し反応性は落ちますが、トラクションもかかりやすいですし、僕の体重(60kg)であればこの程度がピッタリですね。

椿ラインのダウンヒルでハンドリングを確かめる。椿ラインのダウンヒルでハンドリングを確かめる。
ハンドルストッパーが装備されるが十分にハンドルの切れ角は確保されているハンドルストッパーが装備されるが十分にハンドルの切れ角は確保されている 初めて乗るバイクとは思えないほど自然に下れる、と評する中村初めて乗るバイクとは思えないほど自然に下れる、と評する中村


CW:ダウンヒル性能はいかがでしたか?

中村:予想通りといいますか、非常に安定していて下りやすいバイクです。初めてのバイクだと多少緊張感があるものですが、新Émondaに関しては全く不安に感じることは無かったですね。軽量なディスクロードですが、ハンドリングの左右バランスも良くて、流れるように下れます。

ケーブルがフル内装というのもハンドリングの軽さに繋がっていると思います。ステアリングストッパーがついていますが、切れ角も十分確保されているので操作していて不安は無いですね。輪行や収納時には困るかもしれませんが、乗っている分には全く問題はありません。

「ロードレースであれば新型のほうが有利」と語る「ロードレースであれば新型のほうが有利」と語る
CW:実際に使うならどういったレースが得意でしょう? やはりヒルクライム?

中村:正直、自分がUCI規定に関係の無いヒルクライムレースで優勝を目指して選ぶのであれば、もうしばらく今のÉmondaに乗り続けると思います。自分のパワーゾーンやペダリングとの相性もありますし、重量制限が無い環境下で軽さを追求すれば、ディスクブレーキは重量増のデメリットが大きくなってしまいます。でもそれも「優勝争いをするのだから、コンマ1グラムでも有利に」という、ヒルクライムでトップを争う選手たちだけの考え方だとも思います。

他の人と着順を競うわけでなく、過去の自分の記録を更新するために登る人にとっては、新Émondaのほうが魅力的だと思います。単純に峠のタイムだけで言えば、旧型よりも速く走れるコースが大半でしょう。更に、登った後の下りやすさや安全面まで考えるのであれば、大多数の人は新型のほうが楽しめると思います。

例えば、富士ヒルなどは梅雨時期の開催とあって、雨に降られることもしばしば。リムブレーキバイクで軽量化のために用意したカーボンホイールで長時間雨の中を下るのは辛いでしょうし、落車のリスクも高まります。その点、ディスクブレーキロードでありながらリムブレーキの軽量バイクと遜色ないヒルクライム性能を発揮する新型Émondaは心強い。

一方で、ツール・ド・おきなわのようなロードレースで使うなら圧倒的に新型Émondaが有利でしょうね。ディスクブレーキとエアロ化によって、下りで後れを取ることが無くなった一方、登りでは大きな武器になりますから。実は、個人的にはロードレース用バイクとしての期待が大きかったんです。今回のテストライドで、期待以上のバイクであることが確かめられたのは大きな収穫でした。それを確かめたいがためにこのお話をお受けしたんです。

インプレッションは標高差1,000m以上の箱根・椿ラインヒルクライムで行ったインプレッションは標高差1,000m以上の箱根・椿ラインヒルクライムで行った
次回は驚異のプライスフォーバリューを誇るミドルグレード、Émonda SLシリーズの詳細と中村によるインプレッションをお届けする。

(※)記事公開時には90gの重量増と表記しておりましたが、正しくは15gの重量増でした。
  お詫び申し上げますとともに、訂正させていただきます。
提供:トレック・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部