パリ〜ルーベの市民レース Paris Roubaix Challengeに挑戦したルコックスポルティフの井上大平さんの手記、後編。日本ではBGフィットを受け、前日はコース試走でパヴェを体験。準備万端に「北の地獄」へと走りだした。



いよいよレースを走る日がやってきた。感無量だ。メルクスもイノーもムセウも走ったコースを走ります。ボーネンとカンチェラーラが走るコースを走ります。アーレンベルグに突っ込みます。モンサン・ペヴェルで苦悶します。カルフール・ド・ラルブルで悶絶します。そしてヴェロドロームで笑ってみせます!

井上大平さんの乗るスペシャライズド Roubaix SL4 SPORT

井上大平さん(ルコックスポルティフ)とスペシャライズドROUBAIX  ルーベのヴェロドロームで撮影井上大平さん(ルコックスポルティフ)とスペシャライズドROUBAIX ルーベのヴェロドロームで撮影
タイヤには26Cサイズとして登場したTURBO 26を使用したタイヤには26Cサイズとして登場したTURBO 26を使用した ボトルには飲み口を埃から守る機構がついた「エイベックス ペコス」を選んだボトルには飲み口を埃から守る機構がついた「エイベックス ペコス」を選んだ サイドボタンをプッシュすれば飲み口がポップアップする機構がユニークサイドボタンをプッシュすれば飲み口がポップアップする機構がユニーク


このイベント、70km、141km、170kmと3つのコース設定があり、僕たちは141kmのコースを走る。コースはヴェロドロームをスタートし、一般道を迂回しながら舗装路で南下。セクター18のアーレンベルグからプロと同じコースを走って、再びヴェロドロームに戻ってゴールとなる。

ヨーロッパのイベントはどれもそうなのか、形式ばったスタートセレモニーなどなく、決められた時間内に各自が自由にスタートして行く。少し拍子抜けの感もあるが、かえってリラックスしてスタートできました。


薄暗く、霧の立ち込めるルーベをスタートしていく薄暗く、霧の立ち込めるルーベをスタートしていく 薄ら寒いルーベの街を抜けて目指すは約60km先のアーレンベルグ薄ら寒いルーベの街を抜けて目指すは約60km先のアーレンベルグ

決して順位を争うイベントではないけれど、一緒に出発したグループはかなりのペースで進んで行きます。でも、こんなに外人と一緒に走るのも初めてだったから、これがまた楽しい。

最初のエイドを過ぎてまもなく、急にみんなの顔が険しくなってきた。進行方向右側の景色が鬱蒼とした森に変わっていた。緊張感が高まってくるのがわかる。そう、まもなくセクター18! 夢にまで見たアーレンベルグだ!

見知らぬ各国の友人たちと言葉を交わしながら走る。楽しい見知らぬ各国の友人たちと言葉を交わしながら走る。楽しい アーレンベルグで記念撮影。憧れの場所についに来たアーレンベルグで記念撮影。憧れの場所についに来た

一気に突っ込む! つもりが、とりあえず記念撮影しないとね(笑)。パリ〜ルーベのパヴェのなかで最も悪名高いのがこのアーレンベルグだ。覚悟を決めて、バイクに乗って突き進む! 最初に登場するのがこのパヴェというのがなんともニクイ。疲れる前に走れるのは良いかも(笑)。

アーレンベルグに突入! ものすごい振動が襲うアーレンベルグに突入! ものすごい振動が襲う
夢のアーレンベルグだけに、パヴェの衝撃は苦痛でもあり、優越感と合わせて一種の快感すら覚えた。「オレは今アーレンベルグを走っている!」という優越感と、「痛い痛い。痛い痛い。痛い気持ち良い。気持ち良い痛い。気持ち良い気持ち良い!」という快感。(あっ、失礼しました。編集長、ここカットして下さい。えっ、カットできない? 仕方ないですね。でも、この気持ち、実際に走らないとわかりませんもんね。ええい、結構。恥ずかしいけど使って下さい!)

パヴェは次々と現れ、終わることがないように感じた パヴェは次々と現れ、終わることがないように感じた 
その後も、セクター17、16、15・・・とパヴェを突き進む。セクター10、モンサン・ペヴェルに辿り着くまでに3回のパンク。萎える気持ちを奮い立たせて、そのモンサン・ペヴェルへ。

まだ半分以上パヴェ区間を残しているのに、身体の色んなところがピクピクしはじめた。プロのレースでは勝負どころの一つになるこのパヴェ区間。2010年にはカンチェラーラがアタックを決めて、50kmもの独走に入った所でもある。それが脳裏にチラついたか、カンチェラーラ気取りで見知らぬ外人の参加者をチギって行く!

パヴェのブロックの間隔は深く、角は突き出している…パヴェのブロックの間隔は深く、角は突き出している…
はい、正直ここまでが何とか元気でした。ここから先のパヴェでは、ハンドルに手を置いているだけでやっと…。連続する強烈な振動で、腕全体が麻痺していた。次々に襲ってくる振動に、体全体が拒否反応を示している。しかも、最大の勝負どころ、セクター5、4、3を前にして、セクター6でこの日4回目のパンク…。

またパンク。空気圧を落とさなければ跳ねて走れないし、低圧にすればリム打ちするし…またパンク。空気圧を落とさなければ跳ねて走れないし、低圧にすればリム打ちするし… 「もうダメかも…。」

完全に心が折れた。今まで協力して下さったみなさん、本当にごめんなさい。もうお酒は飲みません。全うな人間になります。だから、今回はもう諦めます、許して下さい…。と思って顔を上げると、あっちにもこっちにも僕と同じ境遇の人がいっぱい居る。

「そうだよ、オレだけじゃないんだよ!」見知らぬ外人と励まし合いながら最後の気力を奮い立たせる。「ゴールしたら美味いビール飲む!」と、さっきの決心なんてあっさり忘れて、セクター4のカルフール・ド・ラルブルをやっとの思いでクリアして一路ゴールへ突き進む。

パヴェの沿道にはパンクに見舞われた人がたくさんパヴェの沿道にはパンクに見舞われた人がたくさん アーレンベルグ、カルフール・ド・ラルブルではパヴェ区間のタイム計測をしていたアーレンベルグ、カルフール・ド・ラルブルではパヴェ区間のタイム計測をしていた


そうそう、ここだけの話、編集長ったら酷いんだよ。僕が4回もパンクしている間に、どんどん先の方まで走って行ってしまうのに、可愛い女の子が困っていると助けてあげちゃったりするの(笑)。

ヴェロ・ド・ロームが見えた時、本当に感激した。スタートの時や試走の時には感じなかった、というより感じ切れなかった、とてつもない感動、感激!

やっぱりコースを走ってこなきゃダメだよね。アクシデント続きで、正直何度か降りようと思ったけど、やっぱり走り続けて良かった!そりゃそうだよね。だってプロのレースを観戦するだけで、それが夢だったのに、気付いたら色んな人に助けられて、自分がその夢の舞台を走ってるんだもんね!

昨日から気にかけてくれたMCのお兄さんが讃えてくれた昨日から気にかけてくれたMCのお兄さんが讃えてくれた 完走者に渡されるメダル。これは宝ものだ完走者に渡されるメダル。これは宝ものだ

慈しむように憧れのヴェロドロームを一周してゴールしました。
素敵なお姉さんも居たのに、ちっとも色っぽくないおじさんから記念のメダルを頂いて(笑)、編集長と記念撮影。

感無量で芝生に寝っ転がる。ルーベの空が祝福してくれた気がした感無量で芝生に寝っ転がる。ルーベの空が祝福してくれた気がした 走り終えてCW綾野編集長とポディウムに上がる。感激な瞬間走り終えてCW綾野編集長とポディウムに上がる。感激な瞬間


ここまで来たら最後まで、まだまだ楽しみます!2013年のカンチェラーラのように芝生に寝転んで、それからかの有名なシャワールームで汗を流して、それからそれから、イノーのプレートが付いた更衣室で着替えて、昇天(笑)。

ルーベ競技場名物のシャワールーム。生暖かいシャワーを浴びて埃を洗い流すのだルーベ競技場名物のシャワールーム。生暖かいシャワーを浴びて埃を洗い流すのだ 更衣室で着替えて、昇天。これがやってみたかった(笑)更衣室で着替えて、昇天。これがやってみたかった(笑)


「こんなに楽しんで本当に申し訳ない、申し訳ない」と念仏のように唱えながら、長いようで短い、夢のような1日が終わりました。さあ、コンピエーニュへ移動して、明日の、もう一つの「夢の1日」に備えます!

あっ、肝心なこと忘れてた。ヴェロドロームのフェンスに入ったロゴを見ればわかる通り、宣伝です。le coq sportifはParis〜Roubaixを支えています! 一応、言っておかないとね(笑)。

ルーベのヴェロドロームにはle coq sportifのロゴが入るルーベのヴェロドロームにはle coq sportifのロゴが入る




■取材アシスタントとなってプレスカーでプロレースを観戦!

長い長い戦いへと走り出していく選手たち長い長い戦いへと走り出していく選手たち (c)Makoto.AYANO4月13日(日)、パリ〜ルーベ当日。いよいよプロのレースだ。
観るだけなのに気合が入る。僕にとっては一生に一度になるかもしれない大事な週末。何年も何年も、ずっと心待ちにして来たからね。しっかりとこの目に焼き付ける。編集長も気合が入っている。そりゃそうだよ、編集長にとっては本業だもんね。いざ出陣です!

まぁ〜、あるはあるは凄いバイク!いゃ〜、いるはいるはテレビで観たことある選手!あっという間に編集長と離れ々々になって迷子状態に陥るものの、そんなこと全く気にも留めずにずんずん中の方まで入って行きます。

「ファンスーメレンだ!折れちゃいそうに全身細いな〜」
「あっ、サガンだ!絞れてて、意外と華奢に見えるぞ」
「ボーネン、笑ってるね〜!下馬評低いから、却ってリラックスしてそう」
「あらっ、ウィギンス!もみあげがくっ付いて髭になっちゃった」
「おぉー、カンチェラーラ! オーラが違うよ、オーラが。オ〜ララ。」
なんて具合に、かなり大きな声で独り言を言いながら歓喜しているうちに、選手たちが一斉にスタート!!

編集長と僕は次なる撮影ポイントを目指して車で移動です。撮影〜移動〜撮影〜移動を繰り返しでルーベ方面へ北上して行きます。

僕は編集長が運転する車の助手席でナビゲート。初めての場所でも、地図さえあれば何処へでも行く自信あるんだな。なので、編集長の全幅の信頼得て、セクター28の最初のパヴェ区間までビューっとご案内。

トラブルに見舞われた選手、サポートに急行するチームカーでパヴェの上はカオスだトラブルに見舞われた選手、サポートに急行するチームカーでパヴェの上はカオスだ (c)Makoto.AYANO
1km先に砂煙が見える。それがどんどん大きくなって僕のいる場所に向かってくる。テレビで観たことある光景だ!そう、プロトンがパヴェを爆走してくる光景だ! そして、あっという間に物凄いスピードで駆け抜けて行く。

身震いするほどの感動と衝撃で、カメラを握ったまま、シャッターを切ることができなかった。激しくも美しいプロトンの残像に酔いしれていたのも束の間、プロトンに巻き上げられた砂埃を頭からどっさりと被って咳き込んでいると、「次行きますよ!」と猛ダッシュする編集長の号令。

「凄すぎて、写真撮れませんでした。。。」と言う僕に、「写真は私が撮るから、しっかり観て下さい!」と編集長。

プロトンが突入することを待つアーレンベルグの眺め。異様な緊張感があるプロトンが突入することを待つアーレンベルグの眺め。異様な緊張感がある けたたましい音を立ててプロトンがアーレンベルグに突入してきたけたたましい音を立ててプロトンがアーレンベルグに突入してきた


なのでしっかり観させて頂きました、アーレンベルグ! みんな物凄い集中力で走っているのがわかる。チェーンが大きく上下に飛び跳ねている。ハンドルを握る腕は、残像がはっきり残るほどブルブル揺れている。
中段以降の選手は、実際は顔を引きつらせながら走っている。あのパヴェをあのスピードで走るんだもん、いくらプロでも怖いものは怖いんだろうね。まさに命掛けなんだよね。

カルフール・ド・ラルブルで激しい闘いを目撃したカルフール・ド・ラルブルで激しい闘いを目撃した (c)Makoto.AYANOファンの歓声、選手たちの激しい走り。現地で観るパリ〜ルーベは格別だったファンの歓声、選手たちの激しい走り。現地で観るパリ〜ルーベは格別だった (c)Makoto.AYANO


そして、終盤の勝負どころまでくると、さすがのプロでもとてつもなく消耗しているのがわかる。これぞワンデイレースの醍醐味。この1日のレースに全てを出し切っている姿を目の当たりにして感動しない訳がない。オメガファーマはチームとして機能していたようだけど、現場では優勝候補同士の消耗戦になっている印象だった。

正直、こんなに激しいとは思わなかった。ここ数年は、独走が決まったり、もしくはもっと絞られた人数で終盤を迎える傾向だったからね。セクター6とセクター4の通過順位が違っている。

「いったい何が起きてるんだ!」展開が激し過ぎる。編集長の運転も激し過ぎる(笑)。車体の底を、パヴェにガンガン打ちつけながら、我々と我々の車も消耗戦に入って行く。(レンタカーでよかった・笑)

どうやら先頭がゴールする瞬間は観れそうにない。テルプストラが勝ったことは車の中で知った。それでも我々はヴェロドロームへ急いだ。スタートからレースを追っかけてきて気付いたんだ。月並みな言葉だけど、このレースはゴールする全ての選手が勝者なんだよ! だから、みんなのゴールを見届けたいと、本気でそう思った。

ルーベ競技場に帰ってきたグルペット。暖かい歓声が包む。このレースならではだルーベ競技場に帰ってきたグルペット。暖かい歓声が包む。このレースならではだ (c)Makoto.AYANO
勝利したテルプストラにキスするガールフレンド。ヴェロドロームのなかでそれを観ることができた勝利したテルプストラにキスするガールフレンド。ヴェロドロームのなかでそれを観ることができた (c)Makoto.AYANOホコリまみれながら誇らしい顔をしてゴールする選手たちホコリまみれながら誇らしい顔をしてゴールする選手たち (c)Makoto.AYANO


只々、ヴェロドロームに帰ってくる選手たちを無条件に最大級の拍手で迎える。順位がどうであれ、全部出し切って倒れ込む選手や、プロコンチの選手は普段走れないカテゴリーの、しかもパリ〜ルーべということもあって、完走したことを素直に喜んでいる。どれもこれも、本当にすばらしい光景だ。

勝負に絡まない順位でゴールした選手も喜びをかみしめているのだ勝負に絡まない順位でゴールした選手も喜びをかみしめているのだ 完走したことを喜ぶプロ選手。他のレースではあまり観ることができないはずだ完走したことを喜ぶプロ選手。他のレースではあまり観ることができないはずだ


一生に一度のつもりでルーべの街まで来たけれど、こんな光景に立ち会えるなら、また毎年来ないといけなくなるね!「編集長、また来年もお願いしますね!」

以上 新ヴェロドロームのプレスセンターから記者気取りの井上がお送りしました。さあ、編集長、打ち上げ行きましょう!!

プレスルームにおじゃまして勝利者インタビューとプレスの仕事ぶりを観ることができたプレスルームにおじゃまして勝利者インタビューとプレスの仕事ぶりを観ることができた アシスタントのIDをもらって特別にプレスルームにも入れたアシスタントのIDをもらって特別にプレスルームにも入れた




■夢を叶えた余韻

終わりだと思ったでしょ? もう少し付き合って下さい。編集長との打ち上げを終えて、ホテルで一人、今回のすばらしい週末の余韻に浸る。とにかくパリ〜ルーべを走れたこと。こんなすばらしい経験は一生忘れない。また走りたいと思う。

確かに、日程的にも金銭的にも、そう簡単に行けるものではないけれど、もしこんなバカ文書を読んで少しでも興味を持ってもらえたら、是非皆さんも一生に一度のつもりで、思い切って現地へ行ってみることをお勧めします。是非走ってください。直にパヴェを体験してください。プロ選手の凄さがわかります。そして、どうぞご自身の目でレースを観てください。プロ選手の偉大さがわかります。自分の中の何かが変わります。その何かを楽しみに、僕はきっとまたかの地へ行くつもりです。

最後に縁があってご協力して下さった人たちにお礼が言いたい。
「本当にありがとうございました!」
怪我することなく、悶絶しながらも無事に走り切ることができました。

そして、ご一緒して頂いた綾野編集長。仕事よりも僕の面倒を見ることで手一杯だったことでしょう。大変お邪魔してしまいましたが、本当に感謝しています。是非、またご一緒させて下さい。ダメって言われても、付いて行きますけどね(笑)それから、最大級の感動を与えてくれた選手たちにも感謝しないとね。

ありがとう、選手たち!またヴェロドロームで会いましょう!!

文:井上大平(ルコックスポルティフ)

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