チェーンリングの巨大化が止まらない。もはや山岳ステージにおいてもアウター54Tが基本で、55T、56T、さらには58Tを回す選手まで。ツール・ド・フランスの現場で、トッププロがどのようなギアを使っているかを見て回った。



最も使用率が高いシマノDURA-ACE。フロント54/40Tが基本となるが、さらに大きなギアを求める声が多いという photo:So Isobe

ツール・ド・フランスのパドックを見て回って気付くのが、巨大なチェーンリングを使う選手が多いことだ。

最もシェア率の高いシマノはもちろんのこと、スラムやカンパニョーロ、ローター、FSAなど、ありとあらゆるブランドが(市販品には存在しないギアも含めて)ビッグチェーンリングを供給。高速化の一途を辿るプロレースは、一般ライダーから遠くかけ離れたギアセッティングを現実のものとしている。

例えば第7ステージは後半に入るまでレース平均速度が主催者予想を遥かに超え、例え山岳ステージであっても序盤の平坦区間は非常に高速。スピードが上がりきったまま突入する登りにもビッグチェーンリングへのニーズが高いようだ。

カンパニョーロを使うAG2Rシトロエンは54/39Tが基本 photo:So Isobe

一部選手がカーボン-Tiのチェーンリングを使うUAEチームエミレーツも54/40T photo:So Isobe
イスラエルとEFはFSAのチェーンリングを使う。やはり54/40Tが基本だ photo:So Isobe



シマノチームは11-30Tと11-34Tのカセットをステージに応じて使い分ける photo:So Isobe

プロトン内の一般的なギアチョイスはフロント54/40T。シマノがR9200系DURA-ACEの市販ラインナップに加える最も大きな歯数であり、これはR9100シリーズで53/39Tだったものを、レースの高速化に合わせてR9200シリーズで歯数を1つずつ大きくしたもの。一般的な完成車パッケージに搭載される52/36Tはプロトンに存在せず、FSAを使うEFエデュケーション・イージーポストやイスラエル・プレミアテックは54/40T、カーボン-Tiを使うUAEチームエミレーツも54/40T、ローターを使うアンテルマルシェは54/39T、カンパニョーロを使うAG2Rシトロエンも54/39Tとやはりアウター54Tを標準装備している。

ただし、複数チームのメカニックに話を聞くと「今はクライマーであっても54Tが基本。スプリンターやルーラーはもっと大きなギアを欲している」という意見が大多数を占める。シマノはR9200系のデビュー当初こそプロ専用のビッグギアを供給していたものの、現在では製作されていないのか、今ツールでは限られた選手が使っているのみ。各チームからは56Tなどより大きな製品版の登場が望まれているようだ。

エルマール・ラインダルス(オランダ、ジェイコ・アルウラー)のバイクに組み込まれた56/44T photo:So Isobe

ペテル・サガン(スロバキア、ディレクトエネルジー)のバイク。先代DURA-ACEを装着する photo:So Isobe

サガンは平坦ステージで56/44Tを使用 photo:So Isobe
同じくトタルのボアッソンハーゲンの駆るバイク。55/42Tを普段使いする photo:So Isobe


アウター56Tを踏むミケル・モルコフ(デンマーク、スーダル・クイックステップ) photo:So Isobe

一方、トタルエネルジーは「供給が間に合っていないし、先代であっても何も性能に問題がない」と全選手が11速のR9100シリーズを使用中。55/42Tを基本に、ペテル・サガン(スロバキア)は平坦ステージで56/44Tを装備。ビッグチェーンリングが豊富に使えることも11速に留まる理由でありそうだ。

ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・ディステニー)のギア photo:So Isobe

ローターの58/44Tギアを運用。トップギア比は5.27だ photo:So Isobe
パワーメーターと干渉する部分を切り取っている photo:So Isobe



プロトン最大のビッグチェーンリングユーザーは元アワーレコードホルダーのヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・ディステニー)で、ローター製の58/44T(トップギア比5.27)を装備。シーズン序盤は内装2段変速のクラシファイドハブとフロントシングルギアを組み合わせていたが、このツールでは他選手とのホイール互換性を踏まえてフロントダブルに落ち着いている。4iiii製パワーメーターと干渉する部分はメカの手作業で切り取られ、クランクとチェーンリングの段差を埋めるパーツも無しと、かなり急ごしらえ感の強い仕上がり。

スラムはトップ10T。チェーンリングは52/39Tがベーシック photo:So Isobe

こちらはマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)のバイク。アウター54Tでトップギア比は5.4に及ぶ photo:So Isobe

スラムのRED eTAP AXSを使うリドル・トレックやモビスターは52/39Tが基本だが、トップ10Tのカセットを使用するため実質的なギア比はシマノより大きな数字になる。マティアス・スケルモース(デンマーク)はスラムが当初プロ用に製作し、のちに市販化された54/41Tを使う。トップギア比は5.4と、フロントダブルを使う選手の中では最大だ。

マイヨジョーヌを着たジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)の山岳セットアップ photo:So Isobe

アウターは54Tのまま、インナーを36Tに変更している。登坂の厳しいステージでは多くの選手がこの組み合わせを用いる photo:So Isobe

一方、速度の落ちる山岳ステージでは、アウターリングはそのままにインナーリングを小さくする場合が多い。例えばシマノ使用チームの場合、54/40Tのインナーを36Tに変更して対応。リアは全ステージを通して11-30Tと11-34Tを使用していた。

次章では、ユンボ・ヴィスマとリドル・トレックが積極的に運用しているフロントシングルについて取り上げます。

text:So Isobe in Clermont-Ferrand, France

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