過去最高の平均時速をマークした第115回ミラノ〜サンレモは、ポガチャルの登坂アタックに耐えたスプリンターの争いに。ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)がマシューズを退け、モニュメント初制覇を果たした。



初制覇に臨むタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

集団の先頭でスタートの時を待つファンデルプール photo:CorVos
ミラノ〜サンレモ2024 コースプロフィール image:RCS Sport


UCIワールドツアーが開幕して2ヶ月が経った3月16日(土)、今年のモニュメント(5大クラシック)の初戦かつ、イタリアに春の訪れを告げるミラノ〜サンレモが開催された。別名「ラ・プリマヴェーラ(イタリア語で春)」とも呼ばれる第115回目大会が午前10時、気温16度の中スタートが切られた。

ミラノから南に30kmほどにあるパヴィーアを出発した選手たちは、ビブショーツまで白いアルカンシエルで身を包んだマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)を先頭に走り出す。そして288kmと長距離レースは序盤に、ポルティ・コメタとコラテック・ヴィーニファンティーニがそれぞれ3名を送った計11名の逃げグループが形成された。

一方のメイン集団はシルヴァン・ディリエ(スイス、アルペシン・ドゥクーニンク)が先導を開始する。ファンデルプールの2連覇を狙うのはもちろんスプリントならばヤスペル・フィリプセン(ベルギー)でも勝負できるアルペシンは、内陸のロンバルディア平原で逃げ集団に3分以上のリードを許さないタイトなコントロールを見せた。

ポルティ・コメタとコラテック・ヴィーニファンティーニがそれぞれ3名を入れた逃げは11名 photo:CorVos

上下白のアルカンシエルで今季初レースを迎えたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

スタートから約100km進んだ辺りで自身初のモニュメントに臨む留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)がカルロス・カナル(スペイン、モビスター)と落車するトラブルが発生する。しかし留目はすぐにプロトンに戻り、エースであるアルベルト・ベッティオル(イタリア)のアシスト業務を遂行。そして残り149.7kmのトゥルキーノ峠を越え、温かい日差しの差すリグーリア海沿岸に達した。

選手たちはロンバルディア平原を離れ、太陽が照らすリグーリア海沿岸に到達 photo:CorVos

10名になった逃げグループは2分半の差を維持し、メイン集団ではアルペシンの牽引にリドル・トレックが加勢する。また残り51.6kmから始まる「トレ・カーピ(3つの岬)」が近づくにつれ、イネオス・グレナディアーズやボーラ・ハンスグローエ、ジェイコ・アルウラーなども集団の先頭でペースメイクに参加。そしてトレ・カーピの1つ目の丘であるカーポ・メーレ(51.6km)で優勝候補筆頭であるタデイ・ポガチャル(スロベニア)を擁するUAEチームエミレーツが、早くも集団の絞り込みに入った。

このペースアップにはワウト・ファンアールト(ベルギー)不在のヴィスマ・リースアバイクでエースを託されたクリストフ・ラポルト(フランス)をはじめ、10年前の2014年覇者であるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)などが脱落する。そして逃げから遅れていく選手を飲み込みながらプロトンは、一つ目の勝負所であるチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)に突入した。

チプレッサでプロトンのペースを上げるイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

フィニッシュまで残り21.7km地点でピークを迎えるチプレッサでは、イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツ)が先頭で一気に集団の速度を上げていく。頂上を越える頃に逃げとのタイム差は12秒まで縮まり、アンドレア・ピエトロボン(イタリア、ポルティ・コメタ)とセルヒオ・サミティエル(スペイン、モビスター)が下りで落車するシーンもありながら、リドルに先導が代わったプロトンが逃げを捉えた。

ポッジオまでの平坦区間に入るとペースは落ち着き、その隙を突くように先ほどまで逃げていたダヴィデ・バイス(イタリア、ポルティ・コメタ)が単独アタックする。それをチプレッサで遅れ、メイン集団に復帰したジョナサン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)がバイスをキャッチ。そしてプロチームのチューダー・プロサイクリングを先頭にポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)に入る。

このレース最後の難所、ポッジオではミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)からティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツ)に移るペースメイクにより集団は約35名まで減少。そして頂上手前1km、最大勾配8%の区間で遂にポガチャルが動いた。

ポッジオで仕掛けたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)に追従するマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

その加速にはファンデルプールが反応し、更にベッティオルやフィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)も続く。そのため一度ペースは緩み、そのカウンターで仕掛けたヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー、リドル・トレック)も決定打に欠くなか、頂上まで200m地点からポガチャルが2度目の飛び出しを見せた。

ストゥイヴェンらが反応が遅れ引き離されていく一方で、集団の中に埋もれるファンデルプールは一拍おいてから猛スピードでチェイスし、ポッジオの登坂記録を更新(5分39秒)したポガチャルをキャッチ。更に世界トップレベルのダウンヒルテクニックを披露したトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)とマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が下りで合流し、後続集団にはチプレッサとポッジオの登りを耐えたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)とヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)の姿もあった。

ポッジオの下りで飛び出したマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

下りアタックを決めた2022年大会の再現をモホリッチが狙ったものの、フィリプセンのスプリント勝負に作戦を切り替えたファンデルプールがそれを潰す。続いて12名の精鋭集団からマッテオ・ソブレロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)がシッティングのまま加速し、スプリントでは勝ち目のないピドコックがジョイン。ソブレロとピドコックはフィニッシュ手前1kmの緩いS字コーナーを先頭で通過した。

しかしここもファンデルプールが追い、力尽き遅れるのと同時に今度はピーダスンのためにストゥイヴェンがペースアップ。そしてピドコックを捉えるのと同時にスプリントの幕が開け、ピーダスンとフィリプセン、そして悲願の初優勝を目指すマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)がペダルを踏み込む。

フェンス左側でフィリプセンとマシューズが並ぶなか、スピードを失ったピーダスンと入れ替わるようにポガチャルが迫る。しかし先頭をいく2人には届かず、懸命にハンドルを投げたマシューズをフィリプセンが僅かに上回った。

ハンドルを投げるポガチャルとマシューズとフィリプセン photo:CorVos

勝利を告げられ、喜ぶヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

過去最速となる平均スピード46.133km/hをマークする高速レースを制したフィリプセン。「アタックを潰してくれるマチュー(ファンデルプール)の存在が大きかった。スプリントに持ち込んでくれた彼に感謝したい。僕らと同じく(集団に)2人を残していたリドルを警戒していた。300kmを走った最後のスプリントはとても変な感覚がして、脚が爆発してしまいそうだった。そんな中マシューズよりも5cm先にフィニッシュすることができた。とても嬉しいし、まだ実感が湧いてこないよ」と、フィリプセンはモニュメント初制覇を喜んだ。

アルペシン・ドゥクーニンクが2年連続の勝利を喜ぶ一方で、マシューズは2015年(3位)、2020年(3位)に続く自身3度目の表彰台へ。「(自身最高位の2位は)ビタースイートな結果。モニュメント制覇まであと数cmという事実をすぐに受け入れることは難しい。だが体調不良だった先週からの回復を考えると、この結果も誇りに思うことができる」と語っている。

ミラノ〜サンレモ2024表彰台:2位マイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)、1位ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)、3位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos


3位にはフィリプセンとマシューズとも仲良いポガチャルが入り、表彰台で満面の笑みを作る。またベッティオルの5位入賞に尽力した留目は、4分40秒遅れの94位でモニュメント完走を果たしている。

選手の詳細なコメントは別記事にてお伝えいたします。
ミラノ〜サンレモ2024結果
1位 ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) 6:14:44
2位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)
3位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
4位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)
5位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)
6位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)
7位 マキシム・ファンヒルス(ベルギー、ロット・デスティニー)
8位 ヤスペル・ストゥイヴェン(ベルギー、リドル・トレック)
9位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)
10位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)
94位 留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト) +4:40
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

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