宮城で初開催されたJEROBOAMジャパン・グラベルチャレンジを走った唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)の参加レポート。グラベルイベント出場は初めて、しかも2日間で300kmを走る最難関カテゴリーへの挑戦。ロード&CXの第一人者が感じたのは苦しさの中の楽しさだった。

愛車はFELT FX+カンパニョーロEKARコンポ。サドルバッグなどを取り付けた愛車はFELT FX+カンパニョーロEKARコンポ。サドルバッグなどを取り付けた photo:Makoto AYANO
昨年からずっと興味があったグラベルレース。ユーチューブで海外のグラベルレースを漁っては観て、そのクレイジー過ぎるイベントに少しずつ引き込まれていきました。果てしなく続くグラベルを、昼も夜も漕ぎ続けるライダー達。時々牙をむく大自然。こんなイベントがあるんだな、と。

今年は本当はカナダで行われるTRANSROCKIES GRAVEL ROYALEというステージレースにFELTがメインスポンサーとなっているため、それに参加するつもりでいたけど、このご時世、断念せざるを得ませんでした。

そんな中、ジェロボームグラベルチャレンジの話を聞きました。驚くことに2日間で300kmも走るグラベルイベントが国内にあるらしい。これは走ってみたい、と思いました。

会場のペンションKamifujiでウェルカムディナーのパスタをいただく会場のペンションKamifujiでウェルカムディナーのパスタをいただく photo:Makoto AYANO
とは言え、グラベルレースに関して全く無知な私。装備の準備などもゼロから始めました。実際にサドルバッグやトップチューブバッグ、パンク修理セットなどの装備をバイクに装着してみて、バイク全体の重量の重さに驚きました。そして地元茨城で身近なグラベルを見つけて試走、本番を想定したライドを行って備えました。

ロードレースとシクロクロスがメインの私の場合、競技種目の特性からできるだけ軽量かつスピードに乗るバイクを好むので、全く違う分野なのだとわかりました。補給食などはドロップバッグというものを作って預けておけば、途中2箇所のチェックポイント地点で受け取ることができるので、多めに2セット準備して、とにかくハンガーノックにだけはならないようにしました。

酒樽のスタート台から走り出していく唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)酒樽のスタート台から走り出していく唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Seiko Meguro
楽しみ半分、不安半分で迎えた当日、朝5時スタートの300kmジェロボームクラスには11人の選手が集合しました。コロナ対策とスタート時の混乱を避けるためか、今回はタイムトライアルのようなスタート台が設置され、そこから一人ずつスタートする形式をとっていました。

もうひとりの女子参加者ケイトリン・フォードさん。グラベル経験豊富でアドバイスを色々もらったもうひとりの女子参加者ケイトリン・フォードさん。グラベル経験豊富でアドバイスを色々もらった photo:Makoto AYANO
霧雨が降って肌寒いなか、スタート。150kmクラスよりエクストラでトレイルが追加されたジェロボームクラスでは、走り出してすぐにグラベルの上りが始まりました。ウェットで、路面に落ちた木の枝が散乱しているグラベル。間もなくして、一人の参加者のリアディレーラーが壊れて立ち往生していました。木の枝を巻き込んだようです。

チェーンカッターを持っていないか?と聞かれましたが、運良く後続の参加者の一人が持っていたので、応急処置をして山を降りたようでした。私はパンク修理こそ何とかなるものの、それ以外のトラブルへの対処ができないので、いきなりメカニックへの不安を感じました。

天然林の美しい山中のグラベルを走る天然林の美しい山中のグラベルを走る photo:Seiko Meguro
泥や大きな水溜りがたくさんある区間で自転車も自分自身も泥だらけになって、登ったぶん下って、時々舗装路を走りました。時々景色がパッと開けて、絶景を目の当たりにしました。そのうちに晴れて暑さを感じ始めました。

スタートして3時間弱くらいかな。長いグラベル区間を上り続けて1回目のチェックポイントに着きました。とにかく自然と向き合う時間が続いていたので、おもてなしで気持ちが安らぎました。

晴れ渡る空が開ける林道からは広い山域が見渡せた晴れ渡る空が開ける林道からは広い山域が見渡せた photo:Makoto AYANO
チェックポイントではフルーツや甘いお菓子が用意されていました。天気予報で9時くらいから雨が降ることはわかっていたのに、その時は太陽が出ていて暑さを感じでいたので、自分のドロップバッグにレッグウォーマー、アームウォーマー、ベストを置いて軽量化して、疲れた身体に鞭を打って出発しました。同じことをした参加者が何人かいたようです。

それからしばらくして、天気予報通りに雨が降り始めました。山の中の雨は冷たく、身体が冷え冷えになり、チェックポイントにウエアを置いていった事を後悔しました。今思い起こせば、サドルバッグの中にレインジャケットが入っていたのに、その事すら忘れていました。

鳴子温泉に向かうまでのグラベル区間はとても長く感じて、実際体力も削られました。段々と絶景にも慣れてしまって、感動も薄れていき、ただペダルを漕ぎ続ける時間が続きました。鳴子温泉を過ぎてからは、舗装路区間が多く、ひたすら距離を積んでいきました。そのうちに雨も止み、走りやすい気候になりました。

舗装路では先頭交代でハイスピードを保つ舗装路では先頭交代でハイスピードを保つ photo:Makoto AYANO
2回目のチェックポイントではあまり食べ物をうけつけなくなってしまっていて、エネルギーゼリーだけ摂取して、トイレを借りて、ゴールを目指しました。

そこからは向かい風区間が多く、平地なのに全く進みませんでしたが、とにかくペダルを漕ぎ続けて13時49分に無事にゴールに辿りつく事ができました。じつに8時間弱の長旅でした。

活用されている林道だけにこんなトラクターが通ることも活用されている林道だけにこんなトラクターが通ることも photo:Seiko Meguro
1日目は完走。しかし完全に無事というわけではなく、私の愛車はメカトラに見舞われていて、パーツ交換をしなければ走れない状況になっていました。雨と泥、そのなかでの長いダウンヒルでディスクブレーキのパッドがすっかり無くなるぐらいにすり減ってしまっていたのです。予備のディスクパッドを持参しておらず、2日目はシクロワイアードの綾野さんの大切なバイクを借りて出走する事になりました。ラッキーな事に綾野さんと私のポジションはほとんど同じで、お借りした状態でそのまま乗っても全くストレスを感じませんでした。

そういえば、2001年に北海道で行われた全日本選手権ロードレースの時もメカトラしてしまって、走行不能だったところにたまたま取材でコース上を自転車で移動していた綾野さんがいらしたので、自転車をなかば奪って、DNFを免れたことを思い出してしまいました。綾野さんも撮影で動くための自転車が必要だったでしょうに...。私ったら20年経っても同じ事をしていますね。

2日目を走るのは11人のエントリーに対して7人のみになった2日目を走るのは11人のエントリーに対して7人のみになった photo:Makoto AYANO
そんなこんなで何とかスタートラインに立てた2日目。疲れているのに、一緒にまとまったグループはかなりのスピードで飛ばす。最初の舗装区間は40km/hを超える時もあり、先頭交代をして良いペースで進む。もうみんな、頭も身体もバグっているらしい(笑)。

長すぎるグラベル区間も、もう長い事は認識しているのか精神的ダメージも感じなくなって、ただひたすらゴール目指して突き進むのみ。苦しさもあるけど、ゴールまで辿り着けそうな自分にテンションが上がる。

2日目の初っ端は薬莱山に登るヒルクライム2日目の初っ端は薬莱山に登るヒルクライム photo:Makoto AYANO
チェックポイントに着いたら自家製チーズケーキと淹れたてのコーヒーでおもてなしをしてくださるスタッフさん。山の中に現れた本格的なカフェに長居したかったけど、小雨が降り始めて身体が冷えてしまったので、早々に出発しました。

まとまった人数でグループを組んでグラベルを走るまとまった人数でグループを組んでグラベルを走る photo:Makoto AYANO
優しい山容の薬莱山を眺めながらひた走る優しい山容の薬莱山を眺めながらひた走る photo:Makoto AYANO
終盤のヒルクライムでは雨も降り出した終盤のヒルクライムでは雨も降り出した photo:Makoto AYANO
青野川沿いのグラベルは日本離れした絶景の道だった青野川沿いのグラベルは日本離れした絶景の道だった photo:Makoto AYANO
そこからもアップダウンや長く険しいグラベル区間は続くものの、ゴールまで50km弱だったのでハンガーノックにならないように気をつけながら走って、フィニッシュ!

スタートした時は終わりが見えなかった長い道のりも、一緒にゴールを目指す仲間たちの存在や地元の方々の親身なサポートのおかげで、大きなトラブルもなく終わりを迎えることができました。

300km走ってフィニッシュ。過酷だったけど晴れ晴れした気持ちになった300km走ってフィニッシュ。過酷だったけど晴れ晴れした気持ちになった photo:Makoto AYANO
終わってみて感じたこと。今回はシクロクロスバイクで参加しましたが、やはりグラベルイベントにはグラベルバイクが必要だな、と実感しました。グラベルでは、シクロクロスのような俊敏性よりも長く安定して走らせる要素が強いことと、もう少し太いタイヤを履かせたいことなどからです。その他にもグラベルイベントを走るにあたり、機材や気候への知識など、足りていない部分がたくさんありました。もちろんエンジンもグラベルライダーになりたいならグラベル用に変えていかなければなりません。

また国内でもこのような素晴らしいロケーションがあることに驚きました。今後、グラベルイベントが日本でも根付いて、誰でも挑戦できるジャンルになってくれることを願うし、実際そうなるだろうと思いました。

唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)