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とにかく走りが軽く、鋭い。新型TCRは「ヒルクライムマシン」から「レースマシン」としての色合いを増し、品質の良さをさらに高めてきた。CWスタッフ磯部による3グレード乗り比べインプレッション、そしてTCRと共に輝かしいキャリアを築いたトム・デュムランが語る新型の印象を紹介します。



ジャイアント本社で開催されたグローバルローンチに馳せ参じたのは、シクロワイアード編集スタッフの磯部。2017年の先代PROPEL、2018年の先代DEFYに続くジャイアント海外発表会参加だ。テストライドは初日のプレゼン後に「イージーペース(サイクリストのこういうセリフは世界共通で嘘である)」の30km、2日目にあらゆる要素を含む95kmという合計125km/1700mアップという内容で行われた。

テスト用に用意されたTCR ADVANCED SL 0。CADEX MAX 40ホイールで武装する photo:GIANT

テストバイクとして用意されたのは最上級モデル、TCR ADVANCED SL 0だった。一体式カーボンスポーク&ハブで1249gという軽さを誇るCADEXのMAX 40ホイールで武装したフォルムは実に戦闘的で、いやが応にも期待値は高まるばかり。セットアップを済ませて道路に出た瞬間、TCR ADVANCED SL 0の走りに衝撃を受けることとなった。

圧倒的な軽さと硬さ レースバイクとして完成度を上げた新型TCR

最大15%に達する本格的な峠も登場。TCRの真骨頂を味わうことができた photo:GIANT

軽い。とにかく走りが軽い。そして硬い。最もTCR ADVANCED SL 0を表現するに相応しい言葉は「鋭い」だろう。フレームも、CADEX MAX 40ホイールも走りが軽く、その組み合わせによって生まれるフィーリングは低速から高速域までシャープなことこの上ない。

先代のADVANCED SLをテストした際「相当にとんがった、乗り手のスキルを求めるピーキーなマシン」と書き記したが、新型TCRでもその方向性は変わらない。ただし先代よりも走りに厚みが増し、スプリントや巡航中の安定感が高く、PROPEL同等とは言わないまでも「ヒルクライムマシン」から「レースマシン」という色合いが濃くなったように思う。登りでの走りはもちろん軽く、瞬発力の高さゆえ、集団のペースが上がったとき、前のライダーにパッと飛びつく動きがとても得意だ。

一定以上のワットで踏み込んだ時の加速は目が覚めるほどで、シェイプアップしたというフレーム上側と、今や珍しい存在となったインテグラルシートポストが効いているのだろうが、ダンシングの振りは極めて軽い。ピュアレースマシンゆえに脚当たりは堅いものの、上下死点でギクシャクする感じは少なくスムーズ。これが先代と比べて走りの幅が広がった要因だと感じる。

瞬間的な加速力が新型TCR最大の魅力。ホイールとのコンビネーションも走りに輪を掛ける photo:GIANT

台中郊外の幹線道路を駆け抜ける。初日の集団のテンションは異常に高かった(速かった) photo:GIANT
妥協なき硬い走り。脚が終わった後は苦しい時間を過ごすことに...。 photo:GIANT



ダウンヒルは極めて軽快。パッと倒れ込み、その先でしっかりと安定する。新作のタイヤも効いていると感じる photo:GIANT

ハブ&スポーク一体式のCADEX 40MAXホイールもTCR ADVANCED SLの鋭さに輪をかける存在だ。縦横共にホイール剛性はカキーンと高く、ダイレクト感この上ない。重量級ディープリムホイールのようにグングン加速するタイプではないが、TCR ADVANCED SLとのマッチングは極めて良く、質量的な軽さと剛性で乗り手のイメージ以上に前に進む。2日目の後半はずっと強風の中を走っていたものの、横風に煽られることなく極めて安定していたことも二重丸。

カデックスを主導するジェフ・シュナイダー氏との対話で「カーボンスポークは軽さではなくホイール剛性を高めるための選択だった。なぜならカーボンはステンレスと違って伸びず、強い構造体を作ることができるから。軽さはあくまで付加的要素に過ぎない」という話を聞いたが、ライド中にはシュナイダー氏の言わんとするところを感じ取ることができた。コーナリングの切れ込みが鋭いのに、その先でビタっと安定する理由には、車体とホイールはもちろん、ショルダー形状の工夫によってバンク時のグリップを増したというCADEX RACE GCタイヤの恩恵も確実にあるのだろう。

誰でも体感できるほどの鋭い走りだが、正直に言えばTCR ADVANCED SLとCADEX 40MAXホイールの組み合わせは、ビギナーが週末ライドを楽しむためのものじゃなく、あくまでシビアに結果を求めるレーサー向け。実際にテストライド中、脚が終わって以降は相当苦しい時間を過ごすハメになった。でもそれは、脚がある限り全開で踏み倒したくなるほどの気持ち良さの裏返しとも言える。常に乗り手が攻めの意識で走るとき、TCR ADVANCED SLは先代以上に厚みのある、気持ち良い走りで応えてくれるのだ。

兄弟グレードを乗り比べ:クラス越えのパフォーマンスと、明確な乗り味の違いを体感

日本国内でADVANCED PRO 2とADVANCED 2 KOMをテスト photo:Naoki Yasuoka

それでは、弟分であるADVANCED PROと、ADVANCEDの走りはどうなんだろう。フレームそのものはどちらも同じADVANCEDグレードだが、PROはADVANCED SLと同じフォークという点で大きく違う。帰国後にジャイアント・ジャパンからADVANCED PRO 2(機械式シマノ105とSLR1 40カーボンホイール/57.2万円)とADVANCED 2 KOM(機械式シマノ105とP-R2 DISCアルミホイール/33万円)をお借りし、ホイールを入れ替えながらショートインプレッションを行った。
まずADVANCED PRO 2に乗って感じたのは、セカンドグレードらしからぬ完成度だった。ADVANCED PROの走りの方向性はトップグレードと共通していて、過激なまでの軽さと剛性感は影を潜めるものの、代わりに多少荒いペダリングを受け入れてくれる懐の深さがある。ADVANCED SLと全く同じフロントフォークゆえか登りも小気味良く走ってくれるし、意外なことに平坦巡航がかなり気持ち良く、速度がグーッと伸びる。

瞬間的な速さはADVANCED SLに譲るものの、従来からジャイアントのPROグレードは高評価を得てコンチネンタルクラスのプロレースにも投入されてきただけに、国内トップレーサーも満足できるはず。個人的にはハンドル/ステムを軽量なCONTACT SLRに変えれば、もっとダンシングの軽さやフレームの素性の良さを引き出せると感じる。

セカンドグレードらしからぬ完成度がPROグレードの魅力。走りの方向性はSLグレードと変わらず、レーサーそのものだ photo:Naoki Yasuoka

優しく、伸びやかな走りがADVANCEDグレードの魅力。完成車のパッケージングもとても優秀だ photo:Naoki Yasuoka

ADVANCED 2 KOMは打って変わって優しさ溢れる乗り味だった。フォークの違いによる差は確実にあって、ハードブレーキ時に目に見えてしなり量が大きいADVANCEDフォークは、フロント周りの剛性的にもダンシングの振りやコーナリングのキレが穏やか。そしてP-R2 DISCホイールはカーボンのSLR1 40に対して足あたりがマイルド。しかしADVANCED 2 KOMに関して言えば、それは決して「重たい」とか「もっさり」とかいうネガティブなものではなく、穏やかで振動がなく「優しい」という表現が最適な、これならどこまでも走っていけそうだと思えるプラス的なのものだ。

テスト前は「きっとホイールを変えたらもっと良くなる」と書くことになるかな、と思っていたらその逆で、むしろゼロ発進は剛性の高いSLR1 40ホイールよりも軽いように感じる。上位グレードとは走りの方向性の違いはあれど、長距離を走るほどにその優しさは乗り手の疲れを労ってくれるはず。しなやかな走りを求めるユーザーであれば、ADVANCED PROではなく、あえてADVANCEDグレードを選ぶのも面白いと思う。

洗練され、完成度を引き上げた、ジャイアントの今のロードバイクたち

ここ近年で、ジャイアントのロードバイクはドラスティックなまでに進化している。

2022年にデビューした現行PROPELは洗練されたコンセプトとデザインでプロアマ問わずレーサーの支持を集め、続いてリリースされた新型DEFYは快適性にスピードをプラスし正統派ロードバイクとしての幅を拡大。今回発表されたTCRは軽量モデルとしての立ち位置を明確にしつつ、ロードレースで戦えるオールラウンド性能を身に付けた。それは、これまでPROPEL一辺倒だったプロチーム(ジェイコ・アルウラー)内でのTCR使用率が急上昇したことからも分かる通りだ。

筆者と台湾で試したTCR ADVANCED SL 0。3グレードを乗り比べてそれぞれのキャラクター設定と、その優秀さに感心させられた photo:GIANT

TCRとPROPEL、そしてDEFYがカーボンモデルのみとなって久しく、アルミロードは入門モデルCONTENDに集約。ジャイアントのロードバイク主軸3モデルは、それぞれトップグレードからボトムグレードまでのすべてにおいて、マシンとしてのトータルバランスと品質向上をかつてないほどに叶えたと言って良い。「最初の一台がジャイアントだったから、それ以降は別のブランドを」という方も少なくないと思うけれど、そういう方にこそ、ぜひ最新のジャイアントバイクを試してほしいと思うほどに。

「個人として最強」の男トム・デュムランが語るTCR

「TCRは自分にとって特別なバイク」

台湾での発表会直後に来日。アンバサダーとして国内発表会にゲスト出席した photo:GIANT JAPAN

台北ショーでお披露目されたTCRとともに、北京、東京、ソウル、バンコクと、毎日1カ国のペースで5都市を歴訪したTCRグローバルローンチ・アジアツアー。このスペシャルなイベントにアンバサダーとして帯同したトム・デュムランは、多忙なスケジュールにも嫌な顔ひとつせず日本のファンと交流し、自分用にセッティングされた新型のTCR ADVANCED SL 0とともにモーニングライドも走った。

「現役時代の多くの時間をTCRに乗って活躍したことで、トムをジャイアントのアンバサダーに迎えようと考えた」とジャイアント本社マーケティング責任者のフィービー・リュウ氏が話すとおり、デュムランは2011年のラボバンク・コンチネンタルチームでのプロデビュー以来、チームを変えながらもその選手時代に歴代のTCRに乗り継いできた。

「先日ジャイアント本社に行ったときに10世代すべてのTCRが並んでいるのを見ましたが、そのとき後半の5世代すべてのTCRに乗ってきたことがわかりました」と話すデュムラン。つまり第6世代以降のすべてのTCRに乗って活躍してきた。まさに自身のキャリアの良き伴侶として、常にその走りを支えたTCRに、今は伝道師として関わることはデュムランにとっても自然なことだ。

「TCRは僕にとって特別なバイクというだけでなく、凄いバイク」 photo:GIANT

デュムランは覚えたての日本語で、「カルイ、カタイ、ハヤイ」とTCRの走りを表現する。それは単なるリップサービスではなさそうだ。

デュムラン「TCRはとても優れたバイクです。ボトムブラケット周辺が硬くて、ペダリングしたパワーがすぐに加速につながり、前に進むスピードに変換される。歴代TCRはすべて似た性格で、それが今回の新型TCRにも受け継がれています。軽く、硬く、速い。今までのTCRと共通の性格をしっかりと受け継ぎながら、さらにすべてが進化しています」。

そして「どんな人にこのTCRを勧めるか?」との問いに、デュムランは次のように答える。

「誰にでも勧められる。新型TCRはバイクに必要なすべての要素を備えています。今私が乗っているのは最高グレードのモデルですが、どのグレードのモデルに乗っても乗りやすく、どんなレベルの人でも楽しめる素晴らしいバイクだと思います」。

2015年のブエルタ・ア・エスパーニャ第9ステージ。TCRでの忘れられない勝利だったと言う photo:Tim de Waele

ジロ・デ・イタリア2017での勝利、そしてツール・ド・フランス2018での総合2位とステージ3勝など、数々の輝かしい勝利をTCRで成し遂げてきたが、なかでもTCRの忘れられないエピソードとしてデュムランが挙げるのが2015年のブエルタ・ア・エスパーニャ第9ステージでのステージ優勝だ。それは落車からのステージ勝利という、難しい局面での走りだった。

「総合上位争いに絡んでいるとき、第9ステージで落車に巻き込まれてしまい、他の選手がバイクごと僕のTCRに突っ込んで壊れてしまい、仕方なくスペアバイクに乗り換えたんだ。多くの選手がそうであるように、僕はバイクに対してとても神経質なんだ。だからスペアに乗り換えたくはない。なぜならメカニックが同じポジションに合わせてくれていたとしても、どうしてもサドルが1mm高い・低い、ハンドルの角度が違うなど、どうしても完璧に同じにはならないから。その日は自分にとって簡単なステージだと思っていたけど、難しい日になってしまった。しかし乗り換えたスペアバイクで集団に復帰し、なんと最後にはフルームを抑えてステージ優勝してしまったんだ!」

台湾で楽しそうに新型TCRでのライドを楽しんだデュムラン photo:GIANT

ポジションやセッティングの違いによる違和感をすべて帳消しにして、さらに最高の走りへと導いてくれたTCRに対する信頼感が確かなものとなった一日だった。そのブエルタはステージ2勝を挙げ、総合6位で終えている。その日から「個人として最も強い男」というデュムランへの評価は高まり続けることに。グランツールでの快進撃の始まりだった。

最後にデュムランはこう付け加えた。「TCRは僕にとって特別なバイクというだけでなく、凄いバイクなんだ」。
提供:ジャイアント・ジャパン / text:So Isobe, Makoto AYANO